1.さらわれたお姫様
誤字脱字報告どうもありがとうございます! いつもたいへん助かっています!(すみません汗)
感想やご評価も嬉しいです! ありがとうございます!
魔物に囚われてたお姫様が救い出された騎士と結婚するって、よくある話なはずなんだけど(汗)
なんでこーなった。
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自分の城の中庭で、見ず知らずの美しい女性が優雅に花を物色していたのでブランカは目を見張った。
誰? ここは私の庭のはずだけど。
しかし、ブランカが何か発する前にその女性は麗しく微笑んで、そっと手元の花をつまんで見せた。
「あなたがこの庭の主? これは見事に育ててあるわね。こっちも、あっちもよ。色とりどりの大輪。あんまり素晴らしいので思わずこの庭に入り込んでしまったというわけ。どうぞ許してちょうだいね」
ブランカはその手つきにすっかり見とれてしまっていた。
透き通るような容姿も相まって、まるで花の女王か何かかのようだったから。
しかし、ブランカははっとすると、ごくんと喉を鳴らして、おずおずと聞いた。
「あの、どちら様でしょうか? お見受けするに、どうも普通の方ではないような……」
この女性の佇まいの見事さに気圧されて、何やらふわふわとした言動になってしまう。
でも、何となくこの女性のことはどこかで見たことがあるような気もするのだ。その不思議な感じが余計にブランカの頭を混乱させている。
女性は「まあ、ふふ」と笑った。
「普通の方ではないって何。私は人間よ。でもそうね、確かに普通じゃないわ。人間界に戻ってくるのは久しぶりなんだもの」
「はあ……?」
ブランカはそれでまた困惑してしまった。『人間界』って言った? 人間界に戻ってきたって、私はいったい何の生き物に遭遇してしまったのかしら?
でも待てよ。もうしっかり日は登っている。朝ぼらけや黄昏時ってわけではないのだ。よく分からん生き物が入り込む時間帯ではないのだから、今ここは私のホームグラウンド! 落ち着け、私。
その女性は、ブランカが困惑したり思い直したりとコロコロ表情を変えるのが面白かったようだ。手を口元に当てて、もう一度笑った。
「急にお訪ねしてしまい、お城の皆さまにもご迷惑をおかけしているわ。えっと、まだ聞いてない?」
ブランカは首を傾げた。「聞いてない?」って言われても。
しかし、その時ふとブランカはさっきから何かしら城が騒がしかったのに思い至った。
侍女たちも何やら呼び出されて慌てて小走りにブランカの部屋を飛び出して行ったのだ。それで急に一人っきりになったブランカは暇を持て余して庭に出てきたというわけなのだから。
ブランカが女性の次の言葉を待っているように見えたので、その女性は気持ち真面目な顔をしてはっきりとした口調で自己紹介した。
「私の名前はエステル。ずいぶんと長いこと魔物に囚われていたの。このたびある騎士が私を救い出してくださって、それで今は王都に帰る途中なの。王都に帰る途中にこちらのデイモンド領があったので、手助けしてもらえないかとちょっと立ち寄らせてもらったというわけよ」
ブランカはぎょっとした。
「あなたがエステル姫!」
エステル姫はこの国の王様の一人娘。
もう10年も前になるだろうか。
王都に突然出没した強大な魔物によって幼いお姫様が攫われてしまったと聞いた。
その時のことはブランカも幼かったからあまり記憶がない。
でも「中庭でも一人で出てはいけません」とか「外は魔物がいっぱい」とか、両親や使用人たちに口を酸っぱく言われたのは何となく覚えている。
話に聞く限りだと、当時は大掛かりな魔物の討伐隊が組まれ、お姫様を取り戻すべくたくさんの騎士が旅立っていった。しかし討伐隊のうち怪我や病気で途中離脱した者が戻って来るだけで、その魔物の根城まで辿り着けたという者は一人も帰ってこなかったし、ましてやお姫様の消息に関して情報を入手できたものはただの一人もいなかった。
途中離脱した騎士たちの話ではよほど過酷な旅路だったことが窺え、その冒険談は多くの市民の語り草となった。しかし結果としては特段目ぼしい成果は得られなかったことから、この件のことは何だかタブーのような扱いになり、それ以降あまり大っぴらに語られることはなくなった。それにもう10年も経つと、誰も大きな声では言わなかったが、攫われたお姫様はもうきっと亡くなっているに違いないと思われていた。
ただ、お姫様を探し出すと言えば王様は私的な財産から喜んで騎士たちを応援したのだそうで、「我こそは」と思う騎士が魔物討伐に旅立っていくのは、定期的に見られる光景だった。
そうして10年も経ち、そのお姫様が生きていたとは!
助け出した騎士がいたとは!
何とめでたい!
これは国を挙げてのビッグニュースになるはずだ!
