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第九話 桃子の場合〜カメの戦略〜

 子供の頃から薄々気づいていた事がある。遺伝子が全てなのか、と。


 桃子は子供の頃から「親ガチャ」という言葉があった。親によると、昭和時代は努力や根性でどうにかなった。昭和時代のエンタメもそう言ったものを讃える内容も多い。平成になると経済が崩壊し、先行き不安。それでもまだ日本の未来や希望を歌う曲も売れていたらしいが、令和になるとそれも完全に消えた。結局は家柄、遺伝子、親ガチャ。AIなどの技術は高まっていたが、人間のメンタルは身分制度があった中世ヨーロッパあたりに逆行しているのではないかとも思う。


 桃子はそんな話は納得できない。まだ小学五年生だった。親ガチャだってあるだろうが、もうちょっと未来や希望を持ちたいお年頃だった。


 そんな桃子は図書館へ行く。元々本の虫で放課後は図書館へ行くことが多い。小学生なので児童書コーナーへ向かう。


 絵本のコーナーを何となく眺めていたが、ウサギと亀の絵本に目が止まる。生まれつき足の速いウサギではなく、コツコツ頑張った亀が勝ってしまうお話だ。桃子は好きな話だったが同級生達は「どうせ世の中親ガチャだよ。現実はウサギが勝つようにできてる」なんて悲観的な事を言っているものも多かった。


 本当にそう?


 確かに良い親の言う努力や根性だけで戦う昭和は古臭いかもしれない。それでもカメがずっと負けているなんて事はあるか?


 桃子は成績も悪いし、外見も良くない。特に容姿は「ブス」と悪口を言われる事も多かった。これもガチャ?


 そんな事はない。悲観的になったらここで終了だ。亀だって勝てると証明してみせよう。


 ウサギと亀の絵本を読みながら、桃子はよく考えてみた。


 容姿はただ整形やメイクだけで綺麗にするのはダメだ。結局はナチュラルボーンの美人には勝てない。


 だとしたら言葉遣い、教養、愛嬌、知性、コミュ力などの中身を良くする努力に時間をさこう。


 それに姿勢。


 姿勢だけだったら努力で変えられる。あとは食事、睡眠、スキンケアなど努力で変えられる部分は全部試してみる事にした。


 武器はある。


 図書館だ。大人が読む本のコーナーへ行けば、努力で変えられる部分の知識は得られる。しかも無料だ。こんな平等に作られた施設を利用しない手はない。


 こうして桃子は図書館へ通いながら、コツコツと努力を重ねていた。


 確かにすぐ結果は出ない。シンデレラの魔法みたいな事はない。


 それでもニキビができた時、ストレスで眠れない時、先生に敬語を使えなくて困った時などは図書館へ行き、知識を蓄えて改善していった。時には司書に頼りファッションやメイクの本を探した。図書館にはファッション雑誌もあり、バッグナンバーも読める上、リサイクルとして古いものも貰える。


 少ない小遣いをやりくりしながら手作りコスメも作った。お財布に優しいだけでなく、肌にも優しく一石二鳥だった。


 栄養に関しても詳しくなり、料理も上手くなってきた。


 もちろん姿勢も良く保ちながら十年以上努力を重ねた。


 確かにナチュラルボーンの美人には勝てない。目も小さいし鼻も低い。


 それでも肌、髪、姿勢はAIにも高スコアをはじきだした。


 今の時代はルッキズム。AIに顔を判断され、美人には税金。ブスには福祉の時代だった。


「やった! AIに雰囲気美人って出たよ!」


 AIが言うように桃子は立派な雰囲気美人になり、もう誰もブスなど呼ばれなかった。


 ブスが嫌われるのは「親ガチャだから」と卑屈な事を言っているからかもしれない。結局は言動や内面。桃子はルッキズムのこの世でもそう思うようになった。遺伝子、親、環境のせいにする事は一度もなく、普通のOLからイメージコンサルタントの仕事を始めた。


 ナチュラルボーンの美人には負けるが雰囲気美人には誰にでもなれるというコンセプトの元、クライアントは絶えず、そこそこ成功していた。SNSでも人気になり「整形なんて必要ない!〜ノロマな亀でも勝てる美容戦略〜」という自己啓発風小説の出版され、書店でサイン会も決まった。


「井崎京子さんというお名前なんですね」


 桃子は自著にファンの名前を書いていく。目の前にいるファンはアラフォーぐらいの地味な女だった。もう少しメイクやヘアケアを努力してほしい感じだったが、顧客でもないし、ファンに余計なアドバイスはしにくい。


「ありがとう、桃子さん。でも私は職業柄、どうしようもないブスは見ますけどね。努力できるのも運ですよ。ウサギと亀の話も亀が運良かっただけです。もし努力しているウサギが敵だったら?」


 チクリと嫌な事を言ってきた。周りにいる編集者は焦っていたが、京子は涼しい顔だ。


「でも夢があっていいですね。私は桃子さんの事を応援してます」

「あ、どうもありがとう」


 桃子はサインした自著を手渡し、彼女と握手をした。


 心のどこかで京子の事が引っかかるが、次のファンが来た。


「今日はありがとう」


 笑顔で次のファンに話しかけていた。

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