プロローグ あるカウンセラーの独り言
2028年、世界中でルッキズムが加熱していた。とにかく姿見形が美しいのが正義。SNSで美しさに「イイね!」を集めれば正義の世界になっていた。
それに伴い、若者の自殺率も急上昇し、ついに国は「美人税」と「ルッククス障害」(通称・ブス障害)という制度を決めた。
美男美女であるほど税金が重くかけられ、酷い容姿で生まれたものは障害者として各種福祉も利用できることになった。元来の障害者でも美男美女であった場合、容赦なく課税されるのだが、そんなケースは滅多になく重複している事も多かった。社会的弱者というのは、容姿の悪さも含まれるのか。そんな残酷な事実を浮き彫りにする制度だった。
美醜の判断はAIがしている。この時代は政治や医療も司法もAI頼みだし、この結果は絶対的なものだと信頼されていた。
美容整形も高額になり、より庶民が手を出せない金額になったものだ。美人になったとしても高額な税金が課されるのにも関わらず、今日も美容整形には多くの客が訪れていた。
井崎京子は、この美容整形外科でカウンセラー業務をしていた。今の時代はAIにもカウンセリングができるものだが、だからこそ生身の人間の細やかなカウンセラーも需要が高くなり、今では年収も高い仕事だった。
こんな時代は美容整形外科でのトラブルも多く、ここでの専門のカウンセリングの需要も高かった。
京子自身はAIに「普通顔」と診断され、平凡に過ごしていた。美人になれない事を不満に思った事は少なくはない。やはり京子も生物学上では女だった。
しかし、毎日カウンセリングに訪れる客達に接するうちに考えが変わった。
ああ、平凡な顔でよかった。高額な税金が課される美人に生まれなくてよかった。障害者認定されるブスにも生まれなくて良かった。
平凡が一番。
もうアラフォーでシミやシワもあるが、これは自然な劣化としてAIに障害者認定はされないだろう。
心底その事が嬉しかった。
「先生、話を聞いてください」
患者の一人が京子の元にやってきた。
「ええ。話を聞きましょう」
京子は嘘くさい笑みを浮かべる。本心ではこんな所に来る患者達を見下していたからだ。
「どうぞ、席におかけくださいね」
これ以上無いぐらい嘘くさい笑みを貼り付けていた。