表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第十五章 公子様の護衛騎士


 とにかく何もかも夢のような話で、全く現実味がなかった。

 父無し子として苛められて育った俺が現国王の息子だとは。しかも、目の前の高貴なご令息達とは親類関係らしい。

 ランディは父方の、バージルは母方の従兄弟みたいだ。もちろん例の詐欺師とも。

 

 その上俺の大切な妻アンジーの元婚約者が、よりによって腹違いの兄だったなんて。もうため息しか出てこなかった。

 しかし、この四人の中ではアンジーが一番早く復活し、夕食をみんな一緒に食べましょうと言って立ち上がった。

 

「朝、多めにパンを焼いておいて良かったわ。シチューとチキンの香草焼きを作るわね。今朝お隣の奥さんに絞めたばかりのニワトリを安く譲ってもらったのよ。新鮮よ」

 

「聖女様がお料理をなさるのですか?」

 

「当たり前じゃない。他に誰が作るんですか? レイは確かに器用だけど、ちょっと味覚がいまいちなので頼めないわ」

 

「母は料理が苦手で、ただ煮るか焼くだけの食事だったので、俺も料理は苦手なんです。

 でも安心して下さい。アンジーは子供の頃から母親の手伝いをよくしていて、料理はすごく上手いですから」

 

 俺の言葉にバージルとランディが目が点になっていた。そしてボソッとこう言っていた。

 

「そりゃあ、元王妃でしかも元侯爵令嬢だったんだから、料理なんかした事がなかっただろう。王妃様も王子殿下もお気の毒に…」

 

「それにしても、レイチャード様は今後どうなされるおつもりですか?」

 

「様付けはやめて下さいよ。レイでいいですよ。

 今後のことですか? うーん。

 アンジー、お前は王子様と結婚するのが夢だったんだよな? 王都へ行きたいのか?」

 

 

 俺がこう尋ねると、居間の端にある調理場から振り返ったアンジーはニコッと笑った。

 

「まさか本当に夢が叶うなんて信じられないわよね。私が、こんな素敵な王子様と結婚出来るなんて……」

 

「それじゃあ、王都へ行くか?」

 

「まさか! コルセットでギュウギュウ締め付けられるドレスなんか着せられたら、せっかくのご馳走も美味しくないわ。そんな意味のない食事は絶対に嫌。

 私は自分で料理した、毒の心配のいらない安心安全な温かい料理を、家族と楽しく食べられる暮らしの方がいいわ。

 それに、レイをとられるんじゃないかと年がら年中ビクビクするなんて絶対にごめんよ。貴族のご令嬢の迫力は町娘の比じゃないのよ! こっちの身が持たないわ。

 だから故郷へ帰りましょう、旦那様。王様も私を追うのを諦めて下さったみたいだし」

 

 俺は立ち上がるとアンジーの所にへ行き、背中から妻を抱き締めた。

 

「ああ、帰ろう。

 早くおばさん、いやお義母さんに顔を見せてやろう。そしてお義母さんの体調が良くなったら結婚式をしよう。ロイドが夜通しのパーティーをしてくれる約束をしてるんだ」

 

「素敵ね! 楽しみだわ」

 

 しかし、俺達がせっかく甘いムードに浸っていたと言うのに、空気の読めない客人二人がこんな事を言い出した。

 

「王子殿下、聖女様、故郷へお帰りになる前に、お二人のお力を我々にお貸し願えないでしょうか?」

 

「アンジー様の大きな破壊力で王都の悪を破壊し、それをレイ様に修理して頂きたいのです……」

 

「「はぁぁぁ・・・???」

 

 俺達は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった!

 

 

 確かに俺は国王の血は引いているのかも知れないが、そもそも王家には最初から俺なんか存在していない事になっている。

 そして俺は王家の恩恵など全く受けていないのだから、王家のために何かしてやる義理などない。

 

 しかしバージルからの計画を聞かされた俺は、国のために働くのは一国民としての義務だろう、と思った。

 そしてアンジーもノリノリになった。散々自分を利用しコケにしてきた連中を、一度ギャフンと言わせてやりたいらしい。

 

 というか、アンジーは俺より優しくて強い。古くて役に立たないだけでなく、人々を苦しめる伝統や形式をぶち壊したいらしい。

 しかし彼女は彼らの計画に乗る前に、バージルやランディ、そして彼らの呼び掛けに集まった仲間達に何度も執拗に確認した。

 

