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物語のヒロインに転生しましたが、前世では悪役令嬢推しだったので、彼女が幸せになるように応援したいと思います

作者: 栗原 猫

まずはすみません( ̄▽ ̄;)


覗きに来て下さり、ありがとうございます♪


書式を誤って投稿してしまったので、中途半端な小説になってしまいましたが、このまま少しづつ更新してますので、興味が湧きましたら、ひまひまでも覗きに来て下さるとありがたいです。

 その朝彼女はいつものように目覚めた。


 うーんと大きく伸びをして欠伸を一つ……。今日もいつものルーティンをこなして仕事へ行こうと起き上がってはたと気づいた。


 彼女は子供になっていたのだ……。


 おかしい……。昨日は仕事から帰宅していつものように小説を読みながら眠りについたハズなのだが……。


 宇野祥子27歳、なぜだか転生してしまった瞬間である。


 ?と、首を傾げてから周りを見回すと、知らない部屋、知らない家具………。置いてあるものを見るに子供部屋のようだ。それから今度は自分チェックをする。ストレートのロングヘアで、髪の色が淡いピンクゴールド……?そこで初めて自分が違う世界の者になってる事に気付いた。


「???」


「!!!」


 だが、生憎近くに、姿見のようなものは無い。自分の身体を見回すに、子供のようではあるが……。一体これはどういう事なのか……。


 そう思っていると、外からコンコンとノックの音がした。思わず「はい」と返事をすると、メイド服を来た女性が入ってきた。


「アリサお嬢様おはようございます。」


 アリサと言えば、昨日読んでいた小説のヒロインの名前と同じだなあと頭の中で考えながら、彼女はとりあえず笑ってみた。


「おはよう。」


 子供らしく眠い目を擦る演技などをして、相手の様子を伺うと、向こうもそれほど気にしてはいないようである。とりあえず、促されるまま着替えて、姿見を見せてもらう。


 ………やっぱり……。


 祥子の姿は昨夜まで読んでいた小説の主人公、アリサの幼い姿であった……。


「あの……。」


「はい?」


 メイドが首をかしげる。


「私……ちょっと気分が悪いので、もうしばらく休んでもいいですか?」


 その言葉にメイドが少し慌てたような顔をしたので、祥子……アリサは、


「ちょっとだけだから、寝てたら治ります。」


 と、慌てて弁明し、世話を申し出たメイドを断って、部屋から追い出した。


 いつもと違う様子に首を捻るメイドではあったが、締め出されたので、仕方なく他の仕事をするため、部屋から遠ざかって行った。


 アリサは聞き耳を立て、遠ざかる足音を確認すると、再びベッドから起き出して、腕組みしながら思案した。


 どうした訳か、この世界でアリサと言う少女になってしまったので、元の自分に戻れるのかは全く分からないが、今はアリサとして生きるしか無いで……。


 この物語って、どんな話だったろうか……?


 とりあえず読んでいた小説を思い出して、時系列でまとめて置かなければならない。主人公なら尚更である。


 確か……。


 精霊の加護を持つ主人公が、魔術を勉強するために学園に入る所から物語が始まる。そして、学園で生活していくうちに第二皇子に見初められ、恋に落ちるのだが、皇子には婚約者が居て、アリサは嫉妬に狂った彼女に酷い目にあわされるのだ。そして危機一髪の所を皇子に助けらた後、婚約者は断罪され、婚約破棄の上、田舎の修道女に身を落としてしまうのだ。そしてそのまま彼女は閉じ込められるように不遇な人生を送ることになる。

 一方アリサは、第二皇子の空席になった婚約者の座を射止め、結婚して幸せになりました。


 と、言うのが大まかなあらすじだった。今のアリサのサイズから見るに、5歳位と思われるので、学園入学まであと10年というところだろうか……?とりあえずは普通に過ごしてこの世界に慣れるところから始めた方が良さそうだ。


「う〜〜。」


 アリサが頭を抱えていると、クスクスと笑い声がした。ギョッとして声のした方を恐る恐る振り返ると、白い光がキラキラしていた。


「?!」


 アリサの驚いた顔を見て、光がまたクスクスと笑う。この光って、まさか……?


「もしかして、精霊様ですか……?」


 彼女が恐る恐る尋ねると、光はキラキラと煌めいてクスクス笑いながら、


「あたーりぃ♪」


 と、応えた。

 アリサってこんなに早く精霊と出会ってたんだ、とびっくりしながら光を見てると、光は相変わらずキラキラと笑っている。

 それにしても……。


「キレイ……。」


 アリサがうっとりと眺めると、光は段々弱くなり、今度は人の姿を取り始めた。そして、それは絵本とかでよく見かける羽の生えた妖精の姿に形を変えたのだった。


「クスクス。」


「ホンモノの妖精だ〜〜。」


 感心するアリサであった。


「こんにちは、ボクは光の妖精だよ。」


 だからキレイなんだね。とアリサは納得したように、ウンウンと頷いた。


「お姉ちゃんの事気に入ったから、あちらの世界から連れてきちゃった。」


 えへっと、笑いながら妖精は応えた。お前か〜い!!と突っ込みたいのを我慢してアリサは苦笑いをする。


「でも何で主人公に?」


「だってハッピーエンドになるから。」


 そりゃそうだ。気に入ったって事は幸せにしたいから、そういう立場に持ってくるのは当たり前だよね。うん、納得した。何故か話を聞きながら段々冷静になっていくアリサだった。それに、妖精の仕業だったらしょうがないよねとも。