ブランカは胸が熱くなるのを感じた。
「これはこれは、エステル姫様! 初めてお目にかかりますのでだいぶ無礼を申し上げたと思いますが、お許しください」
ブランカはひれ伏した。
「ああ、そんなに畏まらないでちょうだい。私を助けてくれた騎士が偉いのだから」
「あ、そうか、騎士様もいらっしゃるのですね。その騎士様は今どちらに」
「あなたのお父様とお話しなさっているわ。あなたのお父様ったらとっても興味津々のようで、ウィルヘルム様、あ、助けてくださった騎士様のことね、をちっとも離さずに質問攻めなのよ。だから私はちょっと席を外させてもらって、こうして息抜きに」
そうしてエステル姫は気さくに腕を広げてリラックスした表情を浮かべた。
ブランカは目を輝かせた父の顔を想像して苦笑した。
少年のようなところを残したあの父なら、騎士様の冒険談に食いつかないはずがないと思った。
「根掘り葉掘りで騎士様がうんざりしていないかが心配ですわ。でも皆が興味津々だと思います。姫が生きておられたなんて! どれだけ王様がお喜びなさることか」
「生きているのは、確かに不思議ね、こうして人間界に戻ってくると特にそれを実感するわ。魔物に囚われていたときのことは、本当に、どういうことだったのか全くよく分からないの。幸いなことに魔物には丁重に扱われて、とはいえ私も何が命にかかわるか分からなかったから気を付けながら暮らしていたら、何か毎日が怒涛のように過ぎて行っただけなのだけど」
「騎士様は、エステル様を助け出すのに相当な苦労をなさったでしょうね」
「ウィルヘルム様はあまり多くを語らない方なの。だから私も彼の冒険の道のりについてはよく分からないわ」
エステルが首を竦めたのを見て、何だかブランカは変な心持がした。
うちの父はあんなに騎士を質問攻めにしているのに、こちらのエステル姫の方はというと騎士のこととなると関心が薄く、だいぶあっさりとしているなと思った。
「では魔物をやっつけたときは? さぞ壮絶だったではないかと想像しますけど。他の騎士たちが敵わなかった魔物──ウィルヘルム様はどれだけ勇ましい方なのでしょう──」
とブランカが言いかけたとき、エステル姫が被せるように言った。
「ごめんなさい、魔物をどう退治したかもよく分からないの。ウィルヘルム様が『お助けに上がりました』と私を解放してくれたときに、床には息絶えた魔物が血だまりの中に沈んでいたくらい。ウィルヘルム様は衣服もボロボロだったし返り血も浴びていたので、大変だったのかなあとは思ったけど」
エステル姫はそう言いながら不快そうに口の端を歪めていたので、ブランカは自分の失言に慌てた。
「ま、まあそうですよね。申し訳ありませんわ、姫様ともあろうお方にそんな血なまぐさい話を思い出させるようなこと」
その言葉にエステル姫は大きく頷く。
「本当にその通りなの! 血とか見たくなかったわ。それに、この旅路一つとっても大変でした。山もいくつ越えたか分りません。山って幾重にも重なっているものなのですね。一つ山を越えたらその向こうには森があって、その向うにはまた山があって、森があって。なんて遠いのかと、これを全部歩かせる気なのかと、頭がおかしくなるような気持がしました。魔物の住処の方がよっぽど快適だと思ったくらいです」
この言葉にはさすがにブランカはエステル姫を窘めないわけにはいかなかった。
「エステル様。それは仰ってはいけません。ウィルヘルム様の苦労を踏みにじるような発言かと」
「そうかしら」
エステル姫は気にも留めない顔をしている。
ブランカは苦笑した。
「でもこうしてエステル様が無事に自由を取り戻して、そして国に帰ってこれたことを喜ばしく思いますわ。いったんこちらのお城に立ち寄られたのも歓迎いたしますわ。どうぞゆっくり体を休めてくださいましね」
「ええ! 本当、やっと生きた心地になったわ! ずっと森の中だったんだもの、果物くらいしか食べられないし、寝床も最悪、服も擦り切れてしまったし。ここに来て、やっと相応に扱ってもらえるようになってほっとしているの。ここで身支度を整えさせてもらえたらとても助かるわ。ボロボロの身なりで街を歩いていては、せっかくの“助け出された悲劇の王女”が台無しでしょう。これは奇跡の生還なのだから、一人の騎士が勇敢にも私を助け出すことに成功した感動の物語なのだから、それを皆に知らしめながら堂々と王都に帰るべきだと思わない?」
ブランカはエステル姫の少し芝居がかった物言いに驚いたが、素直に同意した。
「そうですね、人々はこの奇跡を口々に噂するでしょう。熱狂すると言っても過言ではないかもしれません。ボロボロの衣服では気の毒ですから、もちろん王都へ帰るためのできる限りの準備を手伝させていただきます。……このデイモンド領は、エステル様のいうところの未開の地に隣接しており、人間界に戻って来る玄関口にあたります。でもここからは人間の住む土地ですから、安心なさってくださいね」
「ありがとう。あなたのお父さまも快く承知して下さったわ。王女が王宮に帰るのだからパレードでもしてもらわなくちゃねって言ったら、お手伝いしますよって。だから私の帰還の日取りも今王宮に問い合わせているところよ。盛大に祝ってもらいたいじゃない?」
エステル姫はとても楽しそうに計画を話してくれる。
ブランカは『パレード』というエステル姫の発想にまたも驚いた。しかし、それが久しぶりに故郷に帰れる王女の望みならと肯いた。
「王様にはご連絡済みなんですね。きっと王様もパレードをお許しくださるわ。大事な王女様の奇跡の帰還ですよ、たいそうお喜びになっているでしょう! 王宮に帰るのが待ち遠しいですね」
本作お読みくださり、どうもありがとうございます!!!
読んでもらえるのが なにより嬉しいです!!!
全7話です。
短めのお話ですので、すでに全話UPさせていただいております。
次話、お姫様の嫌な性格が出てきます(笑)すみません。
もし少しでも面白いと思ってくださいましたら、
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すみませんが、よろしくお願いいたします。