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11.彼の想い人

 そしてその夜。

 エトワール王子についての調査結果が報告され、俺も冷静に先ほど見た光景を説明し、王子の処遇をどうするかとエドライド王が頭を抱えている中。

 突然なんの合図もなしに勢いよく扉が開け放たれ、渦中の人物、エトワール王子が入ってきた。


「父上!」


 何やら興奮している様子の王子は、無作法にも話し合いをしている俺たちの前にツカツカと歩み寄り、更に叫んだ。


「この者は私に不敬を働いた! よって、婚約破棄を言い渡します!!」

「……なんと」


 隣にいたリーリエ侯爵が声を漏らすように呟く。


 エトワールはまるで罪人を扱うように腕を掴んで連れてきていた女性を俺たちの前に突き出した。

 投げ捨てるような、とても乱暴なやり方で。

 女性の美しく、長い髪が揺れる。


「王太子であるこの私の顔を叩いたのだ! 更なる罰を求めます!! 彼女は今までも私の婚約者として相応しい態度を一切取ってこなかった! 高飛車で傲慢で、可愛げの欠片もない!!」

「……」


 唖然とした。この王子は、何を言っているんだ?


 国王の前に投げ出された女性は、ティアローゼ嬢だった。

 肩の出た夜着の姿で、小さく震えながら顔を赤くして俯いている。

 王子に掴まれていた腕にも、赤く痕が残っている。


 あまりに突然な事態に、王もすぐに言葉が出ないようだが、リーリエ侯爵は怒りに震え、今にも王子に殴りかかってしまいそうな顔をしていた。


 ああ……本当に、この男はどこまでも最低だな。


 もういいか。


 そう覚悟して大きく溜め息を吐き、リーリエ侯爵より先に彼女に向かって歩みを進める。


「それは言い過ぎではないですか?」

「……なんだ、おまえ。誰に向かって言っている」

「あなたですよ、エトワール王子。他にいますか? あなたのお噂はかねがね聞いておりましたが、実に酷いものだ。本当に、とてもよい勉強になりました」


 俯くティアローゼ嬢の前まで行って自分のマントを脱ぎ、彼女の肩にそっと羽織らせた。


「あ……」


 怒りに燃える俺の目と、不安げに見上げてきた彼女の綺麗な目が、一瞬かち合った。だが、俺は見てしまった。

 その下で、彼女の左の胸元に、何かの痣のようなものがあったのだ。


 驚いてそこを凝視するが、なんの印かまではよく確認できない。


 すると俺の視線に気がついたティアローゼ嬢はさっとマントの襟元を引き、そこを隠してしまった。


 しかし、今のは――。


「……まったくだ。呆れて言葉も出ない。みっともないところを見せてしまったな」


 もっとよく見たい……。そう思ったところに、国王のとても深い溜め息が聞こえ、俺は顔を上げた。


「おまえのようなただの騎士が、誰に口を利いている! この女は私の頬を叩いたんだぞ!?」


 それでもこの王子は負けじと言い返してくる。そしてティアローゼ嬢を指さして喚いた。自分が上に立たなければ満足できないのだろう。


「この状況を見れば、あなたが叩かれるようなことをしたということは聞かなくてもわかる。……腕もこんなに赤くなってしまって……」


 おそらく、この男が無理やり彼女を襲おうとした。

 そんなことは、ここにいる全員が感じ取っているだろう。

 ただただ彼女を不憫に思い、赤くなった腕をそっと取る。


 細く、なめらかで白い肌に痛ましい痕。


「この国の王子は婚約者がいようが結婚前に複数の女性と関係を持ち、女性に暴行することも許されているのですか? 更に、それに抵抗すれば女性のほうが罪人だと?」

「……っ!」


 隠していた魔王としてのオーラを惜しまず放ち、王子(クズ)を睨みつける。

 前に顔を合わせたことがあるのだから、さすがにこれで思い出すだろうと。


「これなら魔物のほうがまだマシだ」

「な、なんだ、貴様その口の利き方は……、私を誰だと思っている! 恥を知れ!!」


 しかし、それでもまだ言い返してきた。恐怖で唇を震わせながら。この王子は、ここが自分の城だから優位だとでも思っているのだろうか。


「おまえのほうこそ口を慎め、エトワール。ティアローゼよ、本当に愚息が申し訳ないことをした。なんと詫びてよいか」


 だがそれ以上俺が何か言う前に、エドライド王が椅子から立ち上がって声を張った。

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