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海を見たかった枯れ葉

作者: 超プリン体

 秋風にゆられ、今にも、一枚の葉っぱが落ちそうです。


 葉っぱは考えました。この木を落ちて風に運ばれる葉っぱたちは、みんな森の奥の方に飛んでいく。まるでそれが当然、定められた運命であるかのように。でも、僕は違う。僕は飛びたいんだ、あの、カモメのように。


 葉っぱは空を見上げました。1羽のカモメが、風に揺られながら、気持ちよさそうに飛んでいます。カモメが見つめる方向にはきっと、潮の香りのする、「海」があるのでしょう。葉っぱも海を目指して、飛んで行きたかったのです。


 その時、風が動いて、葉っぱはふわっと、空に舞い上がりました。


「よし、少しずつ、少しずつ、海の方へ。そしてもっと高くへ」


 葉っぱにとってカモメは、そして海は、「自由」の象徴でした。自由は自分で、勝ち取るもの。勝ち取らなければならないもの。葉っぱは向かってくる風に逆らいながら、じり、じり、と、海に近づいていきました。


「いいぞ。この調子なら、いつかは海にたどり着ける。でも少し疲れてきたな。少し休もうかな。いや、駄目だ。ここで休んだら、これまでの苦労がすべて、この風に吹き飛ばされてしまう」


 葉っぱは、冷たい潮風に、精一杯逆らいました。そのうち葉は痛み、ぽろぽろと、剥がれ落ちていきました。その時やっと、葉っぱは気づきました。海にたどり着く前に、自分の身体が壊れ、地面に落ち、土に帰ることになるのだろうと。身体がぼろぼろになり、軸だけとなってしまた葉っぱは、心も折れて、地面へと落ちていきました。そこは乾いた、アスファルトの上でした。葉っぱは絶望しました。


「結局僕は、海に行けなかった。それどころか、ほかの葉っぱたちのいる、森の奥の吹き溜まりまでも、行けやしない。僕は、間違えていたんだろうか。いつから、間違えていたんだろうか」


 カサ……、カサカサ……


葉っぱの近くで、乾いた音がしました。それはまだ真新しい、ちっとも痛んではいない、もう一枚の葉っぱでした。


「だいじょうぶよ。私につかまって。一緒に森の奥に行きましょう。さあ、はやく。風がきちゃう」


「うん、ありがとう!」


軸だけになった葉っぱは、よろよろと真新しい葉っぱに這いより、つかまりました。その瞬間、風がふいて、ふたりは舞い上がり、森の奥に運ばれていきました。やがて暗い森の中に、金色の木漏れ日のあたる、大量の落ち葉が見えてきました。それは少し湿気を帯びて、キラキラと輝いていました。


「きれいだ……」

「ええ、ほんとに!」


二枚は、ちょうどいい居場所を見つけて、寝そべりました。


「疲れたわ、少し休みましょう」

「うん」


 僕たちはここで、動かなくなる。バラバラになって、虫たちや、菌類たちの餌になって、分解され、地面と、森に吸収される。僕はそんな、誰かに決められた運命が嫌だったんだけど、こうやって来てみると、それはそれで、よかったのかもしれない。そう、葉っぱは思いました。


二枚の葉っぱは、どちらからともなく、手を伸ばしあい、相手の手を握りました。


「ありがとう」

「いいえ、こちらこそ」


葉っぱは目を閉じ、動かなくなりました。


もともとは、MとRの物語という作品の中で、

主人公の女子高生が書いた小説、という設定で書いたものです。


「さがしもの」、という

お題にそっている気がしたので、短編として投稿させていただくことにしました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 友情 or 恋愛なのでしょうか? 飛べるといいですね♪
2023/04/24 22:14 退会済み
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