「つかぬ事を伺いますが……、私は元の世界に戻れるのかな?」


 ダメ元で、妖精に聞いてみると、妖精は首を振った。


「ムリ。」


 やっぱりね……。戻ることは諦めて、アリサとしての生を全うするしか無さそうである。


「んじゃあさ、私にこの世界の事、色々教えて?」


 アリサが言うと、妖精は頷いた。


「僕と、ずーっと一緒にいてくれるって事だよね?」


 アリサは頷いた。


「じゃあ、名前ちょうだい♪そしたらいつも一緒だし、君を助けられるよ。」


「んじゃあね~~、ウィルなんてどうかな?」


 ゲーム等に出てくる光の精霊ウィルオーウィスプから取った名前だ。


「いいね~♪ありがと♪」


 ウィルがそういってニッコリ笑うと回りにたくさんの光がキラキラ輝き、アリサに降り注いだ。


「これで契約完了だね♪これからヨロシクね〜。」


 ウィルが囁いた。


「こちらこそ宜しくお願いします。」


 アリサもニッコリ笑った。


「で、さぁ。」


 アリサが突然真面目な顔で言った。


「アリサちゃんの元の人格ってどこ行ったのかな?」


 気付いたらアリサ5歳な訳だから、昨日までのアリサは何処へ行ってしまったのかそれは気になる話であろう。尋ねられたウィルの方は小首を傾げている。


「え?」


「え?」


 まさかの乗っ取り?アリサの顔が苦痛に歪む。


「大丈夫だよ〜」


 アリサの顔を見たウィルはクスクス笑いながら応えた。もしかして反応を楽しんでいるのだろうか?困った光の精霊である。


「昨日までのアリサも、お姉ちゃんだから。ボク赤ちゃんの時からずーっと見てたもん。お姉ちゃんが思い出したから、ボクのこと見えるようになったんだよ。だからアリサだった事も思い出すと思うよ。」


 ウィルの言葉にアリサはホッとする。とりあえずは乗っ取った訳では無いらしい。


「良かった。」


 アリサは呟いた。なら、とりあえず記憶が戻るまで、大人しくしていれば大丈夫のようである。



 だが、しかしこの記憶を取り戻せるまでが中々だったのだ。ウィルの話から2、3日もすれば戻るのかとタカを括っていたのだが、1ヶ月経っても思い出す事が出来ない。家の事はウィルからの情報で基礎知識程度は理解できたのだが、両親やメイドのアンと話す時にいつバレるかとヒヤヒヤする。だって、アリサは両親から大切に育てられたとあるのだから。仕方が無いので、わざと階段から落っこちて、記憶喪失を装う事にした。これによって周りが余り違和感を抱くことなく祥子がアリサとして居ることができるようになったのだ。だって、覚えてないの仕方ないって言い訳が通るようになったのだから。アリサ付きのメイドであるアンも、階段から落ちてからちょっと変わったかも位で納得してくれたのである。とりあえずアリサはホッとした。

 しかし、記憶が戻らないのも落ち着かないので、どうしたものかとウィルに相談したところ、町外れの森に住む聖獣に相談してみれば?と言われた。


 それまで屋敷から出た事の無いアリサであったが、両親が留守の時を狙って脱走に成功する。それから森まではウィルが居るので完璧である。森の奥で聖獣に出会い、珍しいお菓子を賄賂としてお供えする事で、相談に乗ってくれ、無事に記憶を取り戻す事に成功した。と、言ってもまだまだ5歳児なので、特に大事な記憶がある訳でも無かったのだが……。とは言うものの、自分の中の穴が埋まった事でアリサも気持ちが落ち着いてこれから普通に生活できると心の底からホッとしたのである。


「聖獣サマありがとうございます。」


 アリサは聖獣に感謝の意を伝える。それにしても、この聖獣サマの美しい事……。白銀のフサフサとした毛並みに黒の虎柄……。見た目はホワイトタイガーなのだが、しなやかで……。アリサがうっとりと見とれていると、聖獣もアリサに興味を抱いたようで彼女をじっと見つめる。


「そなたのオーラはキラキラと不思議な色をしているな……。ふむ……、気に入った。我がそなたを守護してやろう。」


 これにはウィルもアリサもびっくりしたが、嬉しくなって聖獣に抱きついた。


「聖獣サマも私といてくださるのですか?凄く嬉しいです。ありがとうございます。」


 こうしてアリサは聖獣の加護も受けることになったのだった。


「しかし、そなたはまだ小さい故、我を従えられる程の力は無さそうだな……。契約はもう少し大きくなってからが良かろう。だが、予約という意味で、我の名前を考えてくれるか?」


「そうだね、アリサ。今聖獣と契約すると力が暴発しちゃって制御出来ない可能性があるかもね。」


 ウィルの助言にアリサは頷く。それはちょっとコワイね。そして、目をつぶって聖獣の名前を考える。白銀の美しい毛並みはしっとりとしていて冷たい月を思わせる……。


「……ユエ……。ユエサマと言うのはいかがでしょう?」


「ユエ……か……。」


 アリサの言葉に満足げに聖獣は頷いた。


「悪くない……、気に入った。」


 その後は聖獣がアリサを背に乗せて屋敷迄戻ってくれた。


「ただいま〜♪」


 と、帰ってきたアリサを見た屋敷の者達は聖獣の恐ろしさに泡を吹いて倒れてしまった為、ユエは子虎の姿にその体を変え、屋敷の者達の記憶を操作した。つまりはユエはペットとして屋敷に入り込む事にしたのである。



「……にしてもさぁ……。」


 ユエのフカフカした毛をモフりながらアリサは呟く。ユエサマの事は物語には出て来なかったのだ……。これはもしかして、改変事項なのでは?アリサはそう思った。物語を変えることができるなら、これから起こることももしかしたら変えられる?


