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第三話 修子の場合〜努力〜

 努力。


 修子はこの言葉が好きだった。何しろ、努力すれば大抵の事はどうにかなったから。


 教員の娘として生まれた修子は、勉強は嫌いではない。むしろ学べば学ぶほど成果がでて、のめり込んでいった。


 小学生や中学生の頃は、正直、勉強ができない人間を見下していた。成績が悪いのもやる気が無いからにしか見えない。怠け者、ヤンキー、バカだと心の中で見下していた。


 高校からは進学校に入り、馬鹿は視界に入らなくなった。


 毎日毎日勉強漬けの毎日だったが、修子は全く不満がなく、順調に成績を上げていった。


 そして医学部に進学し、女医にもなった。親や親戚はこの結果に泣いて喜んだ。


 医者の仕事は大変だったが、総合病院の内科医になり、そこそこ満足した生活を送っていた。


 ずっと勉強や仕事漬けだったので男には縁はないが、自分より馬鹿で収入の低いものは興味はない。お金も名誉もあるし、結婚しなくても何も困らない。


 そんな幸せな生活をしていたが、2028年に一変した。


 加熱するルッキズムに伴い、美人税が導入され、ブスは障害者認定される世の中になった。


 美醜に基準は全てAIに判断される。今は政治もAIが決めているし、医者も診断に利用していた。さすがに手術は人間の手で行われるが、医者の地位や年収も年々下がっていた。外科医はともかく、修子のような内科医もだんだんと需要が減っていたのだ。


 障害者認定に伴い、修子も都合よく職場から追い出された。


 努力で達成できない事もあると知る。


 タイミングが悪い事に中学の同窓会があり参加すると、過去見下していたものも家族を持ち、しっかりと大人になっていた。


 また虐待を受け、ろくに勉強できる環境になかった同級生もいた事も知り、自分思う「努力」は「運」だったのでは無いかと気づいてしまった。


 今はルックスが悪いと障害者認定を受け、仕事もなくなった。これを理由に体良くリストラにあったわけだ。


 大好きだった努力も、環境や時が悪ければ何の意味が無いのかもしれない。つまらない。何か世界が急に色褪せて見えてきた。意外と起業家が宗教やスピリチュアルにこだわっている理由も努力ではどうにも出来ない事があると知っているからかも知れない。


「という事で私は整形をしたいのです」


 ある美容整形外科に行き、井崎京子というカウンセラーに全てを話していた。


「こうして美容整形する事も一種の努力だと思うんですよね」


 内心ではこうして整形できるのも「運」だと思っていたが、なぜか京子に語る言葉は違うものになっていた。


「正直、整形といっても遺伝子が全てなんですよねえ」


 京子は整形の失敗例の写真を見せてきたが、今はなぜか不安もない。


 努力でどうにも出来ない事に立ち向かう。


 初めてコレだけで超えられなさそうな大きな試練も感じて、怖いけれど、退屈な日常から離れられるようで楽しくなってきた。


 例えそれが整形だとしても。


 京子の胸はドキドキしてきた。早く「努力」して顔を変えよう。

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