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51・執事様と四阿の誓い(2)


「勘違いなさらないでください。私たちはそれを誰かに言いふらしたりしたいわけではありません。ただ確認したいだけなのです」

「確認…?」

「はい。今こうしてお尋ねしましたが、貴女がダイヤモンドの星宝を持っていることを、私たちは確信しています」


アリシアはまるで意味が分からないというように、首を傾げた。

今までの人生において自身が〈星宝・ダイヤモンド〉を持っているとばれるような事件があったようには思えないからである。

そんな彼女の様子を見て、青年は続けて口を開いた。


「疑問に思ったことはございませんか?何故星宝持ちは男性ばかりなのか、と」


アリシアはそう尋ねられて、初めて星宝持ちが男性ばかりであることに気が付いた。

シリウスを始めとする仲間たちも、クラスメイトも、そして目の前にいる彼らも。見事に男性ばかりである。


(あれ、でもメルシュは……)


アリシアはふとそう思った。

二つに揺れる茶色の髪が頭の中で揺れる。


「あ。何考えているかわかるけど、メルシュは男だよ」

「え」


ガラガラと崩れ落ちていくスカートを身に着けた少女の姿にアリシアは軽いショックを感じて肩を落とした。


(そういわれてみれば、メルシュの一人称って…ボクだったような…)


明言されたわけでもないのに、勝手に思い込んでいた自分をちょっとだけ呪いながら、アリシアは続きを促すように自身を見つめている青年を見上げた。

そしてその視線を受けた青年が再び口を開く。


「星宝は〝姫を守る騎士を選ぶ〟ために現れるもの。だから千年前と同じように十人の男子から選別されるものなんだ」

「あ、ちょっと補足させてもらうと、この千年で〈星宝・サファイア〉が発現したことはないんだよ~。だからこそ、俺たちは貴女が姫だと分かったんだ」


真剣な瞳でアリシアを見つめるその瞳に、彼女は観念したかのように一つ溜息を零した。

彼らは本当に『確信』してアリシアに話をしている。

知らぬ存ぜぬで通すことも不可能ではないだろう。しかし、事がこれほどまでに大きくなってしまった今、アリシアにとってこれはまたとないチャンスであった。


(もう私一人でどうこう出来るレベルの話ではないわ…。それに星宝について彼らが色々知っていてくれるのもありがたい)


そこまで考えてアリシアは気持ちを整えるために一つ溜息を零した。


「―おっしゃる通り、私が〈星宝・ダイヤモンド〉です。片目だけ、ですけど」


その言葉に二人は勢いよく顔を合わせる。

やっとここまで辿り着いた!とでも言わんばかりに瞳を輝かせる二人は、そのまま一つだけ頷き合った。

言葉はなくとも、そこに抑えきれない歓喜と隠し切れない苦労が垣間見える。その様子を見てアリシアは理由もなく認めてよかったと思えた。勿論、十三年間隠し続けてたことが一瞬でバレてしまったことに釈然としない感情はある。それでも、それを上回るほどの安堵が彼女の身体を満たしていたのだ。

これでもう一人で戦わずにすむ、という安心感が。


しかし、とアリシアは考える。


「あの、どうして私には二つ星宝が存在するんですか?」


それは少し前にレイデスと話した夜。アリシアがさんざん考えたことであった。

これほど貴重な星宝が、何故二つもアリシアに存在するのか。

転生した影響か、と考えたこともあったが、なんとなく二人なら答えを知っていそうな気がしたのだ。


「あぁ。それは、さっき君が言っていたようにダイヤモンドの瞳は片方しかないだろう?実は千年前、姫が死ぬ直前に騎士サファイアが力を姫に譲ったという逸話があるんだ。だからその話が本当であれば星宝・サファイアを持った()()はダイヤモンドの姫であることが決定される」


そこまで聞いてアリシアはなるほど、と思った。

もしかしたら初めて会ったその瞬間から、彼らは分かっていたのかもしれない。

アリシアが星宝・ダイヤモンドという爆弾を抱えていることも、それを皆から隠したうえで生活しているのだということも。


そう思ったらアリシアはどこか面白くなってきてしまった。

そう、初めから彼らはすべて知っていた。

アリシアを襲った少年―〈星宝・アメジスト〉の少年だけは知っていたか分からないが、それでもここまで周到に準備をしてきた彼らが〝星宝・サファイアを持った王太子付き執事〟の話題を知らないなんてはずがないだろう。


彼らはきっとわざと暴れていた。

世界を巻き込んで、話題性を作り上げた。

人々の敵になり恐怖心を煽ることによって、彼らの存在を強く刻み付けたのである。


「…ふ、ふふふっ。あはははははっ」


アリシアはもう笑いが抑えられなかった。

すごい。彼らは全世界を手玉に取って、世界のために、使命のためにやってのけた。


ゾクゾクとした興奮が身体を駆け巡る。

唐突に笑い始めた彼女をポカンとした顔で眺めている彼らへ、改めて向き合ったアリシアはドレスが揺れることさえどうでもよくなって金眼の青年へと手を差し出した。


「改めまして、私の名前はアリシア。これからよろしく頼むわ、私の騎士たち」


一瞬面を食らったように瞠目した青年は、アリシアの言葉に破顔した。


「〈星宝・ゴールド〉。この命が尽きようと、あなたに絶対の忠誠を」


アリシアの手を取った黒髪の青年は傅いてその甲へとキスを落とした。

ちらりと隣を見てみれば、挑戦的な笑みを浮かべた銀の青年もまた、アリシアの手を取って傅いた。


「〈星宝・シルバー〉。俺の愛する世界のために、あなたに絶対の忠誠を」


胸が熱く燃えるようだった。

いや、正しくは胸というより―そう、魂が。

熱く熱く、熱を帯びていく。


忠誠の騎士を見つめるその瞳は、片方だけ虹色に輝いていた。



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