第5話『変わった組み合わせ』
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「ありがとうね。まさか下まで下ろしておいてくれてるとは思わなかったわ」
翌日、学校内のゴミ集積庫の隣で、佐藤先生は私と樹希ちゃんにそう言った。
本当は人体模型が自分から飛び降りてくれたんですけど、なんて言えるはずもなく。
私はただ笑顔を返すことしかできなかった。
――私の銃は《退魔の銃》。
人体模型に宿った負の魂だけを払った。
ゴミ集積庫の中に収めた人体模型は、もう動く事はない。
……この後彼は、この窮屈な場所で、粗大ゴミとして回収される時を待つだけなのだ。
「最初に聞いた時は、夜露さんだけで運んだのかと思って驚いたけど。
朝雛さんも手伝ってくれたのね?
二人とはいえ、階段とか、大変だったでしょ?」
佐藤先生からそう訊ねられると、樹希ちゃんは頭上に疑問符を浮かべるような、キョトンとした顔で口を開く。
「人体模型クンが勝手に動いてくれたんで、ラクでしたよ?」
あまりにも自然にそう言ってのけた樹希ちゃんに、私も先生も固まった。
「……え? いやいや、そんな訳……」
ようやく言葉を絞り出す佐藤先生。
対して樹希ちゃんは、悪戯っぽく白い歯を見せる。
「……どう思います?」
「……無いわよ、ね……?」
言いながらも、先生は恐る恐る人体模型に視線を移す。
そんな先生の挙動に、ついに耐えられなくなったのか、樹希ちゃんは声を上げて笑った。
「あはは! 無いですよー! 冗談です! 冗談!」
「やめてよ! もぉ!
私、ホラーとかオカルトとか……そういうの信じてないんだからッ!」
「ですよねー! あたしもそうでした!」
朗らかに笑う樹希ちゃんの横で、私は苦々しく笑う事しかできない。
なんか、さっきから私、一言も喋ってないな。
なんて考えていると、ふと佐藤先生が不思議そうに私達を見つめているのに気付いた。
「……」
「ど、どうかしましたか……?」
ようやく喋った一言が、これ。
すると先生は「うーん」と小さく唸りながら。
「いやね、なんかあなた達、変わった組み合わせだなぁと思って」
「そうですよね……」
「そうですか?」
私と樹希ちゃんの声が重なった。
伏し目がちに先生の言葉を肯定してしまった私。
一方で、隣の樹希ちゃんは首を傾げている。
どうしたんだろう? ……意味がわからなかったのかな?
私達の両極な返事に、先生はぽかんと口を開けるが、すぐにいつもの微笑みを取り戻す。
「……ううん。変な事言ってごめんなさい。
なんでもないわ。気にしないで」
――《対怪》が活躍する機会なんて、本当は無い方がいい。
それでもやっぱり、そうは問屋が卸さない訳で――。
私達の高校生活は、まだ始まったばかり。
〜 To be continued 〜
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