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16.国王へ謁見

 あれから二日が経ったその日、私は陛下に呼ばれていた。


 エトワールとの婚約が破棄された私は、自分の屋敷へ戻るための荷造りを済ませ、国王に会いに行くため気合いを入れて自室を出た。


 あの日は突然エトワールに連れて行かれたけれど、王はそう頻繁に会える人物ではない。

 子供の頃にエトワールと婚約した私は、父に連れられ登城した際、何度か顔を合わせたことはあったけれど、そんなに多く会話を交わしたことはなかった。


 だから少し緊張する。

 あの日、陛下は私に頭を下げ謝罪してくれたけど、どんな理由があれ私は陛下の実の息子であるエトワールに不敬を働いてしまったのも事実。

 陛下の気が変わって、やはり処罰を……なんてことになったらどうしよう。


 もしそうなれば、私は罰を受け入れるしかない。

 どんな罰が下されるかわからないけれど、さすがに死刑になったりはしないと思うし……。


 緊張しながらも「よし!」と自分に気合いを入れて部屋を出ると、廊下を歩いた先にあるスペースに置かれたソファーに、フォリス様が座っているのが見えた。


「フォリス様!?」

「こんにちは、ティアローゼ」


 私に気がつくと、フォリス様は立ち上がってこちらに身体を向けた。


「フォリス様、ご機嫌麗しゅうございます。どうされたのですか?」

「そんなにかしこまらなくていいよ」


 膝を折って挨拶すると、彼はくすくすと笑みをこぼす。

 あまり笑っているお顔を見たことがなかったから、まだ慣れない。こっちが照れてしまう。


「ティアローゼがエドライド王に会いにいくと聞いてね」

「はぁ……」


 だったらどうしたのだろうか。

 私がまだわからないというように疑問を顔に浮かべていると、フォリス様は再びふっと口元に笑みを浮べた。


「お供させていただいても構いませんか?」

「え?」

「私も陛下に呼ばれていてね。ご一緒しても?」

「そうだったのですね。それでは、ぜひ」


 それでわざわざ迎えにきて、待っていてくれたのかしら。


 魔王様を待たせてしまっていたなんて……。言ってくれればよかったのに。

 そう思うけど、思わぬことについ嬉しくなってしまう私。


「行きましょう」

「……え」


 にこり、と笑いながら、そっと手を差し出される。


 手を繋ごうということ……?


「……はい」


 にこにこしながら私が手を重ねるのを待っているフォリス様に、遠慮がちにそっと手を差し出す。


 平然としていたいのに、どうしても顔が熱くなる。こういうことは実戦経験が乏しいせいで、慣れない。


「……」


 並んで歩きながら、背の高いフォリス様の横顔をそっと窺った。

 口元を引き締めているけれど、やっぱりなんだか嬉しそうに見える。


「……」


 フォリス様と手を繋ぐというのはまだ緊張するけれど、彼が来てくれてよかった……。

 だって一人で陛下のところへ行くのは少し怖いから。

 けれどフォリス様がいてくれたら、大丈夫な気がしてしまう。

 まだ再会して間もないけれど、先日のようにもし何かあっても助けてくれるのではないかと、思えてしまうのだ。


 私が小さい頃に聞いた、お伽噺に出てくる王子様のように――。


「大丈夫、ティアローゼが心配するようなことにはならない」

「え?」

「あなたは自分の身を守っただけなのだから、堂々としていればいい」

「……はい」


 誰かが隣で笑っていてくれるだけでこんなに心強いなんて。


 ほとんど一方的に握られていた手を、私も少しだけ握り返した。




 *




「呼びつけてしまう形になってすまない」

「とんでもないことでございます、国王陛下」

「堅苦しい挨拶はよい、こちらへ」

「はい」


 その部屋に入ると、陛下は私を大きめのソファーへと誘導した。

 自らも向かいに置かれているソファーに腰を降ろす。その後ろには父が立っていて、フォリス様と共にやってきた私と目を合わせると小さく笑みを浮かべてくれた。


 思っていたよりも砕けた雰囲気であることに安心する。


「フォリスもかけてくれ」

「はい」


 陛下に言われ、フォリス様が私の隣に座った。


 ……でもなんか、ちょっと近すぎない?

 こんなに大きなソファーなのだから、もう少し余裕を持って座れると思うんだけど……。


「その後エトワールから話を聞いた。その上で更に詳細を調べさせた結果、やはり君には何の非もないことがわかった。ずっと辛い思いをさせてしまっていたようだね。本当にすまなかった」


 陛下はまず私に謝罪し、深々と頭を下げた。


「陛下が私に謝る必要などございません! それに、私ももう少し殿下に寄り添っていればよかったのです……ですから陛下、どうかお顔をお上げてください」

「……あの愚息には勿体ないな。寛大な心遣い、感謝する」


 それでもすぐに顔を上げず、少し間を置いてから視線を戻し、陛下は言葉を続けた。


「本来、王族に一夫多妻を認めているのは世継ぎができなかった時に限った話なのだ。それをあの馬鹿は勘違いしていたようだ。……だがそれも、私が彼奴(あやつ)を自由にさせすぎたせいでもあるな。君には本当に、申し訳ないことをした」

「いえ……、本当にもうよいのです」

「エトワールの王位継承権は正式に剥奪することが決まった」

「……」

「彼奴は少し勝手が過ぎた」


 その言葉には、少し複雑な心境になる。

 今までの彼の努力も、私は見てきているから。自分は国王になるのだと純粋に語っていた時代も、彼にはあったのだから。


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