「ねぇ、ウィルにユエサマ……。この先の出来事って変えることってできるのかな……?」


「?」


 2人はアリサを見て首を傾げる。


「コレはアリサの物語だから、アリサが好きに生きたら良いんだよ?」


 ウィルの言葉にユエも頷く。その為に我らは居るのだと。アリサが幸せに過ごせるように、その手伝いをするために傍に居るのだと。ポカンとするアリサ……。しかし、すぐにニッコリ笑って、


「じゃあ、私たち3人で幸せにならないとね♪」


 と、ウィルとユエを見回しながら言った。ウィルとユエは一瞬顔を見合わせて、満足そうに頷いたのだった。


 幸せになるためにまずしたいこと……。アリサが祥子であった時から気になってたその事を2人に話す事にした。


「私……、オリヴィエ……公爵令嬢を助けたい。」


 物語に出てくる公爵令嬢オリヴィエ……。それがヒロインのライバルである悪役令嬢の名前だ。


 オリヴィエは子供の頃、家族からの愛情を感じることなく育った孤独な少女だ。だから、婚約者の第二皇子に歪んだ執着をして、嫉妬に駆られて没落するという不遇な人生の持ち主でもある。それでもこのオリヴィエという娘は大変に美しいという設定なのだ。だから、もし、オリヴィエが第二皇子に執着すること無く適度な距離を持ってお互いを敬う事が出来れば、2人は幸せな結婚をするに違いない。祥子は小説を読みながらそう思っていた。


 祥子はキレイなものが好きなのだ。だから、このオリヴィエの事も勿論大好きだし、同情すると共に、彼女の不遇を悲しんでいたのである。それに、誰でも大好きなキャラクターには幸せになって欲しいでは無いか。そんな訳で、せっかくこの状況になったのならば、オリヴィエに積極的に関わって、幸せになってもらいたい……。そう思った訳である。


 その事をウィルとユエに伝えると、2人は微妙な顔をした。


「オリヴィエが第二皇子と結婚すると、お前は幸せになれないのではないか?」


 ユエが尋ねると、


「そんな事ないよ。だって2人と一緒だから♪だから、私は第二皇子は要らない。私に取っての幸せは2人と楽しく過ごして、ついでに大好きなオリヴィエにも幸せになって貰いたい事なの。」


 アリサはニッコリ笑ってそう答えた。彼らは顔を見合わせると苦笑いをして、アリサってちょっと変だねと呟いたのだった。


 オリヴィエの孤独を払拭するためにまずアリサが考えたのは、オリヴィエと友達になろう計画であった。オリヴィエも同い年なので、彼女も現在は5歳、彼女と友達になる事で、少しでも彼女の孤独を癒し、社会性も培い、あわよくば自分も美しいオリヴィエとお近づきになれるという一石二鳥いや、三鳥かもしれない作戦を実行する事にしたのである。


 と、言ってもオリヴィエも貴族なので、簡単に屋敷から出ることも無いので、自分との接点を作ることは難しそうである。しかしながら、自分には素晴らしい味方であり、導き手であるユエとウィルが居るので、まずはウィルに様子を伺って貰い、屋敷の庭の隅っこで寂しいと泣いているオリヴィエを見つけて貰って、その場にユエと共に乗り込んだのである。


 ぷはぁと植え込みから突然飛び出したアリサに、当然オリヴィエはびっくりした。


「アナタ、何者ですの?」


 いきなり現れた珍入者に驚オリヴィエ。そんなオリヴィエにアリサはニッコリ笑うと、オリヴィエをじっと見つめる。まだ若干5歳にしてこの美しさ……。アリサはうっとりとオリヴィエに見惚れた。


「キレイ……。」


 漏れた言葉にギョッとしつつも、嬉しかったのか真っ赤になるオリヴィエ。


「な……!なんですのあなた?!」


「はじめまして、わたしアリサ。」


 アリサは二パッと笑う。なんなのこの生き物は……と思いつつ胡散臭げな顔でオリヴィエはアリサを見る。


「ここはこうしゃくけですのよ!勝手にはいってはいけないのよ!」


 オリヴィエの言葉に、


「道に迷っちゃった。」


 と、悪びれもせずに答えるアリサ。


「せっかくだから、ちょっとお話しましょうよ。」


 と、アリサが言うと、


「ふしんしゃはいえのものにしらせないと……。」


 と、オリヴィエ。かなり用心深そうだ。


「ねぇ、なんでこんな所で泣いてたの?」


「っつ!!」


「目が真っ赤だし、涙の跡が付いてるよ。」


 アリサはオリヴィエの頬に触れ、涙の跡をなぞる。


「ないてなんか……。」


 オリヴィエは強がって言いかけるも、諦めたように溜息を付いた。


「しかたないですわね。」


 実は突然現れた話し相手に少し興味を持ったオリヴィエは、アリサと話をする事にしたのである。そんな訳で初対面を成功させたアリサはオリヴィエとの交流を深め、友達と迄に言って貰えるようになる。

 そんなある日、オリヴィエはユエの艶やかな毛並みをモフりながら、不安そうにアリサに話し始めた。


「お父様が、第二皇子とこんやくするようにって……。」


 その頃にはアリサとオリヴィエは8歳になっていた。


「まぁ、素敵じゃない、オリー♪おめでとうございます♪」


 アリサが言うと、


「わたくし、会ったこともないかたとこんやくなんていやだわ。」


 と、オリヴィエは答えた。


「それに……、すごくふあんなのよ。」


「どうして?」


「わたくしには王子様とのこんやくなんて、ムリだわ。」


 だって、私は全然相応しくないもの……。とオリヴィエは言う。


「じゃあ、断るの?」


 と、アリサが尋ねると、オリヴィエは首を振った。


「お父様や王様がお決めになったから多分ムリだと思うわ。」


「あら、なら頑張るしかないわね。」


 それに……、とアリサは続けた。


「オリーは、とっても素敵な貴婦人よ♪」


 途端に真っ赤になって照れるオリヴィエ。そんなオリヴィエも可愛いとアリサはニコニコ笑った。後ろでウィルもクスクス笑っているのだが、オリヴィエには見えないようだ。因みにユエの事は、アリサのペットだと思っているようである。


