社畜な魔王様
何か思いついた
「はぁ、はぁ。遂にここまで来たぞ!魔王!!」
とある魔王城の玉座の間
1人の勇者と魔王が対峙していた。
「良くぞここまで来れたな。てっきり我が四天王、たった1人の前に無様に敗北するかと思ったぞ?」
「くっ、確かにアイツは強敵だった……だが、みんなの力を合わせれば、どんな敵だって倒してみせる!そうして俺たちは勝って来たんだ!」
拳を振り、魔王に宣言する。
「そうか。あぁ、ところでベルゼギアは強かったか?」
魔王の唐突な質問に勇者は訝しむが、答える。
「あぁ。アイツのせいではジオが死んだ。ヤマトも死んだ。だけどな、あいつらの魂は俺が平和へと繋げていく!!」
勇者の力が増大していく
しかし、魔王は少しの動揺も見せない。
「ふん、所詮彼奴は四天王準最強。上司と部下の板挟みに会う労働に疲れ果てる中間管理職の一員よ。負けて死んだとしても当然だな」
魔王の放ったその一言に、勇者は眉を顰める。
「何だと?貴様、仲間をなんだと思っているんだ!」
「やれやれ、何をそんなに気にする必要がある?彼奴が精一杯の力を尽くして死んだのだぞ?我がその死について気にする必要などあるまい。そして、勇者よ。貴様は我と話に来たのか?違うだろう?」
魔王の言葉に憤激しつつも勇者は冷静さを保つ。
いや、保とうとしていた。
勇者にとって仲間とは、共に戦い、共に飯を食い、共に生きた大切な存在なのだ。
それを見下すような発言に、怒りを抑えきれない。
「そうだな。なら!ここでお前を倒し、世界を救う!!」
「ふっ、面白い。さぁ!我を倒してみよ。我に生の喜びを感じさせてくれ!!」
こうして、人と魔。ふたつの頂上決勝が始まった。
「ハァァァァ!目覚めよ!聖剣ヴァルハルザーク!」
勇者は世界に一つしかない神が創造したとされる伝説の聖剣ヴァルハルザークを覚醒させ、魔王に斬りかかる。
しかし、
「フッ。起きろ……魔剣ヴォルゼオス」
どこからとも無く魔剣ヴォルゼオスを呼び出し覚醒させて軽々と勇者の攻撃を受け止める。
「どうした勇者?こんなものか?」
「まだまだァ!聖剣術 聖解!」
「甘いな。我流 【絶】」
聖なる力で全てを崩壊させる聖剣術 聖解を魔王に放つが、魔王は相殺するように絶を放ち、何事も無かったようにする。
「くっ、うぉォぉォ!聖竜光輝乱舞!」
「【絶】」
勇者の聖剣技の数々を魔王は絶1つで受け止める。
「今度はこちらの番か?【冥】」
魔王のなんて事ない連撃が勇者に襲う。
しかし、勇者は軽々と避けていく。
「天雷撃!」
そして、勇者は一気に近づき、聖属性を纏う雷撃で魔王を斬りつける。
しかし、それが魔王の罠だった。
「【界】」
今まで魔王が斬り裂いていた空間から突如斬撃が迸り、治癒阻害、身体弱化、思考弱化、スキル制限の状態異常を与える斬撃が勇者を襲う
「……ッ!聖竜光輝乱舞!」
勇者は斬撃には乱撃で対処しようとするが、
「無駄だ。その程度の威力では我の【冥界】は越えられん。そして、終いだ【命】」
魔王の言葉通り、少しも威力や速度が減少しない。そして、勇者に向けて何も無い空間から鎖が飛びでて勇者に絡み付く。
「なっ!」
「さぁ、生き残れるかな?」
「く、グァァアァアアァァァアアァア」
動けない勇者に無数の斬撃が襲う。
魔王は追撃もせず、じっとその光景を見つめている。
そして、
「あ、ァァ」
「ほう?生き残ったか。その生命力だけは褒めてやろう」
勇者は生き残った。
しかし、身体はボロボロ、状態異常に犯されたこの身体ではもう数分の命だ。
「……なんだ、つまらん。所詮はその程度か」
「ま…………だ……だ…………………!」
「しぶといヤツめ。しかし、その精神力だけは認めてやろう。死ね」
魔剣ヴォルゼオスが勇者を貫く瞬間。
凄まじい光、聖属性の嵐が勇者から巻き起こる!