 破壊なら誰だって出来る。大事なのはその後どうやって社会を立て直すかって事だ。そのビジョンをちゃんと持っているのか?と言う話だ。

 

「ちゃんとプランを練ってきなさい! こんなんじゃ駄目よ、やり直し!」

「えっ? あんた達は何様なの? 自分達ばかりに優先してたら今とまるで変わらないじゃない、やり直し!」

「もっと情勢を把握して、周りをよく見なさいよ、やり直し!」

「いろんな人の意見を聞いた上で、もっとそれをすり合わせてきなさいよ、やり直し!」


 疲れたとブツブツ文句を言う連中に癒やしの術をかけながらアンジーはこう言い放った。

 

「王都の人達は長い間自分達だけ、安全な城壁の中で温々といい思いをしてきたのよ。

 正直、城壁の外で生まれ育った私達夫婦には、手助けなんかしてやるいわれはないわ。

 だけど、名目上同国民だと言うだけで協力するんだから、その後の責任はそっちでちゃんととってよね。

 私達は兄嫁のお産が始まる前には絶対に故郷へ帰りますからね!

 

「本当にわかってる? 返事は? 声が小さい!!」

 

「「「アイアイサー!!!」」」

 

 我が家はまるで騎士団か警邏隊の駐屯場のようになっていた。この様子にさすがのバージルもあ然としていた。

 まあこれが農民パワーって奴ですよね! 農業は一人、又は一家族だけではやっていけない。周りの仲間達の協力がないとやっていけないのだ。

 そして毎日自然と戦っているから、城壁の中で楽な生活している軟な人間とは違うのだ。

 

 俺の母親が死んだ時、アンジーは自分の力がないせいだと泣いた。しかし俺の母親はアンジーの癒やしの力なんてどうでも良かったんだ。

 アンジーが元々持っているその優しさや強さが好きだったのだ。そしてアンジーならば息子の側で支え合って生きて行ってくれるだろうと思ったんだ。

 だからこそ、母はあのオルゴールとネックレスを彼女に贈ったんだと思う。

 俺はそんな優しくて強くて逞しいアンジーと夫婦になれて、本当にラッキーな男だと思う。

 

 そして計画を練りに練った一月後、俺とアンジーとバージルとランディ、そして二人の仲間達と共に王都へ向かったのだった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 俺は公爵令息ランディの護衛騎士の振りをして登城した。

 ランディが侯爵令息のバージルと共に聖女アンジーを見つけてきたので、国王と謁見したいという名目だ。

 

 本来俺に護衛騎士の振りは無理がある。しかし、俺の容姿は目立つらしく、顔を隠した方がいいらしい。

 

「お義母さんに瓜二つだもの、王妃様を知っている年代の人が見たら、きっとすぐに身元がばれてしまうわよ」

 

 そうアンジーに言われ、顔に傷がある設定で、顔の斜め半分を隠すような仮面を被され、騎士服を着せられたのだ。

 

「顔の斜め半分が見えなくてもレイは素敵だわ。惚れ惚れしちゃう。

 それに比べて私は相変わらずダサい聖女服だけど、他のご令嬢に目移りしたら承知しないわよ」

 

 一人で妄想して勝手に悋気を起こしている妻が可愛くて、思わずにやけてバージルに呆れられた。

 

 とりあえず仲間の護衛騎士をしている男に歩き方だけは教わって、数日練習はしておいた。

 そして怪しまれないように、キョロキョロと見回したくなるのを必死に堪えて、俺は真っ直ぐ前だけを見て進んだ。

 

 

 そしてとうとう俺は実の父親の姿を目にしたのだ。

 さすが平凡王と呼ばれていても、王だけの事はある。威厳があり、鍛えられた立派な体躯をしていた。ただ、まだ四十そこそこの年齢のはずなのに、酷くやつれて老けて見えた。

 さすがに妻と息子の事で憔悴しているのだろう。

 

 幼い頃は父親はどんな人なんだろうって色々と想像したものだが、何せ愛人作って母を捨てたと聞いて育ったので、会いたいとか、恋しいとか、憧れとかそんな特別な情は持っていなかった。

 そして実際目の当たりにしても、ただ生物学的な父親という認識しかなかった。喜びも憎しみも湧いてはこなかった。


 読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