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第十二章 愚かな国王と王太子

 王太子がざまぁされる話です!


 王太子は聖女であったアンジーと婚約破棄した後、すぐにシルビアと婚約を結び直そうとした。

 確かに最初の婚約破棄は、聖女が突然現れたせいだったので不可抗力だと言えない事もない。しかし、長い間婚約していたのだから、それなりの詫びやフォローがあって然るべきだった。

 

 しかし王太子だけでなく、国王も王妃も全くそれをしなかった。ただドレスや宝石を勝手に送り付けてきただけだった。それもまるで聖女に対する嫌がらせのように。シルビアに対する思いやりや配慮など一切なかったのだ。

 

 舞踏会でアンジーと初めて会話らしい会話をした時に、シルビアはアンジーもまた、王家の都合で一方的に婚約者にされた挙げ句、なんのフォローもされていない事実を知って愕然とした。

 

 王太子は最初にシルビアと婚約破棄をした時に、一方的にこう宣ったのだ。王妃は無理だが、今度は側妃候補にしてやると。

 

「建前上側妃だが、君が事実上の王妃だからな。お妃教育は今まで通りにちゃんとやるんだぞ。いずれ君が私の公務の手伝いをするのだからな」

 

 つまりシルビアを上手く利用したいだけなのだ。あの聖女と私は王族にとって、都合よく働く駒でしかないのだ。

 

 そしてその後、候補といっても側妃になる事が確実だと保証してやれば、あちらの方の相手もしてくれるだろう。そういう下心が見え隠れするようになってくると、シルビアは王太子を見る度に吐き気がした。

 彼女は次第に王太子と王族に対して、激しい憎悪を抱いていった。

 

 元々政略的な婚約だったが、それでも以前のシルビアは王太子を愛していた。それは王太子がいつも自分を愛していると囁いてくれていたからだ。

 だから、身も心も許したのだ。いずれは結婚して夫婦になるのだからと。

 しかし、王太子が欲しかったのは自分の身体だけだったのだ。

 

 聖女から王太子が市井の風俗店に通っていると聞いた時、シルビアは最初は信じられなかった。

 しかし、何度も関係を迫られるようになって、ああ、コイツは相手をしてくれる女なら誰だっていいんだという事にようやく気が付いた。

 

 シルビアは将来王妃になるために長い間后教育を受けていた。その上学問だの、マナーだの、外国語だの、必死に努力してきた自分の価値が、市井の女、しかも商売女となんら変わりないとされたのだ。

 こんな屈辱的な事があるだろうか?

 

 王太子がそのつもりなら、肉欲はそんな女達で満たせばいい。

 病気や怪我を治してもらいたいなら、将来正妃である聖女や治療師に診てもらえばいい。

 そして側妃である自分は、正妃としての公務だけを果たせばいいんだわ。

 それに将来の後継者なら、公爵家か姉姫様のお子様からでも選べばいいのだし……とシルビアは思った。

 

 ところが王太子が突然両陛下のいない舞踏会で、聖女に婚約破棄を言い渡してしまった。あまつさえ自分と再婚約して王太子妃にすると言い出したのだ。冗談ではない。

 

 シルビアは両親に、王太子が市井の風俗店に通っては度々下の病気に罹り、その度に聖女様に治して頂いていた事実を告げた。そして、何度も自分に関係を迫ってくるので怖いと。

 最初は今度こそは本当に王太子妃になれるのだから我慢しろ、と父親は言った。しかし、

 

「貴方は侯爵家である私達の娘が、商売女と同等に見られても平気だとおっしゃるのですか? 

 それにもう聖女様はいらっしゃらないのに、王太子殿下がまた病気をもらってきて、それで娘まで感染させられたらどうするんですか?」

 

 母親が珍しく父親を厳しく責め立てたので、父親もようやく事の重大さに気付いたようだった。

 そして、いくら何でも再婚約の話は早過ぎる。娘の気持ちを少しは察して欲しいと、侯爵は王家に婚約話の保留を願い出たのであった。

 

 

 王太子は再婚約してやると言えばシルビアが喜んでそれに応じ、また身体の関係を持てると信じていた。

 しかしなんと侯爵家が断ってきた。その上、会いたいとシルビアに何度誘いの手紙を出しても断られるばかり。

 そこで王太子は身体の熱を抜くために市井に出かけようとしたが、市井では流行り病が広がり始めていたので、王太子は外出を禁じられてしまった。

 そうこうしているうちに、やがて王城内でも流行り病にかかる者が増え始め、なんと王妃まで感染してしまって大騒ぎとなってしまった。

 

 王太子のストレスは溜まり続け、ある時侍女を無理矢理へ自室へ連れ込もうとしたが、すぐに近衛兵がやって来て彼女を逃してしまった。

 それからというもの、何度も侍女やメイドに手を出そうとしても、全て未然に防がれてしまった。

 