 アリサと友情を築いてからのオリヴィエは、とても素直で、思いやりもあるちょっとツンデレな女の子になりつつある。彼女の孤独をアリサが癒した事で気持ちも穏やかになり、歪まずに済んでいるようだ。これなら第二皇子と婚約しても、彼にばかり依存して、異様な嫉妬に駆られることも無いだろうと、アリサは考えていた。


「そういえば……今度顔合わせを兼ねたお茶会があるのよ。」


 と、オリヴィエ。その日は、同じような年齢の貴族の子供たちも幾人かあつまる、いわゆるお茶会デビューみたいな感じらしい。そこでそれぞれの子供たちの交流を拡げたり、王子の取り巻き候補を見つけたり、あるいは婚約者候補を探すというそういう役割も持ってるみたいだ。


「アリサ、一緒に行ってくれる?あなたが来てくれたらわたくし、心強いのだけど……。」


 オリヴィエはアリサに尋ねる。


「私も招待してもらえるのかしら?」


「だって、あなたも子爵家のむすめなんでしょう?」


「ん、まぁそうなんだけど……。」


 子爵の中でも下の方だもんな〜〜。とアリサ。アリサの家は母方の実家が商会をやってるために、ソコソコ裕福ではあるが、貴族としてはそんなにご立派な家門ではないのだ。現に父の仕事も事務方の下っ端である。そのお陰で仕事からも早く帰れて、円満な家庭なのだが……。出世欲もなく、身の丈にあった幸せに満足している普通の家庭である。


「その時はわたくしがねじ込んであげるわ。」


 オリヴィエが鼻息も荒く答えた。


「そこで表立ってお友達になれば、こんなにこっそりじゃなくて、堂々と、お互いに遊ぶ事もできるでしょ?」


 オリヴィエが笑った。


「そうだね、それ良いね。」


 アリサも頷いたのだった。


 そうしてアリサにも無事お茶会の招待状が届き、皇室主催の子供ティーパーティーに参加する事になった。


 当日、お茶会で二人は白々しく挨拶を交わし、周りから友達認定されてニンマリと笑う。


「これでお互いのお家に堂々と行き来できますわね♪」


 しめしめと、オリヴィエ。


「あら、今日はユエサマは?」


「みんなが怖がるといけないから隠れてるの……。」


 アリサが言うと、オリヴィエも確かに……。と頷いた。


「見えないけど、すぐ傍に居るのよ♪」


「モフれないのが残念ですわ。」


 クスクスと二人で顔を見合わせる。そうしていると、様子を見に来た皇妃様に呼ばれ、オリヴィエが一旦アリサから離れた。


 オリヴィエが戻るまで、手持ち無沙汰なアリサはお菓子を皿に貰い、庭の外れに移動してこっそりユエとウィルと分けて食べ始めた。


「このお菓子、美味しいね♪」


「中々イける。」


 3人でこっそりお菓子に舌鼓を打っていると、傍の茂みがガサガサいって、ソコからアリサより少し歳上ポイ少年が顔を出した。


「おやおや……。」


 漆黒の髪に青い瞳の見目麗しい少年である。小説では少しだけ出てきただろうか……?確か……皇太子の側近のアレンと言ったか……後の宰相候補だった……ような……。例によってアリサはその美しさにうっとりと見惚れる。そのポカンとした顔を見て、アレンはクスクスと笑った。


「ところで……、君はお供を連れてきてるんだね。」


「!!」


 よっぽど魔力が強いもので無いと見えないよう、光のバリアが貼ってあったのだが、アレンは強い力の持ち主と言う事か……。


「聖獣と、光の精霊……?」


 アレンは驚いたようにウィルとユエを見た。


「むっ?我が見えるのか?」


 ユエがアレンを見る。


「僕まで見えるなんて、大した魔力の持ち主だね〜〜。」


 ウィルも驚いたようにアレンを見ている。


「君は聖女様レベルの魔力の持ち主なんだね。」


 アレンが感心しながらアリサに言った。


「名前を伺っても?」


 アレンがアリサに尋ねる。アリサが答えるべきが迷っていると、


「あぁ、相手の名前を尋ねる時はまずは自分の名前を名乗るべきだよね。」


 と、ニッコリ笑った。その顔もとても素敵で、アリサの胸はキュンキュンしてしまう。物語に出てくる人達ってなんて美形ばかりなの!!素晴らし過ぎる〜〜。そんな心の声は顔に出ているのだが、アリサは気づかない。ウィルとユエに至っては、いつもの事だとスルーしている。


「僕は、アレン、アレン=ハルカスと申します。」


 少し大袈裟に、紳士の礼を取るアレン。


「アリサ、アリサ=スチュアートです。」


 アリサも慌てて淑女の礼をする。


「アリサ……、覚えとくよ♪そのうち遊びに行くからね。」


 ドキッ。アリサの心の臓が跳ねる。これだけのイケメンに声かけられて、ドキドキしない女の子なんていないよね。アリサはこくんと頷いた。ハルカス家は伯爵なので、目上の貴族だから断れないしね、と自分に言い訳をしながら……。


 一方のアレンは、アリサの魔力と、不思議なオーラに興味を惹かれていた。コイツと居たら、なんか面白い事がありそうな、そんな予感がするのだ。皇太子のお供で、何となく参加したお茶会だったけど、結果オーライだ。


