34.翌日の魔王城
ティアと無事お披露目式を終え、契りの儀も完全に行ったその日、父上の余計な計らいにより俺はティアと寝室を共にした。
また余計なことを……。そう思ったが、ベッドの上で小さく縮んでいるティアがあまりにも可愛くて、怖がらせてしまったかもしれないが、その頬に触れ、愛おしい身体を優しく抱きしめた。
ティアが不安に感じながらも覚悟を決めてくれているのだと感じて、とても嬉しかった。
本当にティアは可愛い。
お披露目式での彼女は女神と見間違うほどに美しく、俺の腕の中で小さく固くなっている姿はすぐに食べてしまいたくなるほどに愛らしかった。
だが、そんなに焦る必要はない。
俺は健康だし、この先は長い。
こんなに緊張しているティアは可愛いが、ならばもう少しこんなティアを見ていてもいいだろうかと、ただ彼女を抱きしめて眠りについた。
この気持ちがティアにバレたら、彼女は怒るだろうか?
と言っても、俺はなかなか眠りにつくことはできなかったが。
ティアはとても疲れているようで、やがてスヤスヤと寝息を立てて眠ってくれた。
自分の腕の中でティアが眠っているということが、未だに信じ難く、まるで夢のようだと思った。
こんなに幸せに思えるのなら、いっそ夜が明けなくても構わないとさえ、本気で考えた。
それでも朝はやってきて、ティアは目を覚ますと一瞬俺の顔を見て目を見開き、その白い頬をぼっと赤く染めた。
一緒に寝たことを一瞬忘れてしまっていたらしい。
その反応も、すべてが可愛い。
そう思いながら「おはよう」と声をかけ、そっと額に口づける。
そしてそれぞれ支度を済ませると、再び共に食堂へ向かった。
だが、向かう途中。
何やら城の中がバタバタと慌ただしい。
更に俺の部屋の前に父上が立っているのが見えたので、そこに足を進めた。
「おはようございます。父上、騒がしいですが、何かあったのですか?」
ティアも俺の隣で父に挨拶をすると、父は俺たちを見て、まずにんまりと笑った。
「早いではないか。もう少しゆっくり休んでいてもいいのだぞ?」
「……大丈夫ですよ。それより、何かあったのかと聞いているでしょう」
この父上は、放っておいたらティアにどんなことを言うかわかったものではない。
俺たちは昨夜何もしていないが、この父上は何かあったことを期待しているに違いないのだから。
「ああ、少し準備に追われているだけだ。何せ急だったからな。おまえが使っていたものを引っ張り出してきたのだ」
「……なんのことですか?」
答えになっていないと思いながら部屋を覗き込むと、俺のベッドが置かれていた場所には何故か豪華なベビーベッドが置かれていた。
「……は!?」
ティアも一緒になって中に視線を向けたらしく、その意味を悟って頬を染める。
「いや、いくらなんでも気が早すぎるでしょう!?」
本当に、このオヤジは……!!
「……何を言っている」
「だから、そのようなプレッシャーをかける行為はやめていただきたい。私たちは私たちのペースで――」
「だから、何を勘違いしている」
「え?」
またティアを嫌な気持ちにさせてしまう。
そう思って父を叱責したが、父は依然真面目な顔で俺を見て言った。
「フォリス、おまえに弟ができるぞ」
「…………は?」
「キルシェがな、懐妊した。実にめでたい!!」
「………………」
嘘だろ……!??
なんの冗談かと言葉を失ったが、さすがの父もこんな嘘をつくような男ではない。
それに、現にベビーベッドが運び込まれているのだ。
何故この部屋に……。とは思うが、使用人たちの様子を見るに、どうやら本当らしい。
「本当ですか……? 今更、私に弟が……?」
「ああ、魔王は世継ぎが誕生すれば子ができにくくなるからな。今更でもおかしくはないぞ!」
ははははは――!
確かに、二人は不老だから、あり得ない話ではないのだが。まさか、今更弟ができるなど、考えてもいなかった。
「それで、母上は?」
「部屋で休んでいる。体調はいいのだが、無理をさせてはならないからな」
「そうですか……」
突然の状況に頭が追いつかず、額に手を当てて小さく息を吐いた。
だが隣ではティアが輝くような笑顔で「おめでたいですね!」と言って両手を合わせていて、俺もそれにつられるように小さく笑みを浮かべた。
お読みいただきありがとうございます!
番外編。お披露目式あたりのお話でした。
父親に先を越されるフォリス様……。
また気が向いたら番外編書こうと思います(^^)