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第十七話 絵真の場合〜ガラスの靴〜

 AIには「どブス」や「救いようの無いブス」と診断されていた。


 今の世界はルッキズム。美人には税、ブスには福祉の時代だった。その基準はAIで決まり、絵真も晴れて障害者となった。


 絵真は現在三十五歳。


 これまで非正規雇用で転々としながら生きてきた。主に介護や工場など。それも自動ロボットが導入され、今は国家資格があっても食いっぱぐれる。


 昔は馬鹿にされていた保育、葬儀関係を含む宗教関係者、カウンセラーなどの仕事の地位が上がっていた。


「はて、障害者になったわけだが、どうするかね?」


 絵真は元々宅建や簿記などの資格もあった。頭自体は悪くはない。単に今の世の中で需要が無いというだけ。


 資本主義経済は比較で決まる。全員が金持ちにはなれない、格差社会でもある。逆にいえばどんな狭いコミュニティでも一位になれば、それはそれで良い面もある。結局は比較なのだ。


 だとしたら、弱さを競う競争でも一位になってしまえば生き残れるか?


 そう考えた絵真は障害者として弱者ナンバーワンを目指す事に決めた。


 まずブス障害者の作業所に行き働き始めた。最低賃金以下の奴隷産業だったが、絵真はこの中で有能さは全部隠す事に決めた。ここで資格や学歴をアピールしても何の得もない。むしろどれだけ弱者か。どれだけブスかをアピールした。


「わあ、絵真ちゃんって可愛そう。助けてあげるよ」


 同じブスだったが、作業所の男からモテるようになていた。弁当やコーヒーを奢ってもらったり、仕事も代わってもらったりした。


 弱さも極めれば武器になるらしい。女性は厳しいものも多いが、ここにいる男性はおおむね温厚だ。逆に言えば騙しやしそうな男ばかり集まっている。利用しない手はない。


 いわゆるオタサーの姫が生まれるカラクリはよくわかる気がした。介護施設でもモテるお婆さんがいたが、彼女も狭いコミュニティの中で一番美人だった事を思いだす。


 それを弱さでも応用すればいいのか。こんな生活は別に楽しくはなかったが、うまく活かせばシンデレラのガラスの靴に化けるかもしれない。


「え、閉鎖?」


 ただ、福祉作業所は職員に横領や暴力が警察にバレ、閉鎖されてしまった。


 絵真も薄々そんな犯罪はある気はしていたが、周りの男達を上手く使い、仕事も最低限しかやっていなかった。


「困ったな」


 口ではそう言っていた絵真だったが、地域の政治家に泣きつき、生活保護の申請もおりた。政治家は表向きは「差別をなくそう」「弱者に支援を!」と言っていたので絵真の訴えを聞かざるおえないようだった。もちろん、絵真はここでも弱い事をアピールし、時には涙も見せた。


 確かに生活保護になると色々制限はあったが、医療費もかからない。ただ生活保護は必ずお金を回収できるのでカモにしている病院もあるらしい。いわゆる貧困ビジネス化している病院も細かく調べ、そういった医療機関も避けていた。


 そしてマッチングアプリに登録し、人の事を疑う事を知らなそうな善良な男達と出会い、いかに自分が弱者である事をアピールし、ご飯なども奢って貰っていたので、食費もかからない生活をしていた。


 案外、男達は容姿や年齢は気にしない。それよりも弱さをアピール→何かをやって貰う(貢がせる)→大袈裟に喜ぶという事を繰り返しやっていると、なぜか勝手に男達が助けてくれた。もちろん、ヤリモクや妻帯者は狙わない。あくまでも善良で人を疑う事を全く知らない「優しい人」をターゲットにしていた。


 弱さも使いようだ。奴隷にされ搾取されるだけではない。上手く使えばガラスの靴に化けるのだと身を染みて感じてしまった。


 確かに絵真は最低レベルの生活に見えたが、弱者を競う競争で一位になり、福祉や男達を上手く転がし、そこそこの暮らしを手に入れていた。


「そうなんだ……」


 こんな生活をしている事を友達に話した。美容整形外科でカウンセラーをやっている女だ。名前は井崎京子という。大学が一緒だったが、絵真が宅建などの資格を取るのに忙しくしている間、カウンセラーになる勉強を初めていた。科学技術の発展に伴い、人間にしかできない仕事の需要が高まるだろう。そう言っていた。京子の言う通りになった。彼女もなかなか小賢しい。


「まあ、福祉はちゃんと声を上げないと貰えない仕組みになっているからね。本当に困ってる人の為のものじゃないのよ。日本だけでなく海外でもそう。だから教会の人がホームレスの面倒を見てたりするんだよね」

「へえ。やっぱり中途半端な人が一番苦労するシステムができてるのよね。弱さも極めれば、色々お得なのに」

「そうね。あ、今の日本だとシングルマザーになるのもお得かもよ?」


 京子はそう言うと、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべていた。


 その考えはなかった。絵真は頭の中で電卓を叩いていた。確かに弱者を極めるなら、シングルマザーになる事もアリかもしれない。


 そう考えた絵真は、マッチングアプリで知り合った「優しい人」の中で一番善良なものを選び、同棲に持ち込み、妊娠にも成功した。


 正直、この年齢だと妊娠は厳しいとも思ったが、妊娠自体は出来るようだっだ。


 もちろん、入籍はしない。その方が弱者を競う競争ではお得だからだ。


 こうしてお腹はどんどん大きくなってきた。今は順調に赤ちゃんは育っているようだが、生まれてくる子供もブスである事を願っていた。その方が色々とお得だからだ。ブスでも障害でも弱さをガラスの靴に変え、強く生きて欲しいと願っていた。むしろ弱者になる事を希望しているぐらいだったが。


「おめでとう、絵真」


 子供が生まれると、京子が一番喜んでくれた。


「どうか母子共に幸せになってね」


 京子のその表情が意地悪そうに見えるのは気のせいだろうか。


 ちなみに子供は何の障害もなく五体満足に生まれてきた。


 父親に似たのか、目も意外と大きく、まつ毛も長い。


 なんだか嫌な予感もするが、子供の泣き声を聞きながら、絵真の心は満たされていた。

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