番外編短編・AIアイドルアイコちゃんの憂鬱
可愛いは作れる。
確かそんなキャッチコピーの広告が流行った記憶があった。昔の平成時代の事だが。服部は、平成時代に青春を過ごしたおじさん。今は四十五歳になる。
今は主にAIアイドルアイコちゃんのプロデュースを手がけていた。元々アイドルのマネージメントの会社にいたが、数年前からAIを使い「架空のアイドルプロジェクトを続けていた。
アイコちゃんは、永遠の十八歳の美少女アイドル。歌やダンスも天才的に上手い。SNSなどの発言も全てプログラミングされているので、炎上もスキャンダルもない。ギャラも格安にし、企業からの依頼も相次いだ。
こんな可愛いアイドルをおじさんである服部がプロデュースしているのは、なんとも皮肉がきいている。まさに可愛いは作れる。こんなおじさんでも作れるというのは、夢もある話ではないか。
ところが、最近はアイコちゃんの人気が落ちてきた。原因は全く不明。スキャンダルや炎上があったわけでもない。キレイキレイなAIアイドルなのに? 何故?
謎を解くため、アイドルヲタクを対象にアンケートを実施した。
アンケートに結果を見る限り、どうもアイコちゃんは優等生すぎてつまらないらしい。
・ハラハラドキドキしない(三十代男性)
・キレイすぎる(四十代女性)
・一瞬一瞬を応援する希少価値がない。永遠に老けないのは良いけれど、有限さ故の煌めきが無いというか(十代男性)
・たまにはスキャンダルや炎上があっても楽しいと思う。飽きた。(三十代女性)
・痛さが足りない(二十代男性)
こんな意見を見ていると、人は完璧だから愛されるわけでも無いと感じてしまう。本当に完璧なものが正義なら、株価ももっと読みやすかったのかもしれないし。
こんな結果を見ながら、服部は頭を抱える。
職場のテレビでは、平成の歌姫だった歌手が歌っているところが流れていた。名前は亜美。平成時代はかなりの人気歌手だったが、今は「劣化中の痛いババア歌手」という評価だったが。
「行くところの無い私に手を差し伸べてくれた、それはあなただけ〜♪」
亜美の歌声が響く。
思春期の少女が持つような「痛さ」を表現された曲だった。確か平成時代にとてもヒットした曲だが、令和の今出しても決して流行らない雰囲気だ。
アイコちゃんのキレイさ、優等生さとは全く逆方向のタイプ。歌唱力やダンスもうまくはない。それでも「痛さ」を表現する声、表情、歌詞に目が離せなくなっていた。
これが人間にしか歌えない曲か。そんな風にも思う。確か亜美は優等生タイプでもなく、業界では評判が良いとも言えないが、歌だけは心を打つ何かはある。
この何かはAIで表現できないか。
「まあ、それは無理だわな」
服部はため息をついた。これからもキレイキレイなアイコちゃんを永遠に作り続けなければならない。そんな義務感だけがあった。