 そしてついに、王太子の身の回りにいるのは男の侍従と鍛えられた女性の騎士だけとなってしまった。

 

 

 王太子は荒れ狂った。

 しかし誰も王太子の相手をする者はいなかった。皆流行病の対策に追われていたからである。

 そしてやがて暴れ回っていた王太子もそのうち大人しくなった。いや、大人しくなったのではなく、下の病気が重くなって、寝込むようになったのだ。

 

 王太子を診た侍医は、両親である国王陛下と王妃にこう言った。

 

「病が既に頭にまで達しています。手の施しようがありません。

 以前聖女様に治癒して頂く度に、私も同行して二度といかがわしい場所で遊ぶのはお止め下さいと何度も忠告させて頂きました。

 それなのにこのような事になって残念です」

 

 国王はその事実を知らされていなかった。母親である王妃が隠していたのだろう。

 

「何とか治してくれ。世のたった一人の息子なのだ」

 

「そう言われも私はただの医師に過ぎず、聖女様のような奇跡は起こせません。

 もう聖女様はいらっしゃらないのですから、どうしようもありません」

 

 王太子自ら聖女様を追い出したのだから自業自得だと侍医は心の中で思った。

 

 医師と聖女は商売敵と思われがちだがそんな事はなかった。

 生死を彷徨うほどの者でなければ、対価を払いたくない者達は当然医師を頼っていたからである。

 寧ろただで自分達を治してくれとやって来る図々しい怠け者達が近寄って来なくなって、彼らはせいせいしていたのだ。

 

 そしてそのぐうたらな怠け者達は、聖女に本人達でも支払えるそれなりの対価で命を救われ、しかも真人間とまでは言えないにしても、大分ましになって社会復帰している事に、医師達も喜んでいたのである。

 

 せっかく世の中が少しはマシになって来たと思っていたのに、この愚かな王太子と王侯貴族のせいでまた昔に逆戻りだ…

 侍医は深いため息をついて下城したのだった。

 

 侍医に死刑宣告されたような気持ちになり、国王はさすがにショックを受けた。しかも隣では妻が喚き散らしていた。

 彼女の顔は赤いシミのような斑点だらけになった上に、酷く歪んでいた。そのせいで更に醜く見えて、とても王妃とは思えない有様だった。

 いや、正式には王妃ではなく側妃なのだから、それも仕方がないのかと、彼は皮肉な笑顔を浮かべた。

 

 この醜い女は公の場では王妃だと名乗っているが実は違う。何故彼女を王妃にしないのかと言えば、王妃になる為のアイテムを彼女が持っていないからである。

 

 王妃の証明である七色硝子のネックレスは、国王の最初の妻と共にこの城から消えた。いや、王妃は追い出されたのだ。国王の長年の愛人だった今の妻に。彼が地方へ視察に行って城を留守にしている間に……

 

 国王は元々長年子の出来ない妻よりも、既に我が子を二人も産んでくれた愛人を大切にしていた。

 絶世の美人で社交界一の淑女だと褒めそやされていた元侯爵令嬢だった王妃に、何をやっても全て平凡だった国王は嫉妬していたのだ。

 

 ダンスと容姿だけが取り柄の貧乏な伯爵令嬢の愛人は、教養がなくマナーもいい加減で我儘だった。しかしそれが却って彼の優越感を満足させてくれたのだ。周りの人間は皆快く思ってはいなかったが。

 

 そしてある日。国王が地方視察へ出かける直前に、王妃は久し振りに明るい笑顔を自分に向けて、お戻りになったらご報告したい事がありますと言った。

 あれは何だったのか、彼女は何が言いたかったのか、と国王は今でもよく思うのだった。

 

 彼女がいなくなった当時はそんな事を思い出しもしなかった。鬱陶しい女がいなくなってせいせいした。これでようやく自分の唯一の女性とだけ一緒にいられるのだ、と思ってほっとしていた。

 

 しかし、そんな気持ちは半年も続かなかった。

 愛人は正式な王妃に成れないと知ると、どうにかしろと喚き散らした。王妃が差し出した王妃のアイテムだった七色硝子のネックレスを、

 

「こんな安物なんかいらない。あんたにはよく似合っているから一緒に持って行きなさいよ!」

 

 とそう言って、自らそのネックレスを踏み潰しておきながら…

 

 元王妃はその硝子の破片を拾い集めるとハンカチに包んで、すぐに城から去ったと侍女から聞いた。

 

 愛人は王妃になりたがっていたくせに、まともにお妃教育を受けなかった。ちゃんと学んでいたら、王族にとってその付随するアイテムの大切さを理解する事が出来ただろうに。

 王妃のアイテムは壊れてしまった。今後この国には王妃は存在しないのだ。

 

 しかしそれを公にする訳にはいかないから、新たに王の側妃になった女の首には、イミテーションの七色硝子もどきのネックレスがかけられている。

 偽者の王妃に偽物のアイテムのネックレス……お似合いだ。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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