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ルッキズム狂想曲〜哀しき女達の場合〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・春乃の場合〜求めよ、さらば与えられん〜

 もう死ぬしかないと考えていた。


 春乃はいわゆる貧困老人。様々な不幸が重なり、働けず、今の全財産は三百円だった。


 持病もあり、働きたくても働けないのだ。年金も雀の涙。スキルもなく、フルタイムでの労働も無理。パートの面接にすら辿り着けない。家族も親戚にも頼れず、遺書を書きあげたところ。


 電車に飛び込むつもり。ホームに立ち、その機会をうかがっていた。


 ここまでの決断に至った引き金があった。ネットの炎上を見た。インフルエンサーが「生活保護やホームレスは生きる価値なし」という発言で炎上していた。


 最後の砦で福祉事務所に行こうと思ったが、できなかった。生きる価値ない。お金を稼げないのは悪。働きアリになれない。だとしたら死ぬしか無いじゃないか。偶然見てしまった炎上だったが、春乃の心は死へと向かわせた。


「おばあちゃん、飛び込むのは辞めて!」


 飛び込もうとした瞬間、誰かに腕を引かれた。強く引かれてしまい、飛び込めなかった。


 若い女だった。助けられたわけだが、反射的に怒りそうになる。邪魔されたと思ったから。


 この若い女は福祉関連の仕事をしているという。自分も失敗が重なった時、生活保護を受けたが何とか生活を立て直したと語る。今はケースワーカーとして生活困窮者の支援をしているらしい。一緒に役所の福祉事務所に行くことに決まってしまう……。


「支援を受ける事は恥ずかしい事ではないです。誰でもそうなる可能性がありますよ。この世は努力ではどうにも出来ない事ってあるんですから」


 事情を話すとこう言われた。


「しかも生活保護って別に財政も圧迫してないですし、不正受給もほとんど無いです。我々もちゃんと仕事していますから。ネットができるなら、こういったインフルエンサーの炎上マーケティングではなく公の情報も見てほしいな……。生活保護叩きなんてしてるのは情弱か変な陰謀論などでしょう」


 女は丁寧に生活保護の財政の仕組みや福祉の歴史や役割などを教えてくれた。事実を冷静に話してくれるので、春乃も役所に行き、支援を受ける事に抵抗がなくなった。むしろ、勝手に自分を追い込み、最悪な選択をしようとしていた事が恥ずかしくなってきた。


「だから困った時は声をあげてください。求めよ、さらば与えられん」

「何それ?」

「さあ? 誰かの格言だったかな。とにかく困ったら、求めましょう。声をあげなきゃ。私たちも困ってる人を見つけられないんです」


 女は優しい笑顔を浮かべていた。


 確かに支援を受ける事には全く抵抗が無いわけでもない。それでも時には声をあげる事も必要だと思わされた。


「助けてって言っていいの?」

「もちろん。ただ貧困ビジネスなど悪い狼も多いですから、そこは気をつけて。さあ、役所につきました。一緒にいきましょう」


 今はもう肩の荷がおりていた。少しだけなら甘えても良いのかもしれない。


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