第四話
そーっと近づいてみる。すると物音に気付いたのか箱が動いた。
一瞬驚いて体を震わせたが、中が気になってのぞいてみた。すると、
「にゃ~」
猫だった。三毛模様でしかも目が開いている。
僕は慌ててその場を走り去った。
いつも乗る電車のホームへまっしぐらに、走った。息を切らして
『もう悲しい思いはしたくない』
その言葉で頭が埋め尽くされた。
-会議中-
「桐生君!!話を聞いてるかね?」
と注意されてしまった。
「すみません。少し考え事をしていて……」
「今は経営が悪化してるんだから他の事を考えてもらっていちゃ困る!!
仕事は仕事、プライベートはプライベートで区切りを付ける!!わかったかね?」
分かってる。分かりきってる。社会人になって何十回、何百回と同じことを言われてきた。
それでも、出勤途中の猫のことが頭から離れることはなかった。
午後になり、雨がぽつりぽつりと降り始めてきた。
「やっぱり天気予報って当たるんだな」
午後になるころには猫のことなどすっかり忘れていたが、雨が降ってきたことによって、猫のことが心配になってしまった。
『朝の猫、まだ段ボールの中にいるのかな。
きっと何も食べずに雨に濡れているだろう。
寒くはないだろうか。おなかが減っているのではないだろうか』
そんな雑念がわいてしまった。
仕事が全くといっていいほど手につかない。
普段なら絶対にしないミスを連発し上司にも今日何回も注意されてしまった。
「ダメだ、今日は早めに上がらさせてもらおう」
結局その日の仕事は、片付けることができずに早退させてもらって翌日に回して片付けることにした。
「こんなことははじめてだ。いままでなら、集中してなんでもこなしてきたはずなのに」
雨がさっき外を見た時よりも激しくなっていた。
「急いで帰らなきゃ」
脳裏から今朝の猫のことが、離れなくなっていた。
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