第二話 真凛の場合〜整形狂〜
美容整形に注ぎ込んだお金は、数えたく無いものだ。
真凛が整形中毒になったのは、2023年だった。それまでは田舎臭い女子高生だった。感染症対策のマスクもし、顔が隠せてラッキーだと思うぐらいだったが、五類になり急に周囲がマスクを外しはじめた。
それに伴い、自分に顔がどうなっているのか気になり、貯金を二重整形に全額使った事が全てのはじまりだった。
すると、周囲の反応も変わり「可愛い」と言われる事も多くなり、美容整形代に投資するようになったというわけ。
運良く腕の良い医者にも出会い、ナチュラルに見える整形をして貰っていた。メンテナンスに金賀かかるが、周囲から「可愛い」と言われる事と比べたら、安いものだった。
大学に出た頃には、周囲が羨むような会社経営者に見初められ、結婚もした。
幸せだった。
そう、2028年までは。
加熱するルッキズムが問題となり、国は美人税を導入しはじめた。ブスは障害者として年金が貰えるという。
そんなニュースを見て腹が立って仕方ない。真凛は夫と会社を経営していたが、いかに節税するのが大事だ。同業者の中では法律スレスレに節税するものもいたが、責められない。
金持ちといっても手取りは案外少ないのだ。真凛は夫の収入を見ながら、毎回税金の高さに憤りを隠せない。庶民だった時は想像もできなかったが、金持ちの一番の敵は税金だと思わされた。
そんな折、真凛は当然のように美人税をかけられてしまった。手取りもかなり減ってしまう。
「何だかなあ。こんな税金がかかるなら、中途半端なブスと結婚した方が良かったよ」
ぽろっと夫は本音をこぼしていた。
「どうせ美人も劣化するしなぁ」
こんな事を言う夫は、美よりも金を愛していた。真凛を妻に選んだのも、トロフィーワイフ目的だったのだろう。
こうして夫婦仲も冷え切り、美容整形の結果も思ったよりは幸せになれないと実感した。
それでもブスになるのは嫌だ。いくら税金がかけられようと、美容整形は相変わらず続けていた。
そんなある日。
妊娠が発覚した。相手夫だ。仲は冷え切っているとはいえ、やる事はたまにやっていた結果だった。
頭に浮かぶのは、整形前の自分の顔だった。この子を産んでも可愛がれそうない。
あんなお金の亡者だった夫もこの妊娠を知り、なぜか甘くなってきた。あまり語ってはいなかったが、子供が熱望していたらしい。
子は鎹とはよく言われているものだが、本当にそんな感じだった。子供が生まれてから、夫の態度は甘くなり、今まで以上にバリバリと稼ぐようになったのだが。
生まれてきたのは、女の子だった。美桜と名付けて可愛がってはいたが……。
「京子先生、この子ブスじゃないですか?」
美容整形外科にいるカウンセラーに相談していた。今の時代は美容整形に纏わるトラブルが相次ぎ、こうしたカウンセラーも珍しくはない。AIでも相談できるが、人間ほどではない。今はカウンセラーは医者につぐ高級とりになっていた。
ここにおるカウンセラーは井崎京子という名前だが、ブスでも美人でもないアラフォー女性で相談しやすかった。白衣を着ているので知的に見えるが、笑顔はほのぼのとし、優しそう。娘もすぐに懐いていた。
「そうねえ。美桜ちゃんはまだ子供ですから」
「でも整形前の私の顔にそっくりになったら、どうしよう。困ったわ」
「大丈夫ですって。旦那さんはなにも言って無いんでしょ?」
「そうですけど……」
真凛の不安は取れない。
それどころか美桜はどんどんブスに成長し、五歳になった頃にはAIにブスと診断された。障害者認定もされ「べちゃ鼻障害一級」だという。
美桜の顔を見るたびにイライラしてくる。
夫は逆に美桜の障害を利用し、節税もしているものだから余計に腹が立ってくる。
「お金の優遇が何だっていうのよ?」
女はブスだというだけで、著しく損する事はよく知っている。それは福祉での優遇では埋められない。節税出来て喜んでるいる夫を見ると、更に腹が立つ。
「ブス!」
「少しは努力したら?」
「見るとイライラする」
「化粧してそれ?」
過去に言われた言葉が今の真凛もキツく縛り始めていた。
「あなたの為。あなたの為だから!」
こうして美桜を美容整形外科に連れて行き、鼻や目を整形した。
美桜は泣いて嫌がっていたが、この事をいつか感謝される日がくるだろう。
「まあ、いいんじゃないですか? 美桜ちゃん、可愛いね」
カウンセラーの京子は美桜の鼻や目を見ながら、優しく微笑んでいた。
一方、真凛は顰めっ面だった。そういえば2028年になってから一度も笑っていなかった事を思い出した。もう笑い方は忘れてしまっていた。