 やがて、オリヴィエがアリサを探してやってきたので、アレンはまたね♪と言ってなんだか楽しそうに去っていった。


「あれは、アレン様じゃない?」


 オリヴィエがアリサに尋ねた。


「うん……。」


「皇太子の御学友ですわね。アリサの事、お気に召したのかしら?」


「えー、まさか〜〜。毛並みが違う人がいたからちょっと声掛けてみただけぽかったよ〜。」


 アリサは言葉を濁した。


「でも、キレイな人だったな〜〜。黒い髪に青い瞳って、なんだか萌える〜〜。」


「わたくし、あなたのそのもえ?って、よく解りませんわ。」


 オリヴィエは溜息を付いた。


「ところで、オリーは第二皇子と会ったんでしょ?どうだった?」


 アリサがニヤニヤしながら尋ねると、オリヴィエはポっと赤くなって、


「その……、思ったよりステキな方でしたわ。」


 と、自分の頬に両手を当てながら俯いた。


「良かったね♪」


 と、アリサ。アリサにとっては、照れまくっているオリヴィエの方が皇子の事よりも楽しいのだが。もう、オリヴィエったら可愛すぎる。こんなに大切なオリヴィエが困ったことにならないようにしっかり目を光らせないとね。と、心に誓ったアリサであった。


 お茶会が終わって数日後、アリサが部屋でユエをブラッシングしていると、突然両親が大慌てで飛び込んできた。


「どうしたの?父様。」


「た……大変だ、アリサ!!」


 アリサが首を傾げると、


「ハルカス家から手紙が来て、アリサをアレン様の婚約者にしたいと……!!」


「はぁ?!」


 お茶会の時にほんの少し話しただけである。そのうち遊び来るとか何とかも、ただの社交辞令だと思っていたのだが……。解せぬ。


「近々挨拶に来るから、気持ちの準備をしておくように。」


 両親は驚くやら、よろこぶやら、なんとも複雑な顔でアリサに告げた。


「婚約……て、意味わからないね。」


 両親が部屋を出た後、ウィルがアリサに尋ねる。アリサも同意とばかりに頷いた。しかし、よく考えれば、自分に婚約者が出来れば、第二皇子と恋に落ちるとか、そういうフラグは立たないのでは?オリヴィエの幸せの為にもそれはいい事のような気もする。


「まあ、我らの事を知る者の方がアリサには良いかも知れぬな。」


 ユエも頷いた。アレンはユエとウィルを見て驚きはしたものの、怖がりはしなかったのだ。


「ま、色々と牽制にもなるし、大人になってもホントに結婚するとも限らないしね。それに、アレン様キレイだし……、萌え素材が身近にいるって、贅沢だよね♪」


 最後の方は聞かなかったことにしよう、そう思うユエとウィルであった。


 そんな感じで、あれよあれよと婚約話は進み、アレンとアリサは婚約したのだった。婚約者となったアレンはそれ以来よく遊びに来るようになる。アリサに会いに来ると言うよりはユエとウィルに会いに来てるのではないかとアリサは思っているのだが、アリサにすれば、どんな理由でもその美しいご尊顔を拝聴できるのだから、否やは無い。毎回うっとり眺めるのみである。自分の大好きな美しい者達を愛でる事が出来るのだから、なんの問題があると言うのか。そして、そこにオリヴィエも加わった日にはアリサに取ってそれは天国であった。萌もココに極まれりとばかりに機嫌が良くなるアリサであった。


 さて、それからまた数年経ち、アリサは12歳になったある時の事である。いつものようにやってきたアレンが少し寂しげに言葉を告げた。


「僕はこの春から学園に入学するから、大きな休み迄はここにも遊びに来れなくなる……。君たちに会えないのは寂しいよ。」


「アレン様は今年15歳ですものね……。私も暫くお顔を見れなくなるのは寂しいです。」


 アリサが残念そうに返す。


「うん、それでね……。」


 アレンが言葉を濁した。首を傾げるアリサ。


「アリサに前から聞きたいことがあるんだ。」


 意を決したようにアレンが口を開いた。


「君のオーラはとても変わった色をしてるんだけど……。どの本を見ても、そんなオーラを持つ人について書かれた文献が無いんだ……。君は一体何者なのかな?」


「えっ?!」


「いつも思うけど、考え方とかちょっと同い年の子とは違うよね?時々大人みたいな事言ったりする事もあるし、僕の知らない言葉を使う事もあるし……。ずっと不思議に思ってたんだ。」


 話しながらアレンはアリサをじっと見つめた。今までは適当にはぐらかしていたのだが、今回はそうもいかないらしい。アリサは思い切って、自分の事を話す事にした。前世を覚えている事、そして、この世が前世で読んだ小説の世界である事、オリヴィエの事……。


「信じて貰えないかもしれないけど……。」


 アリサはそう締め括った。アレンはフムフムと時々考え込みながら、話を聞いてくれた。そして、ウィルもこの世界に自分が連れてきた事を付け足す。


「成程ね……。」


 アレンが納得したような顔で答えた。


「凄いじゃないか!精霊の招かれ人なんだね、君は……。だから、他の人と違うオーラを持ってるのか……ふむ……、そうか。」


 アレンは興味深げにアリサ達をしげしげと見つめた。


「凄く興味深いよ♪これからもずっと観察して検証していきたいな……。それなのに、休みにしか会えないとは……残念だ……。」


「……アレン様……。」


 どうやらアリサ達は研究対象らしい……。こんな突拍子もない話を聞いても引かずに、更に研究対象と考えるなんて……。アレンも只者では無い。アリサはアレンに驚きつつも、受け入れてくれた事にホッとしたのだった。


