冒険者の指導
ボブと名乗った冒険者は、ニカッと笑う。
そして、鍛え抜かれた力こぶを自慢するかのように腕を曲げた。
「さて、ルーキーたち。さっそく授業を始めようか」
「「「よろしくお願いします」」」
「…………ふあぁ」
「……よろしく」
エルク、エルウッド、ジャネットは頭を下げ、ソアラは欠伸、カヤは小さな声で返事をする。
ボブは再び二カッと笑い、なぜか親指をグッと立てる。
「お前ら、オレに当たってラッキーだったな。指導員の中ではオレが一番優秀だ、お前らに冒険者としてのイロハを叩き込んでやるぜ!!」
「ありがとうございます!! よろしくお願いします!!」
エルウッドは、ガバッと頭を下げて眼を輝かせた。
ボブはウンウン頷く……エルクは思った。『なんかめんどくさそうな人』だと。ジャネットもエルクと似たような視線でボブを見る。
ボブは、さっそく話を始めた。
「冒険者。さて、冒険者とは何だ?」
「そこからですの?」
ジャネットはあからさまに嫌そうな顔をする。
だが、エルウッドは答えた。
「冒険者とは、世界各地にあるダンジョンの調査をする、ダンジョン探索者のことです」
「うむ、正解。この世界に無数に存在するダンジョン、そこにはお宝はもちろん、神器と呼ばれる武器や、国ひとつ容易く滅ぼせる魔法なんかも存在する。そういう危険な物を持ち帰るのも大事な仕事だ」
「なるほど……」
エルクは思わず頷く。すると、ジャネットが馬鹿を見るような眼でエルクを見た。どうやらこの話は常識であったらしい。
「さて、ダンジョン探索に求められるものは?」
「当然、『強さ』ですわ!」
「正解」
ジャネットが間髪入れず答えた。ボブは満足そうに微笑む。
「ダンジョンには、『魔獣』と呼ばれる生物が多く存在する。そいつらから身を守るためには戦うしかない。そのための強さは必須だ。さらに加えるなら、強さを助けてくれる『装備』や魔獣の『知識』なんかも大事だな!」
ボブの講義は続く。
ダンジョンの種類、探査に必要な道具、ダンジョンの特性など。
エルクたちはボブの話を聞くが、ジャネットは退屈そうに言った。
「当たり前のことばかり……つまらないですわ」
「はっはっは。確かに、今言ったのは知ってて当然のこと、まぁ……念のための確認かな」
「……は、ははは」
エルクは曖昧に笑った。
正直、今言ったこと全て改めて聞けて安心したエルクだった。
◇◇◇◇◇
「さて、明日からダンジョンに入るわけだが……きみたちがどれくらい動けるか確認したい」
ボブが右手を開く。
指にはいくつか指輪がはめられていた。そのうちの一つに命じる。
「『モンスターボックス』」
そう言うと、ボブの前に小さな二足歩行の蜥蜴が数体現れた。
魔獣。
いきなり現れた魔獣に、エルクたちは警戒する。
だが、ボブは笑みを崩さない。
「こいつの名前は『スカベンジャー』だ。ダンジョンに生息する最低クラスの魔獣でな、ダンジョンの至る所に現れる。ルーキーが最も多く狩る魔獣でもあるな」
「あの、今の……どうやって魔獣を」
「ん? ああ、後で説明するが、この『マジックリング』の効果だ。五星の一人『発明家』ゼンマイが作った道具の一つでな、お前たちにも後で配ろう。さて……まずは、誰がやる?」
「はい!!」
と、エルウッドが挙手。
ボブは頷き、スカベンジャーをけしかけた。
「行け」
『ギャッギャ!!』『ギッギッギ!!』
二体のスカベンジャーは、手に持った鉄の剣を振り廻しながらエルウッドの元へ。
エルウッドは両腰に装備している双剣に手を掛ける。
「神速───双剣技、『双烈迅』!!」
エルウッドの姿が消えた───次の瞬間には、スカベンジャーが細切れになっていた。
スカベンジャーの身体は青く燃え、塵も残さず消滅した。
「ほう、二つのスキルを合わせた剣技か」
「はい。まだまだ未完成ですけど……」
「うんうん。ダンジョンに潜れば嫌でも成長するさ」
ダンジョンの魔獣は、倒されると青い炎に包まれ消滅する。
不思議な光景にエルクが驚いていると、次はジャネットが前に出た。
「次、どうぞ」
「お、やる気だな。じゃあ───始め!!」
現れたのは、二体のスカベンジャー。
スカベンジャーはジャネットに向かい走り出す。
ジャネットは、背負っていた折り畳み式の弓を展開。腰から矢を二本抜くと、ほとんど同時に放つ。
矢は、スカベンジャーの頭を貫通……スカベンジャーは消滅した。
「この程度かしら?」
「うんうん。いい狙いだな……じゃあ、次」
「あ、俺行きます」
エルクが挙手。
新しい眼帯マスクを付け、フードをかぶり、両手を水平に上げる。
不気味な黒い案山子にも、翼を広げたカラスのように見えた。
「では、始め!!」
スカベンジャーが二体、エルクに迫ってくる。
エルクは両手のブレードを展開、同時に両手をスカベンジャー二体へ向けると、スカベンジャーの動きがピタッと止まる。
そして、引き寄せられるようにエルクに向かって真っすぐ飛んできた。
エルクは、両手のブレードで飛んできたスカベンジャーの喉を同時に突き刺す。すると、スカベンジャーは青い炎に包まれ消滅した。
「おお、ブレードに血が付いてない……ダンジョンの魔獣って、血が出ないのか」
妙な関心をするエルク。
すると、エルクを押しのけカヤが薙刀を構えた。
「私の番」
「よし。では始め!!」
再び召喚されたスカベンジャー。
カヤは薙刀を頭上で構えクルクル回転させ、横に薙ぎ払った。
すると、まだ数メートル先にいるスカベンジャーの身体が綺麗に両断された。
スキル……エルクはそう考えた。すると。
「ただの風圧。でも、こんなに綺麗に斬れちゃうとはね」
「ふぅむ。なかなかの太刀筋だ───では次」
次は、ソアラの番。
だがソアラは首を振り、ボブに近づいて耳打ちする。
するとボブは驚いた表情になり、ソアラに向かって頷いた。
「わかった。きみは力を示す必要がなさそうだ」
「ん……」
どういう話があったのか不明だが、ソアラは戦うことはなかった。
全ての戦いが終わり、ボブは満足そうにうなずく。
「うんうん。みんな、すごく強いな。とてもルーキーとは思えん……明日の実習が楽しみだ」
明日は、ダンジョン実習。
エルクは楽しみと同時に───なぜか、少しだけ不安があった。





