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24.街にお出かけ

「ティアローゼ、今日は街を案内しようか」


 翌日、朝食を済ませるとフォリス様は食後の紅茶を飲みながら私にそう提案してくれた。


 クロヴァニスタの街。

 ……とても興味がある。行ってみたい。


「ありがとうございます。ですが、フォリス様は国に戻られたばかりで色々とお忙しいのではないですか?」


 ひと月も国を空けたのだから、きっとお仕事が溜まっていると思う。


「私はクーナと一緒に街を見てきますので、どうぞお気遣いなく」


 本当にご迷惑をかけないようにと思って言ったのだけど、フォリス様は私の言葉に少し悲しそうな表情を見せた。


「……はっきり言わせる気か? わかった、白状するよ」

「え?」

「ティアローゼ、私とデートしていただけませんか?」

「……あ」


 そっか、そういうことか……。


 エトワールとはちゃんとしたデートなんてできなかったし、もちろん彼の婚約者だった私は他の男性からデートに誘われることなんてなかったから。


 察しが悪くてすみません……。

 でも、そういうことなら。


「はい……喜んで」


 恥ずかしく思いながらも頷けば、フォリス様も嬉しそうに「よかった」と微笑み返してくれた。




 それから準備をして、馬車で街へ向かった。


 街中に近づくにつれ、見るからに魔族だとわかる風貌の者も見受けられるようになってきた。


 獣の耳や尻尾、それに様々な角が生えている者もいる。


 さすが、魔族の国。


「着いたよ。行こうか」

「はい」


 適当なところに馬車を停め、先に降りて手を差し出してくれるフォリス様。


 その手に掴まって降りると、そのままギュッと握られて歩き出す。


 ……予想はしていたけど、やっぱりまだ慣れない。


 握られた手を意識しないように周りを見て、「わぁ……」と声を漏らす。


 とても魔族が暮らしている街とは思えないほど、美しく立派な建物が並んでいる。


 道行く人たちも落ち着いていて、怖い感じはしない。


 それでも人間の私がいて大丈夫なのかと、少しドキドキする。


「……大丈夫だよ。この国の者は皆、人間に好意的だから」

「え……あっ、すみません!」


 ほんのり頬を染めて、照れたように笑いながらそう言うフォリス様に、また私の心を読まれた? と思ったけれど、つい手に力が入っていた私が彼の手を強く握っていたのだと気がつき、ハッとする。


「いや、私は嬉しいんだけど」

「…………」


 思わずパッと放そうとした私の手を「逃がさない」と言うように捕まえるフォリス様。


 なんとも言えず、ただ顔が熱くなる。


 でもやっぱり、フォリス様が一緒に来てくれてよかった。

 私とクーナだけだったら、きっと怖くなって馬車を降りずに帰っていたかもしれない。


 けれど、この国の王太子殿下であるフォリス様が、護衛を一人も連れずに街へ来ても大丈夫なのだろうか。


「あの、フォリス様」

「ん?」

「本当に、二人きりで外出して大丈夫だったのでしょうか」


 その疑問をぶつけてみると、フォリス様は一瞬考えるように私を見つめてから「ああ」と声を出した。


「何かあっても君一人守れるくらいは強いつもりなんだけど……不安?」

「いえ、そうではなくて……あっ」


 言いながら、気がついた。

 そうか。この方は、ただの王太子ではないのだった。


 魔王だ。魔族の国の、魔王。護衛など彼には必要ない。

 だからコルリズの国にも一人で来ていた。



 納得して歩みを進めると、すれ違う住民たちは皆、フォリス様を見て穏やかに微笑み、気さくに挨拶をしてくれた。


 端に控えるということもせず、ただ立ち止まってにこやかに挨拶をする。

 フォリス様もそれに笑顔で応えている。


「あー! フォリスさまだー!」


 小さな子供なんて、両手を広げて彼に駆け寄り、抱っこをせがんでいる。


「おお、クリスト、元気だったか? 少し見ないうちに大きくなったんじゃないか?」

「すぐフォリスさまみたいなでっかい男になるんだー!」

「そうか、それは楽しみだな」


 一度私の手を離し、子供を抱えるフォリス様。

 その様子に、少し呆気にとられてしまった。


 みんな、「フォリス様フォリス様!」と、嬉しそうに声をかけてくる。

 そして、隣にいる私を見て、にこりと笑みを浮かべてくれる。


 決して「あんた誰?」みたいな顔をする者はいない。

 フォリス様の客である、という認識だけで十分のようだ。


 人間であるとわかっているのかもわからないけれど、威圧的な態度を取る者もいない。


 なんて素敵な街なのだろう。

 本当に、これでは人間のほうがよほど醜い。


「フォリス様、後でぜひうちの店にお立ち寄りくださいな」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 獣の耳を生やしたご婦人が、フォリス様にそう声をかけると私にも目を合わせて微笑んでくれる。

 私もそのマダムにぺこりと会釈した。




「すまない、すっかり時間を取られてしまった」

「いいえ、人気者なんですね」


 集まってきた子供たちが満足すると、フォリス様はようやく解放されて再び私の手を握った。


「街に来たのは久しぶりだったからね。それより待たせてしまって疲れただろう? お腹は減ってない?」

「……そういえば、少し」

「よし、では何か食べて行こう」


 疲れたのはフォリス様ではないですか?


 そう思って小さく微笑んで、ぐいぐいと歩いていく彼についていく。


 フォリス様、なんだかとても楽しそう。


 偉そうにせず、飾らない魔王。


 そんなフォリス様の姿に、私の胸は熱くなった。


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