「じゃあアレン様もオリヴィエのハッピーエンドを応援してくれるのですか?」


 アリサが尋ねると、アレンは笑いながら良いよ♪と請け合ってくれた。今後は第二皇子の情報を流してくれると言う。アリサは新たな心強い協力者が出来たことを頼もしく思うのであった。


 それから3年……。アレンの情報やオリヴィエの話から、オリヴィエと第二皇子は上手くいっているように見える。オリヴィエは、皇子と婚約してからお后教育を受ける為にお城に行く事もあり、会う回数は減ったのだが、何か困ったことがあったり、寂しくなったりするとすぐに会いに来るので、相変わらず仲良くできている。計画は今の所順調である。然しながら、ついにアリサ達は15歳、物語の始まる学園に入学する頃となった。これからは自分の行動で物語の結末が決まるのだ。失敗は赦されない。何としてもオリヴィエの破滅フラグは回避しなくてはならない。


「ここからが本番よ。ウィルにユエ様お願いします。」


 アリサは2人にお願いする。


「もう、そんな年頃になったか……。子供が成長するのは速いものだな……。」


 とユエが呟く。


「アリサよ、そろそろお前の魔力も安定し、我を受け入れる準備も整ったようだ。今こそあの時の契約を交わそう。」


 そう言うと、ユエがパァーっと光った。


「眩し……。」


 ……汝アリサを我の契約者と認め、傍を離れず、守り抜く事を制約する……。


 眩い光がアリサに降り注ぎ、アリサの中に暖かい物が入ってくるのが解った。


「ユエ様……。これからもどうぞよろしくお願いします。」


 アリサは目を閉じて胸に手を当てた。こうしてユエとの契約が完了した。


「まあ、学園にペットとしては入ることは叶わぬからな。契約関係なら学園に潜り込めるので、こちらも都合が良いのだ。」


 ユエはニヤリと笑った。

 こうしていよいよ学園生活が始まるのである。



 期待と不安に(無い)胸を膨らませ学園に降り立つと、門の前にはアレンが待っていた。


「やあ、アリサ久しぶりだね♪せっかくだから迎えに来てあげたよ。」


 今年最高学年となるアレンは、ニッコリ笑った。


「おや、ユエ様と遂に契約したのだね。また会わないうちに魔力が大きくなったのか〜♪これは魔力測定が楽しみだね〜♪その割に身体の方は余り育っては居ないみたいだけど〜〜(笑)」


 ニッコリ笑って毒を放つ、流石はアレン様です。そう思いながらアリサも負けじとニッコリ笑い返した。


「お迎え痛み入ります。でも、それってセクハラ発言ですよね?それとも親父ギャグですか?」


 傍から見ればとっても仲が良くて微笑ましい風景なのだが、如何せん言ってるセリフは居た堪れない。


「相変わらず辛辣で素直な切り返し……ホントに君は飽きないな〜〜♪」


 アレンは楽しそうに肩を揺らした。


「アレン様、卒業記念パーティまで、よろしくお願いしますね。頼りにしています。」


 アリサは真面目な顔でそう言った。アレンがこくんと頷く。


「楽しい1年になりそうだね。君の居ない学園生活は代わり映えが無いからつまらなかったよ。」


 アレンがニヤリとアリサの耳元で囁く。普通ならばドキドキする愛しい婚約者の台詞なのだが、アレンが言うと、別な意味でドキドキしそうである。

 ―あぁ、恋じゃなくて残念……。アリサは溜息をついてアレンの後をついて行った。


 学園では入学式が終わるとまず魔力測定なるものがあり、魔力の大きさ、種類、属性等を調べられるのだ。それによって魔力の授業は属性事に別れて受ける事になる。まずは目立たない事を優先するためにアリサはユエに魔力量を抑えて貰う事にした。タダでさえ聖獣と契約を結んでいるので入学前からアリサは注目されているのである。もし規格外の魔力量でも有して居た日にはその場で聖女に祭り上げられて大変なことになりかねない。ドキドキしながら魔力測定に並ぶアリサ。因みにオリヴィエや第二皇子とはクラスが違うので並ぶ場所も違っていた。


 自分の順番が来るまで何となく他の人の測定を見ていると、どうやらオリヴィエの番のようである。物語では、紅く激しい炎を纏ったとあるので、属性が炎だと言うのは想像できるのだが……。

 オリヴィエが水晶に手を翳すと、赤い炎が体を纏う。


「なんだか柔らかで暖かい炎だね♪」


 ウィルがこっそり耳元で囁いた。アリサもそれを確認してホッと息を吐く。同じ赤でもこれくらい違えばしばらくは問題も怒らなそうだ。とりあえずまた1つフラグをを折る事が出来たと、アリサは胸を撫で下ろした。その後、皆がザワザワと落ち着かない空気になってきたので、そちらを見ると、ちょうど第二皇子が手を翳す所だった。物語と同じように第二皇子は黄色い雷を帯びている。ピカ〇ュウのようだわ……なんてアリサが思ったのは内緒である。物語の記述にある通り、金髪碧眼の美丈夫である。


「でもやっぱり、アレン様の方が私の好みだわ……。」


 前世……祥子は学生時代、ビジュアル系のバンドに傾倒していた時期があったので、健康的なマッチョ系の男性より、少し病的な、ストイック系の線の細い男性の方が好みだったりする。そういう意味では、第二皇子より、アレンがアリサの好みに合致しているのである。今の所アリサ自身も第二皇子に恋する兆しはなく、少し安心したのだった。


