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04.騎士の正体

「っ!」


 触られるだけでも嫌なのに、酷く乱暴で、とても痛い。

 普段はにこにこしているくせに、これがこの男の本性なのだろうか。


 それに私はこんな格好でいるのに、そんなことお構いなしに、どんどん進んでいく。

 途中、すれ違う城の者たちが驚愕に目を見開いてこちらを見ていて、私はその手を振りほどこうと試みたけれど、男性に本気で掴まれていてはびくともしなかった。


 そのまま強引に腕を引かれて連れていかれたのは、王の間。


「父上!」


 扉の前に立つ騎士を無視して、バンっと勢いよく中へ入ると、エトワールは感情に任せたように声を張った。


 玉座に座っていた国王と、その両隣に立つ父。そして騎士、フォリス様。

 それに十数名ほどいた従者たちが、一斉にこちらを向いた。


 恥ずかしさと恐怖から、私の顔に熱が集まるのを感じる。


「この者は私に不敬を働いた! よって、婚約破棄を言い渡します!!」

「……なんと」


 最初に言葉を漏らしたのは、父だった。


 エトワールはまるで投げ捨てるように私の手首を乱暴に放すと、更に続けた。


「王子であるこの私の顔を叩いたのだ! 更なる罰を求めます!! 彼女は今までも私の婚約者として相応しい態度を一切取ってこなかった! 高飛車で傲慢で、可愛げの欠片もない!!」

「……」


 信じられない……この人は、こんなところで何を言っているの?

 昔はこんなに自分勝手な王子じゃなかったのに。

 ちやほやされすぎて、人が変わったのかしら。


「……」


 あまりに突然な事態に、王もすぐに言葉が出ない様子。


 ……ううん、でもありがたいじゃない。こんな男と結婚しなくて済むのなら、罰の一つくらい受け入れよう。こんな色香に腐った男なんかと、結婚するくらいなら……。


 突然すぎるこの状況に、言葉を発せられる者はいなかった。


 それにしても恥ずかしい。

 父や陛下や従者たち、男性の前で、フォリス様の……前で。

 どうして私はこんな仕打ちを受けているのだろうか。



 シン――と空気が張り詰める。



「それは言い過ぎではないですか?」



 けれど、その空気を割いたのは、フォリス様の大きな溜め息だった。


「……なんだ、おまえ。誰に向かって言っている」

「あなたですよ、エトワール王子。他にいますか? あなたのお噂はかねがね聞いておりましたが、実に酷いものだ。本当に、とてもよい勉強になりました」


 誰に言っているのか、後半は一人で頷くように言うと、フォリス様は迷いのない足取りでツカツカと私に歩み寄り、自分のマントを脱いで私の肩にそっとかけた。


「あ……」


 見上げると、彼の冷たげな瞳と一瞬目が合った。けれどその後すぐ、彼の視線は私の胸元へ落ちた。驚いたように瞳を見開いたから、私は胸元の痣を見て引いているのだと思い、そこが隠れるようにサッとマントを着込んだ。


「……まったくだ。呆れて言葉も出ない。みっともないところを見せてしまったな」


 続いて、国王が深く息を吐いて言う。


 ……それにしても、何かおかしいわ。

 陛下の今の言葉は、ただの騎士に向けられたものとは思えない。

 それに、エトワールだって一応は王子。そんな彼にあんなことが言えるなんて……。


「おまえのようなただの騎士が、誰に口を利いている! この女は私の頬を叩いたんだぞ!?」


 自分が無視されているような空気に、エトワールはギリ、と歯を食いしばって私を指さした。


「この状況を見れば、あなたが叩かれるようなことをしたということは聞かなくてもわかる。……彼女の腕もこんなに赤くなってしまって……」


 そう言って、フォリス様は私の手を取った。

 エトワールとは比べ物にならないほど優しい触れ方だった。

 そしてそこには、エトワールに掴まれていた痕がくっきりと残っている。


「この国の王子は婚約者がいようが、結婚前に複数の女性と関係を持ち、女性に暴行することも許されているのですか? 更に、それに抵抗すれば女性のほうが罪人だと?」

「……っ!」


 フォリス様は鋭い視線をエトワールに向けた。

 その眼差しは、とても一介の騎士が王子に向けるものではない。

 エトワールも、突如放たれたオーラとその威圧にビクリと身体を震わせた。


「これなら魔物の方がまだマシだ」

「な、なんだ、貴様その口の利き方は……、私を誰だと思っている! 恥を知れ!!」


 そのオーラは、明らかに只者ではなかった。

 私でもわかるのに、この王子はプライドなのか、意地なのか、未だ負けじと口を開く。


「おまえのほうこそ口を慎め、エトワール。ティアローゼよ、本当に愚息が申し訳ないことをした。なんと詫びてよいか」


 陛下はエトワールに厳しい言葉を放つと、椅子から立ち上がり私に謝罪した。

 この愚息のせいで、国王陛下が私に詫びを入れたのだ。

 その意味の重さがわからないほど、この王子は愚かではないはず。


「ど、どういうことですか、父上! 私の話を……!」

「この方のお顔すらわからずに無礼を働くとは、おまえのほうがよほど恥を知らぬな」

「っ!?」

「おまえは過去にも会っているぞ。この方は隣国クロヴァニスタの、魔王フォリス殿下である」


 国王の言葉に、エトワールも私も驚愕し、息を呑んだ。



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