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ルッキズム狂想曲〜哀しき女達の場合〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・雅の場合〜あなたのすべてが美しい〜

 カワイイに正解なんてない。


 それって本当?


 佐々木雅は考える。現在高校二年生。制服のスカートも最近きつく、クラス内での容姿格差みたいのにも悩んでいた。特にクラスメイトの綾乃はインフルエンサーもやっていたし、小顔でお人形みたいに美人。


 そんな折、学校の最寄りに駅に化粧品会社の広告がずらっと貼られていた。


 何か意識が高い広告でアンチルッキズムも掲げていた。「カワイイに正解なんてない」という広告コピーがあったが、同時にルッキズムを助長する言葉も並べてあり、雅はそれを見て顔が引き攣った。


 怖いもの見たさで、そんな言葉を検索。


 検索して後悔した。自分はその基準から外れてる。つまりブスか。コンプレックスだけ刺激されてしまう。もはや広告のメッセージである「カワイイに正解なんてない」という言葉など目に入らない。代わりに電車内にある二重や小顔の美容整形の広告ばかり見てしまう。


「は? 整形したい?」


 思わず美容整形医院に向かったが、まずはカウンセリングを受けさせられた。井崎京子というアラフォーの女性がカウンセラーだった。


 カウンセリングルームは居心地がいい。アロマの良い匂いもする。ついつい自分よりだいぶ歳上の井崎京子に悩みを告白してしまったが。


「あなた、本気? 私のようなアラフォー女からしたら、その肌、髪、体力も全部羨ましい」


 ちょっと冷たそうな井崎京子だったが、こうして語る姿は気さく。意外と気のいいおばちゃんというか。


「そうですか?」

「こればっかりは失ってみないと分からない。私もね、これから皺だらけのお婆さんになっていくのは、正直怖いけど、最近特効薬を見つけたたのよ。ある意味若返りの薬かも」

「え、なんですか? それは」


 雅は食いついた。


「それは聖書よ」

「は? 聖書?」


 肩透かしをくらった気分。歴史の授業では聖書を扱うキリスト教はとても印象が悪かった。ザビエルもあっけなく日本人に論破されていたし。


「聖書では人間の顔や外見も神様が創造したというわ。全能の神様があれこれ悩んで人間のルックスも決めたそうよ」

「へ、へえ……」


 だったら綾乃と同じように世間一般受けするルックスにしてくれたらいいのに。


「でも美人はある意味大変かもよ。なんせ気持ち悪い男に好かれたら、生き霊みたいな念も飛んでくるんですって。聖書的にはそれはあまり良くない事らしい。内面を無視して着飾る事も否定的だしね。それに本当に愛してる相手なら欠点も可愛いもんに見えるんだよな」

「へ、へえ……」

「神様はあなたのすべてが美しいと語る。私は、これが正解だと思ってるけどね。まあ、私の個人的な意見よ」


 そう言われてもいまいちピンとこない。


「実際読んでみたら良いわ。特にこの雅歌ってところ」

「雅歌?」

「あら、あなたの名前と少し似てるわね」


 井崎京子は鈍器のように分厚い聖書を見せてくれた。あまり乗り気ではなかったが、その雅歌という所をチラッと読んでみたが……。


 雅の顔は真っ赤に変わっていた。十八禁レベルで花嫁の姿を細かく褒める言葉が並ぶ。なぜか自分に言われているような気がし、恥ずかしくたまらない。思わず下を向く。


「あ、あの。聖書って清い書物ではなかったんですか? 良くも悪くもギャップがすごいです。まるでこれは……」


 それ以上は敬虔な宗教家に怒られそうで何も言えないが、闇に堕ちそうだったルッキズムの悩みは、忘れてしまっていた。

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