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摩訶不思議な天空タワー

 赤道近くのエバーブルー・アイランドという人工島の中央に、天空タワーは浮かんでいた。優雅にゆっくりと空を移動している。


 高度5万kmにある小惑星とつながっているタワーが、地面に向かって逆さまにそびえ立っている様は実に奇妙だ。まるで騙し絵の中に紛れ込んでいるみたいに、自分のいる地面のほうが、空なのではないのかという錯覚を覚えてしまう。首が痛くなるほど見上げないと全貌がほとんど見えない。地上にあるどの建築物より巨大だった。


 タワーの中には居住区のほか、オフィスやショッピングモールなど、地上の街と同じような施設が作られているらしい。実際に居住区で生活することが許されるのは、世界でもトップクラスのセレブリティーだけだった。


 ほとんどの施設は自動化され、人間の手を煩わすことなく制御されているようだ。定期的な物資の補給のほか、研究や観光目的での人の出入りがある時以外は、普段は世界中の上空を移動している。さながら空を動く巨大な機械都市といったところだ。


 摩訶不思議としか言いようがない。こんな大きなものをどうやって制御しているのか。プログラムが、どれほど複雑に絡み合って動いているのかを想像するだけで、眩暈がしそうだった。いつか人の役に立つ仕事をしたいと思っている私にとって、科学技術の結晶である天空タワーは憧れの的だった。


 搭乗手続きをうながす、場内アナウンスが流れている。


「まもなく天空タワー行き第三便が、出発いたします。搭乗手続きがお済みでない方は、お早めに手続きカウンターまでお越しください」


 アース・ポートにはシャトル乗り場が設置されていた。天空タワーが上空を通過しているときにだけ、臨時に運行されている。大型シャトルでの輸送も可能だが、物資の運搬がメインで、人の行き来は、主に小型シャトルで行われていた。シャトル乗り場には、第三便の搭乗者を見送る人たちが集まっている。交流会の参加者も混じっているようだ。


「ルネ、気をつけて行ってらっしゃい」


 声をかけられた赤毛の女子が手を振ってから、シャトルの中に入って行く姿が見えた。胸元のワッペンには『3』の数字がある。スラリと背が高くて、中性的な魅力のある女子だった。ブランド物の大きなスーツケースをいくつも持ち込もうとして、係員に止められている。旅行の荷物をまとめきれないタイプの女子なのだろうか。


 もう一人、ワッペンをつけている男子がいる。『4』という数字が刻まれていた。褐色の肌で彫りの深い顔をしていて、白い民族衣装を着ていた。オリエンタルな大人っぽい雰囲気をしている。背が高くて姿勢も良い。こちらの男子も、人ごみの中にいても人目を惹くタイプだ。付き添いの男性は、出発まで少し時間があるというのに、すでに感極まって抱きついている。


「ジナーフ、いい子にしてるんだぞ。ハンカチはあるよな。着替えはちゃんと全部確認したか。お腹痛くなったら薬飲んで。毎日寝る前に連絡忘れるなよ。それから」

「わかったから、兄さん。ちょっと黙って。っていうか、ボクの出発はまだ先だから」


 ジナーフと呼ばれた男子は、困ったような顔をしている。こんなに人がいるところで、家族に心配されるのは恥ずかしいだろう。なんだかいたたまれない気持ちになる。


 私は一人で来て正解だと思った。そういえばあの嫌味女子も一人だった。親は仕事で忙しいのだろうか。無意識のうちに嫌味女子のことを考えていることに気がついてイラついていた。


 携帯端末を取り出して、チケットをもう一度確認する。第四便と書かれていた。私が乗るのは次の便だ。もう少し時間がある。


 端末から顔を上げた瞬間、大きな揺れに襲われた。震度4ぐらいだろうか。人工島で地震があるなんて珍しい。この程度の揺れなら故郷ではしょっちゅうだ。私は平気だったが、みんな怖がっているようだ。


 揺れが収まったと思った瞬間、変な音がした。上を見上げると、天井から吊り下げられていた巨大な案内板が大きく揺れている。地震の揺れに共振して、想定以上にどんどん揺れが大きくなっていた。


 あぶない。そう思ったが足がすくんで動けなかった。揺れに耐えきれなくなった案内板が、落下してくる。死ぬかもしれない。そう思った瞬間、爆音とともに案内板が吹き飛んでいた。


 音に驚いて思わず目をつぶってしまったので、何が起こったかよくわからない。だが少なくとも私は助かったようだ。壁際には衝撃を受けて歪んでいる案内板が落ちている。そばには黒いスーツケースが転がっていた。見覚えのあるステッカーが貼られている。


 まさか落下に巻き込まれたのでは。だがその心配の必要はなかった。嫌味女子が何食わぬ顔で、黒いスーツケースを取りに来た。荷物がそこにあっただけなのかもしれない。


 駆けつけた職員が、私に声をかけてきた。


「大丈夫ですか」

「はい、なんとか」

「危険ですので、離れていてください」


 案内板が落ちた周辺は封鎖された。立ち入り禁止のテープが張り巡らされている。いつの間にか嫌味女子の姿は見えなくなっていた。


 構内アナウンスが流れている。


「ただいま発生した地震による被害状況を確認中です。しばらく発着を見合わせております。お急ぎのお客様に、ご迷惑をおかけしておりますが、安全確認のためご協力いただけますようお願いいたします」


 出発までに時間がかかりそうだ。仕方がない。しばらく構内の様子を見て歩くことにした。




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