「なッ!」
その光は魔王の腕にかすり、明確な傷跡を残した。
危険を感じた魔王は後に飛び下がり、勇者を観察する。
そして、聖属性の竜巻から黄金のオーラを纏う勇者が出てくる。
「魔王!これが最後の戦いだ!」
「本当に貴様と言うヤツは面白い。良いだろう。我に抗って見せよ!」
どちらかともなく剣を交わす。
斬る斬る斬る受ける受ける受ける斬る斬る受ける受ける斬る受ける切り返す斬る斬る受ける斬る切り返す斬る斬り裂く
剣の腕は互角。
最初こそ魔王の圧倒的なステータスに押し潰されていた勇者も、オーラによって魔王に追いついた。
「真聖解!」
「【絶】【命】【刻】」
勇者はオーラによって強化された聖解を放つが、魔王の【絶】に受け止められる。
そして、返しの【命】の拘束を避けられず、【刻】の治癒阻害の袈裟斬りをまともに食らう。
しかし、黄金のオーラが煌めいたかと思えば、勇者の身体に刻まれていた深い斬撃は一瞬の内に回復していた。
「チッ、面妖な」
「またこれかッ!だが、今の俺なら!真天雷撃!」
「我の【命】を破るとはな。どうやら思った以上に強くなっているらしいな」
「俺たちの【想いの力】を舐めるんじゃねぇ!」
感心したような魔王に吠える勇者
しかし、魔王は呆れたように首を振る
「【想いの力】……そんな都合のいい者があるなら我はこんなところに居ないんだがな」
「……それはどう言う意味だ?」
「おや?話す気ができたのか?」
「ふん……元々この世界に居なかったお前が、何をしていたのか気になっただけだ。妙な真似をしたら切るからな」
「よかろう。まぁ、我の勝利は揺るがないから好きにするといい」
魔王は語り始める
「我は強くなり過ぎた。そのせいか、強制的に邪神の配下にされたのだ」
「……なに?」
魔王の一言に動揺する
「邪神なんてものがいるのか?」
「女神がいるのだから居るに決まっているだろう?まぁ、それは大した問題では無い。大きな問題だったのは仕事の多さだ」
疲れたような顔をして語る
「我が支配してきた世界はここでちょうど6666個。その一つ一つが我自身によって管理されている。邪神の配下は他にも居るが、手柄を取られる訳にはいかん。しかし、支配して滅びないように管理するのも大変なのだ」
「……」
「だからこそ、「世界の半分をくれてやろう」と言っているのだが、何故なのか、今までこれに頷いたものは1人も居ない。そのお陰で我が1人で治める羽目になっておる」
「……大変なんだな、魔王って」
思わず敵である勇者も同情する
「支配して終わりじゃあない、支配して滅びないように適切に管理し続けることが魔王に求められていることなのだ。それが出来んやつに魔王を語る資格は無い」
「……」
「強ければいい訳でない。それを活用できるからこそ、魔王足り得るのだ。そこを邪神の配下達は分かっていない。だから邪神に怒られるのだ。それを我の性にするのもやめて欲しい」
「……それを俺に語られても困るって言うか…」
「どいつもこいつも、我より弱い癖して反逆しよる。相手するのが面倒なのだ」
「……いや、それが俺たちの使命っていうか…」
「そもそも我は世界を滅ぼすなどと言っておらんだろう。不法侵界したとは言え何故抵抗する?害を無していないだろう」
「魔物……」
「それは我の眷属でもなんでもない、世界の副産物だ。貴様ら生命体の負の感情が魔力と肉体を伴って実体化した存在だ。我に関係は無い」
「そうなのか?」
「当然だ。なんで管理するというのに面倒なものを創り出さねばならぬ?管理する世界全てにそんなことをしていれば、不効率だろう」
「た、確かに……」
「しかもタダ働きだ。やってられんが、神を超えたものはそこに縛り付けられる運命なのだ。それに抗うことは出来ない。自分の優秀さを恨みながら管理し続けるのだ」
「……何と言うか……可哀想だな………よし!」
「どうした?」
「メシ食おうぜ!奢ってやるよ」
「我は魔王だが?」
「勇者の俺がいるから問題ないだろ。アンタもストレス解消しないとな」
「ありがとう……勇者よ」
こうして、世界は魔王に支配されたが、相も変わらず平和なままであった。
むしろ、戦争が起きない分こちらのほうが平和であった