 そして、いよいよアリサの番が来た。アリサは恐る恐る手を翳す。ブワッと7色の光がキラキラと輝き始めた。判定をしていた教師がほうと感心したようにアリサを見た。


「君は全部の属性に対応してるみたいだね……。この学園でも珍しいよ。」


 しまった……やらかしたか?アリサは真っ青になる。物語ではアリサは白い聖なる光を放って聖女認定されたのだ。そういう意味では全属性の方が、上ではないだろうか……。ヤバいヤバいヤバい……。そう思った時である。光に紛れたウィルがアリサの額をトンと小突いた。途端に目の前が真っ暗になり、アリサはそのまま崩れ落ちるように気を失った。ナイス、ウィルと思いながら……。


 ふと気が付くと、アリサはベッドの上であった。オリヴィエの心配そうな顔が見える。


「アリサ……気分は?」


 心配だったらしく、アリサの手をしっかり握っている。


「オリー……。」


 体を少し起こすと、アリサはオリヴィエを見た。


「急に目眩がしちゃって……。」


 苦笑いをすると、オリヴィエも少しホッとしたようだ。


「倒れたのでびっくりしましたわ。何故かアレン様が走ってきてここまで運んでくださったのよ。」


 まるで何処かで覗いていたかのように、倒れてすぐに駆け込んでいらしたわ。と、不思議そうにオリヴィエは付け足した。


 検査中はユエをアレンに預けていたので、そのせいもあるのかもしれない。


「それにしても……、ユエ様が聖獣様だったなんて、わたくしびっくりしましたわ。」


 もう、アリサったら人が悪いのね。とオリヴィエは頬を膨らました。


「だって、聖獣だと知ったらオリーは怖がるんじゃないかとおもって……。」


 拗ねるオリヴィエの頭をなでなでと撫でながらアリサはゴメンと謝る。オリヴィエは少しだけ機嫌を直すと、仕方ありませんわね。苦笑いをした。そうして二人で顔を見合わせるとクスクスと笑う。


「アリサ、めが覚めた?」


 笑い声が聞こえたからか、アレンとユエがベッドに近付いた。


「ユエ様、アレン様、ご心配をお掛けしました。」


 と、アリサが言うと、アレンは大丈夫、問題無いよ。と首を振った。その様子から、ウィルの仕業だと理解してるとアリサは感じた。


「念の為今日は寮に戻って休みなさいってさ。」


 と、アレンが言った。


「僕が送っていくから、オリヴィエ嬢は教室に戻りなよ。」


 と、アレンが言った。オリヴィエはこくんと頷くと、帰ったらお部屋に覗きに行くわね。と言い残して教室に戻って行った。


 帰る支度をして、学園を後にすると、寮に向かって歩き出す。


「しかし、ウィルはナイスプレーだったね。」


 アレンがクスクスと笑うと、ウィルが2人の目の前でえへんと胸を張った。どうやらごまかせたようですね、とアリサが言うと、そうだね、とアレンが頷いた。


「アリサが倒れた後、その事が褪せるくらいの事も起きたんだよ。」


 えっ?!とアリサがアレンを見ると、


「刺すような、そして部屋が凍るような凍気を纏った子が現れたんだ……。」


 知ってる?と、アレンはアリサに尋ねるような顔をした。アリサは首を傾げる。物語にはそんな凍気を持つ者は現れなかった。もしかして、アリサが話を捻じ曲げたせいで、新たな人物が現れたのだろうか……?


「解りません。」


 アリサが呟く。


「とりあえず、情報は集めておくよ。」


 と、アレンが言った。なんだか楽しそうであるが、それは言わないことにした。とりあえず、情報を集めて、相手の出方を探る必要がある。物語に関係無ければ気にしなくても良いのだろうが、万が一の事もあるので、気はつけて置かなければ……。アリサはグッと身を引き締めるのであった。


 彼女の正体については直ぐに判明した。イレーネ=サルゴン、隣のサルゴン王国の第一王女だった。王族なら規格外の魔力も頷ける話である。小説の中には出てこなかったキャラクターである事は確かなのだが……。名前だけ出てきて、覚えてないモブなのか……?


「やっぱり、物語の筋が逸れたから、知らない人も出てきたって事なのかしら?」


 アリサは呟いた。ユエは興味無さそうに欠伸をしている。


「そんなに気にする事でも無いのではないか?」


「……そうなんだけど……。」


 何となく気になる……。そんな時であった。アレンから新たな情報が齎されたのは。


 どうやらイレーネは皇太子の婚約者候補の1人らしい。学園でこの国の事や魔法について学び、その後正式な婚約者としてこの国に輿入れする予定なのだそうだ。皇太子も現在最上級生なので、この1年で親睦を深めつつ……と言うつもりのようだ。


 第二皇子関連では無さげで良かった。アリサはホッと胸を撫で下ろした。




「つまらんのう……。」


 イレーネは溜息を吐いた。折角隣国の有名な魔法学園に入学したのに、自分の目に叶う力の持ち主に出会えなかった事にガッカリしていたのだ。


「そう言えば……。」


 イレーネはふと思い出した。自分の少し前に、途中で倒れた娘が、不思議なオーラを持っていたことを……。


「あの者は……なんと言ったか?」


「確か……アリサ……アリサ=スチュアート……。」


 彼女が倒れた後に周りを精霊が飛び回っていたように見受けられた。ウワサでは聖獣を侍らしているのだとか……。


「ふ……、面白い。」


 イレーネはニヤリと笑った。


 二人の邂逅は直ぐにやってくる。魔法の担当教師に呼び出されたのだ。理由は二人とも聖獣の加護持ちだから。ユエがホワイトタイガーのような外見なのに対し、イレーネの聖獣は漆黒の豹であった。艶々とした毛並みが美しい。呼び出したヘンリー先生は聖獣の加護に関する研究をしているので、二人に是非協力して欲しいとの事だった。アリサはユエさえ良ければと返答し、イレーネも特に構わないと返答したので、週に一度放課後にヘンリー先生の研究室に通う事となった。その帰りの出来事である。


