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戦争のこと  作者: オレンジスノー
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卒業式前夜

昭和20年3月9日。

今日は嬉しいことがありました。かあちゃんが、明日の卒業式のために、近所のおばちゃんから立派な服を借りてきてくれたのです。

それに疎開していた同級生たちが明日の卒業式に出るために戻ってきました。

仲良しだった何人かに会えて、久しぶりにおしゃべりもできて楽しかったです。

明日の卒業式は、もっとたくさん同級生に会えるといいな。


「あしたは卒業式だから、少しだけ贅沢しようか」


かあちゃんはそう言ったけど、元の家も空襲で焼けちゃったし、贅沢なんて。。

でも、かあちゃんは内緒で、少しだけごちそうを用意してくれているみたい。


「愛子、明日は式なんだから、早く寝な」

「うん」


空襲警報も鳴り止んだし、今日はちゃんと寝られそうです。


「愛子、おにいちゃん起きて!」

「うーん。。」

「空襲だよ、逃げるよ!」


突然のかあちゃんの怒鳴り声で目が覚めました。一瞬で、いつもとは違うことに気づきました。

外に出たけど、どっちを見ても燃えています。どこに逃げればいいの?


そのとき、隣組のおじさんが言いました。

「小学校に行ってみよう。あそこだったらコンクリだから大丈夫かもしれない」


私たちは隣組の家の人たちと一緒に小学校に向かいました。


「あ、学校が。。燃えているよ」


小学校も2階から上は燃えていて、だめでした。


「戻るか?」

「いや、戻るたって、後ろも燃えている」

「くぐってあっち側にいこう」


誰が言ったことか分からなかったけど、私たちは燃えている校舎をくぐって反対側に逃げることにしました。

校舎の2階から上は燃えていましたが、昇降口はまだ燃えていなかったからです。


その後、どこをどうやって逃げたのか覚えていません。

ただ、うちの家族と隣組の家族は、誰一人はぐれることなく助かりました。


昭和20年3月10日

今日は卒業式です。でも、学校は燃えてしまいました。

先生も同級生もどうしているか分かりません。

かあちゃんが借りてきてくれた立派な洋服も、内緒で準備してくれていたごちそうも、何もかも無くなりました。

卒業式はどうなるのかな。


(筆者補足)

後年、母が40代後半になったころ、当時通っていた小学校で、戦争や戦後の混乱期に卒業式が出来なかった当時の児童に対して、卒業証書授与式を行いますとの連絡が教育委員会からありました。

複雑な気持ちで出かけていった母でしたが、当時、仲の良かった女の子と会えた!と嬉しそうに、卒業証書を抱えて帰ってきました。

ただ、出席できた同級生は数名だったとのことでした。

ご存命ながら連絡が取れなかったり、ご都合が悪く参加できなかった方もいたかもしれません。

当時の教職員や母の同級生たちは、集団疎開で地方に疎開していながら、3月10日の卒業式に合わせて、初等科6年生(現在の小学校6年生)は東京大空襲の前日の3月9日に、東京に帰京していました。

そのため、多くの方が大空襲により命を落とされ、中には一家全滅となった方もいるため、どなたが助かり、どなたがお亡くなりになったか、正確なところは分からないとのことでした。

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