50・執事様と四阿の誓い(1)
「え、えぇ。構いませんが」
僅かに震えてしまった声で、アリシアはその金色の瞳を見返した。
着いてきてくれるか、と言う声に再び頷いてアリシアは青年の後ろをついていった。初めて来たはずのこの王城をグングンと進んで行くその姿を見て、彼女は少しだけ複雑な気持ちになった。
きっとこの国に来る前に彼はこの城の見取り図を頭の中に入れていたのだろう。
次第に景色は変わっていった。
執事服の時とは違いドレス姿のアリシアがあるとなると、歩く速さは大分遅くなってしまうが青年の選ぶ道が良いのだろう、目的地までは簡単に着いた。
淡々とエスコートされた先にあったのは、今はもう使われていない四阿だった。
少しだけ荒れた薔薇に囲まれたそこは、陽の光が当たってまるで絵画の一枚のような幻想的な雰囲気を醸し出している。
しかし、そこには先客がいた。
こちらを見て美しく微笑する青年。肩までの銀髪をこの前と同じようにハーフアップにした彼の姿にアリシアは思わず反射条件のように体内の魔力を沸かせた。
そんな彼女の様子を見て警戒態勢に入ったことに気が付いたのだろう。
パチリと一つ瞬きをした黒髪の青年と、四阿に座っていたその青年はまるで予想外の反応をされたかのように唖然と少女を見ていた。
「え、いやいやいやいや⁉警戒する必要ないからねっ⁉こんな状況で僕たちが攻撃を仕掛けるとでも思っているの⁉」
「………」
確かに、兵が大量にいる城内で、しかも味方が牢にとらえられている状況でアリシアに攻撃を仕掛けるほど彼らは愚かではないだろう。
彼らに攻撃の姿勢が見られないことを察したアリシアは、渋々ながらも魔力を収めた。
何時までも立っているのもおかしいだろうと、出入り口に最も近い席に腰を下ろしたアリシアを見届けて、金眼の青年もまた銀髪の青年の隣へ腰かけた。
「……それで、何の用ですか」
アリシアの声に棘を感じた銀髪の青年は微かに苦笑し、隣に座る黒の青年はピクリともその顔を動かすことなく口を開いた。
「アリシア=スピネル。貴女に…いや、貴女様にお伺いしたいことがあるのです」
(貴女様…?)
唐突につけられた敬称に違和感を感じたアリシアは、いやな予感を感じながらも続く言葉を待つ他なかった。
「貴女は、〈星宝・ダイヤモンド〉の持ち主ですよね」
頭が理解を拒んだ。
ひゅっと飲み込んだ息がそれ以上続くことなく、肺に留まる。
ガンガンと叩きつけられるような頭痛の中、アリシアはギュッとドレスと握りしめた。
まるで時が止まったように固まった身体に、季節外れな汗が流れていった。