「アリサ、私の友人になってくれないか?」


 イレーネからの突然の申し出にアリサが驚いていると、イレーネはニヤリと笑って、隣国から来たばかりで、皇太子以外知る者もおらず、楽しい学園生活に憧れているのだと言った。アリサとしても今のところ拒む要素も無いので即OKして交流が始まる。

 そうなれば、当然オリヴィエとも顔を合わせるようになり、3人でランチをしたり、帰りにカフェや中庭のベンチでお喋りをしたりと3人で過ごすことも多くなった。アリサらの学園生活は順調に進んでいた。


 ところがそこに暗雲が立ち込める。


 第二皇子の様子がおかしいのだ。今まで同じ年頃の女子との付き合いと言えばオリヴィエ位だったのが、学園に入ると多くの女子と話す機会が増え、周りも第二皇子だとチヤホヤするようなった為、調子に乗ったのか、周りの取り巻きが女子ばかりになってしまったのだ。これでは俗に言うチャラ男ではないか。アリサも盲点だったと頭を抱えてしまった。


 最初はショックを受けていたオリヴィエであったが、段々呆れて来たのか、うんざりしているようである。物語では、第二皇子がオリヴィエを振ったが、今回はオリヴィエが振りそうな勢いである。アリサとしてはオリヴィエが幸せになりさえすれば良いので、彼女を幸せにしてくれるのであれば誰でも良いのだが、これで良いのかと悩んだりもする。


 そんな時、剣術の授業で第二皇子とイレーネが模擬試合をする事になった。小さい頃から研鑽を詰んでいる第二皇子と、か弱い乙女であるイレーネとでは、イレーネの分が悪いように思われたのだが、なんとイレーネは剣の心得があったのだった。結果、イレーネに軍配が上がる。初めての挫折に第二皇子は呆然としていたのだが、この後彼は剣の練習を真面目にやるようになったと、アレンから情報が回ってきた。そんな感じで、何やかんやと1年が過ぎようとしていた。


 時は断罪イベントも近いある日。再び第二皇子とイレーネが試合をする事になった。今回は二人とも中々いい試合で、接戦の末あと一歩の所で第二皇子は負け、イレーネの勝利となった。悔しがる第二皇子にイレーネが言う。


「義弟殿は中々見所があるな。気に入った。」


 イレーネは第二皇子と試合後の握手をしながらニヤリと笑った。


「お主、私の婿にならないか?私が直々に鍛え直すぞ。」


 周りが呆気に取られる中、イレーネは笑う。


「お主が婿になると言うのならば、私は国に帰り、王位を継ごうと思う。」


 元々、政略結婚なのだから、どちらと結婚しようが構わないのではないかとイレーネは言う。


「まあ、考えて置いてくれ。」


 と、イレーネは第二皇子に告げた。


 実は、裏では色々動いていたりする。アリサ、イレーネ、オリヴィエ、アレン、皇太子で話を詰め、第二皇子がイレーネと婚約したいと言ったら、皇太子とオリヴィエを婚約者にするのはいかがかと。そもそも皇太子はオリヴィエの事を憎からず想っていたらしく、オリヴィエさえ良いなら、自分はオリヴィエが良いとそう言ってくれたのだ。アリサから見ても、皇太子は文句のない相手だったし、何しろあのアレンが仕える相手なので信用できると思ったので、その方が良いとアリサは思った。

 1番貧乏くじを引くのはイレーネでは無いのかと心配したオリヴィエとアリサであったが、イレーネ的にはそちらの方が都合も良いし、悪くないと笑って言ったので、こういう結果になったのだった。



 そうして迎えた断罪イベントの当日、いよいよ卒業記念パーティである。


 アリサは婚約者のアレンと腕を組んで入場する。皇太子はオリヴィエと、イレーネは第二皇子と……。


 断罪イベントは起こらなかった。


 それぞれのペアがお互いに微笑み合ってダンスを踊る。幸せそうな光景だ。


「おっと、危ない。」


 アレンがニヤリと笑ってアリサを支えた。アリサはダンスは苦手なのだ。アレンの足を踏みそうになったので、避けようとしてバランスを崩した所をアレンが優しく支えたのだ。


「君は人の幸せばっかり気にしてるけど、自分の幸せは気にしないのかい?」


 アレンが囁いた。


「みんなの幸せが私の幸せなんです。」


 アリサが答える。


「じゃあその中に僕も入っているのかな?」


 アレンがおどけたように言った。


「アレン様?」


「アリサは僕も幸せにしてくれるんだろ?なら、いつまでも一緒に居てくれるって言う事だよね。」


 アレンがニッコリ笑った。それを見たアリサの顔がボン、と赤くなった。イケメンの笑顔……、物凄い破壊力である。


「アリサ?」


 アリサは真っ赤な顔で頷いた。


「いつまでも共に……。」


 踊りながらアリサの手を取り甲にキスする。


「アレン、独り占めはダメ〜!!」


 ウィルが周りを飛び回りながら、アレンの頬っぺをペシペシと叩いた。


「アリサはお前だけのものでは無いぞ。」


 いつの間にか、アリサの傍らにユエも現れる。

 アリサはプッと吹き出した。


「うん、みんなで幸せになろうね。」


 物語はここで終わったが、アリサ達はまだこれからだ。


「これからも、よろしくお願いします。」


 アリサはみんなに、ニッコリと微笑んだ。




お読み下さりありがとうございます。早目に完成させるつもりです。気軽にサラッとお読みくださると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



※やっと完成しました。最後まで御付き合いありがとうございましたm(_ _)m♪



全ての人に愛と感謝を込めて……。

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