26.告白の前に
ティアローゼがクロヴァニスタにやってきて、五日になる。
その間、彼女とはできるだけ共に時間を過ごした。
街やその周辺を案内したり、騎士団の訓練を見てもらったり、本が好きだという彼女を王城の図書室へ連れていき共に読書をしたり、調理場を借りて二人で一緒にお菓子を作ったりもした。
紅茶に蜂蜜を入れて、出来上がった焼き菓子を二人で食べながら談笑する時間はとても楽しかった。
蜂蜜が好きだと言う彼女は、それを使う際、無意識なのか意識的なのか、必ず俺の髪に目をやった。
父と母の髪色を合わせたようなこの色は、よくそれに例えられる。
しかし、彼女が好きだと言って見てくれるなら、こんなに喜ばしいことはない。
上目遣いで見上げてくる大きな瞳がとても愛らしくて、俺のほうが彼女を食べてしまいたくなる。
……本当に、ティアローゼは可愛い。
彼女を見ていると、自然と頬が緩む。
俺はこんなに顔の筋肉が緩い男だっただろうかと、何度も自嘲した。
とにかく、その反応があまりにも可愛く、面白いものだから、つい何度かからかってしまった。
そうすれば素直に頬を染めるティアローゼは、本当に罪なくらい可愛いのだ。
そういう顔を見せるのは俺の前だけにしてもらいたいと、切に願う。
国を留守にしている間に多少の仕事は溜まっていたが、シェニルの協力もあり、俺はとても楽しく充実した日々を送ることができた。
ティアローゼが俺の妻になってくれれば、毎日こうした日常が送れるのだと思うと、胸がいっぱいになった。
まだまだティアローゼとやりたいことはたくさんある。
早く、君をこの手で抱きしめたい。
何度もそう思いながら今日も夜を迎え、「おやすみ」を言って送り届けた彼女の寝室を離れた。
父も母も、従者たちも国の住民も、彼女を気に入ってくれている。
会えば当然そうなるだろうとわかってはいたが、やはりそれでも嬉しいことだ。
父や母に至っては少し気が早すぎて彼女にプレッシャーを与えてしまっていないかと不安になるくらいだった。
しかしティアローゼの滞在は一時的なものなので、一週間でコルリズに帰る予定となっている。
彼女と共に過ごす時間が増えたが、俺の想いは募る一方だ。
彼女を知れば知るほど、どんどん好きになる。
契りの儀など関係なく、やはり俺の相手はティアローゼしかあり得ない。
改めてそう思わされ、もう一度彼女に求婚しようと、心に決めた。
*
「彼女に結婚を申し込もうと思う」
その日の夜、俺はシェニルと酒を飲みながら、そのことについて話をした。
「そうか。彼女もきっと頷いてくれるだろう」
この数日で、俺にもその手応えはあった。
最初は一方的に握っていた彼女の手だが、最近は彼女のほうからも握り返してくれるようになったのだ。
それに、俺を見つめるその瞳にも、自分と同じような熱が込められているように感じる。
これは決して自惚れなどではないはずだ。
「だが何か、プレゼントをしたいと思っている」
「プレゼントか……まぁ、女に贈るものの定番と言えば花か、アクセサリーか、あとは甘いものとか……愛の言葉だな。もうぬいぐるみという歳ではないだろうし」
ふっと自嘲しながら言うシェニルだが、こいつは女性に贈り物を送ったことがあるのだろうか。
そういう相手がいる話などは聞いたことがない。
それにしても、アクセサリーは以前プレゼントしたし、そうなると……。
「……花か」
彼女は昔から花が好きだった。
「ああ、確かおまえの契りの証は薄紅色の薔薇だったか? 珍しい色だが、魔法でなんとかできるだろう。花束を用意させようか?」
薔薇の花束か。
定番だが、薄紅色の、それも彼女が驚くほど大量に用意すればどうだろうか。
俺たちの出会いを思い出せるし、印象に残りそうだ。
「……いや、待て――」
だがそう考え、ふと思い出したことがある。
彼女は確か、摘み取られた花は可哀想だと言っていた気がする。
花瓶などに生けられた花よりも、地に根付いている花が好きなのだと……。
それならば――。
「至急庭師を呼んでくれるか? それから、悪いが魔導師長も起こしてくれ」
「おい……今からか?」
「後で礼はする。頼む、彼女を驚かせたいんだ」
「まぁ、おまえの頼みならみんな喜んで聞くと思うがな」
わかったと、頼もしい返事をしてシェニルはすぐに二人を呼びにいってくれた。
そして俺も城の裏にある、自身がよく寛いでいる庭に出て、魔力の調整を行った。