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データの消し方が行方不明

 シャトルの中に入ると、先に座っていたアッシュから、一番離れた席に座った。


 ここなら後部座席のアッシュは視界に入らない。いくら密室とはいえ、見えないならいないも同然だ。なるべく接触しないで、やりすごすことにしよう。そうすれば少しは平和に過ごせるはずだ。


 ほかの乗客も乗り込んで来る。いかにも富裕層という感じの老夫婦や、高いチケットを買うお金が、どこにあったのかと不思議になるほど、貧民街でたむろしているのが似合いそうな若いカップルもいる。定員が埋まったようだ。


「まもなく天空タワー行き第四便が、出発いたします。中継ターミナルまで停止いたしません。お忘れ物のなきようご注意ください。今一度シートベルトの確認を、お願いいたします」


 アナウンスが終わると、シャトルは地上を出発した。


 前面の大きなモニターに、高度が表示されている。瞬く間に数字が増えていく。高度が上がるにつれ、重力の変化を体に感じ始めた。胃を掴まれたような、気持ち悪さがこみ上げる。


 だがしばらくすると慣れてきた。思ったより私は、宇宙酔いに強いタイプなのだろうか。もしかすると、出発前に予防接種として受けたナノマシンの中に、宇宙酔いを防ぐ効果のあるものが、含まれていたのかもしれない。


 緊張が解けると、長旅で疲れているせいか眠くなってきた。うつらうつらとし始めた時に、突然ARグラスの画面が一瞬だけ青くなった。まだ調子が悪いようだ。


 ダウンロード中という表示が出る。緊急アップデートでもあったのかと思ったが、転送されてきたのは、アプリのデータだったようだ。ダウンロードの終わったデータが、勝手に展開され、『恋愛は灰色猫先生に聞け』というアプリが起動している。


 さっそくダリルが余計なことをしたのかもしれない。もしかしたらさっき、中身をチェックしていたときに仕込まれていた可能性もある。


 うんざりしながらメニューを開いてアプリの削除をしようとするが、まるでプリインストールされている公式アプリのように、削除ボタンが表示されない。ここまでくるとただのウイルスだ。


 マスコットキャラらしき灰色の猫が、画面の端から歩いてくると、『恋のお悩み、なんでも相談にのりますニャ。質問はあるかニャ』というメッセージがポップアップされる。


 私はソフトウェアキーボードを表示した。空中をタイピングしながら質問を入力する。


    有希『アプリの消し方を教えて』

 灰色猫先生『その質問には答えられないニャ』

    有希『メッセージ表示の消し方を教えて』

 灰色猫先生『しつこい子は嫌われるニャ』

    有希『お前を消す方法』

 灰色猫先生『ARグラスの全データを消してもいいのかニャ』


 やたらと可愛らしい灰色猫先生のモーションと、毛並みのフサフサ具合のクオリティが無駄に高いだけに、雑な答えしか用意されていないというギャップに怒りすら湧いてくる。どうせダリルが思いつきで作ったものを、送りつけてきたに違いない。


 果てしなくバカらしくなってきた。もう疲れたよ、灰色のフサフサめ。なんだか眠たくてしょうがない。地上に戻ったら、ダリルがちゃんと謝ってくるまで、味噌汁は絶対に作らない。そう心に決めると、まぶたが重くて目が開けていられなくなった。


 寝ちゃダメだ。早いうちにダリルから出された宿題をやってしまおう。目をこすりながら眠気覚ましにアッシュからもらった携帯用のチョコレートを口にする。甘い味と匂いで、少しだけ意識が浮上する。


 上着のポケットからゲームブックの『青になった世界』を取り出して、最初のページを開いてみる。『真っ青なカット』や『地震』、『チョコレート』の文字が、目に飛び込んできた。登場人物の『ユキ』という名前は、私の『有希』と音は同じだ。


 現実と本の世界が、リンクしているようで気味が悪い。

 ただの偶然だ。そう自分に言い聞かせながら、私はページをめくった。




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