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ルッキズム狂想曲〜哀しき女達の場合〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・華子の場合〜エステル妃〜

 努力すれば何とかなる。


 それが華子のモットーだった。実際、若干二十五歳ながら、会社を経営し、自己啓発セミナー講師もやっていた。


 ちなみに華子は幼い頃に軽度発達障害だと診断された事はある。特性で困った事は少なくはない。月一回ほど通院はしているが、今は稼いでいるので、手帳は返納していた。同じ障害の人では、年収も七百万以上あるにも関わらず年金をもらっている者もいるらしい。確かに合法。法律の穴をついているわけだが、さすがに弱者への福祉を奪うのは、人としてはやっていけない事だと思っていた。


 そんな華子だったが、最近不運ばかり。地震や台風の影響で経営しているジムや飲食店が潰れた。それだけでなく、父親が交通事故にあい、介護をしなければならなくなってしまった。華子の母、兄は蒸発してしまっているので、華子がその役目をするしかなかった。


 正直、介護のような細やかな気配りが必要な仕事は、苦手。ミスを連発し、父親には怒られるし、火傷や細かい傷も絶えない。


 そんな自分のボロボロな手を見ながら思う。


 努力でなんとかなる問題は実はかなり少ないのかもしれない。父親の介護は失敗続き。仕事も上手くいっていない。


 今までは、自分の努力を誇り過ぎていた。まるで自分が神のようになり、同業者の失敗を裁いたりもしていた。


「ああ、何もかも思い通りにいかない。努力が結びつかい……」


 そう泣き続ける日々だったが、実家のリビングに聖書が置いてあるのの気づいた。華子はクリスチャンなどではないが、父親は終活をしていて各種宗教も調べていたらしい。他にも仏典や宗教関連の書物が置いてあった。


「聖書か」


 あんまり興味はないが、同業者の中ではなぜか聖書を読んでいる人が多い。不思議な事に宗教の入っているものも多い。確かの宗教のコネで仕事を得ているものもいるが、それだけじゃないというか。


 華子のような仕事は、公務員や会社員のように安定はない。故に努力以上の見えない力のようなものをリアルに感じているものも多いのだろう。ゆるふわなスピ好きというより、ガチで信じている感じだ。同業者では神棚を拝んだり、神社参拝が習慣化しているも多いといると聞いたことがある。


「見えない世界か……」


 という事で「宗教キモい」と一概には言えず、聖書をペラペラとめくる。ブルーの表紙の新改訳聖書というものだった。


 ページ数も分厚く、文字も小さい。決して読みやすい書物ではなかったが、旧約聖書のエステル記が気になってきた。孤児の少女は王様に見そめられ、ユダヤ人を救い、最終的には敵をザマァする。


 筋書きだけだったら御伽話や女性向けのライトノベルのような感じもするが、この妃は自分の努力や美しさ、立場を誇ったりしていない。


 意外と聖書は現実的。特に旧約聖書は「人は神にはなれない」という現実が、生々しいほどに記録されていた。


「何だか目が覚めちゃう。自分の努力を誇ったり、今までは傲慢だったかもなぁ……」


 相変わらず宗教は好きではない。聖書を読んだからといって今の現実も変わったりもしないだろう。


 それでも地に足がつくような感覚がした。今の状況も、ある意味すっきりと受け入れられそう。


 そう、人は所詮神様にはなれないのだから。いつの間にか華子の傲慢さも砕けていた。


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