プロローグ:希望に満ちたその背中に
「窓って本当にあるんですね」
その声は、俺の頭を殴りつけるように、バケツいっぱいの冷水をぶっかけたみたいに、暴力的なまでの威力で、けれども静かに溶けた。
白いレースのカーテンが揺れ、眩しいほどの太陽の光が差し込む。
ありふれた景色だ。
なのに、いや、だからこそ。
窓枠に乗り出した、小さな身体と長い黒髪が、希望に照らされている様が痛々しい。
「本の中だけだと思っていました」
鈴が転がるような、子供らしさを残した静かな声は、感情を見せないのに。その声に、どれほどの歓びと悲しみと悔しさと苦しみと、恐れが、あるのか。
それは全て想像でしかない。
それを全て想像することしかできない。
「窓で満足すんなよ。ここからの景色も、ここから先の景色も、お前のものだ。世界は誰のものでもねーが、誰のものでもある」
隣に並んでみる景色は、広い空と、街並み。どこにでもある、ありふれた景色は、オニキスのような大きな瞳にどう映っているのだろうか。
同じ場所に立っても、同じものを見ても、きっと、俺たちは違うものを見ている。
そんな当たり前の事が、いたく悲しい。
俺の感傷なんざ、この少女は知らぬだろう。
知らぬままがいい、と俺は笑った。
「お前は何処へでも行けるし、何にでもなれるんだからよ」
言葉に嘘はない。
同情だか憐憫だか愛情だか知らんが、情がある。責任もある。
だけど、だから、俺は、お前を、