49・執事様と緊急会議(2)
いつになく重い沈黙が広間を支配した。
どうしようもない衝撃が全ての人を襲っていた。
「そもそも星宝持ちが十人揃ったことは、千年前から一度も無かったのです。最初は三十の国から十年おきに何人か。それが段々と二十の国になり、十の国になり、そしてこの地に集まってきた。…まるで、何かに引き寄せられるように」
そこで一旦言葉を区切り小さく息を吐いた青年は、輝く金色の瞳で円卓を囲む人々の顔を見た。赤、橙、黄、緑、そして青。
この場だけでももう六つの星宝所有者が集まっていた。
その事態の異常さに多くの人がやっと気づいた。十数年に一度十のうちの一つが生まれてくる程度だった星宝が、なぜか今この国に全て集まっていた。
「邪の力に対抗できるのは、〈星宝・ダイヤモンド〉の〝聖なる願い〟だけ。そして間違いなく、彼女はこの国にいる」
全ての糸がつながったような気がした。
これはそう。何百年も前から定められていた未来なのだ。
封印が解かれた時に、全てが揃うように…集まるように。
「ナタ…〈星宝・アメジスト〉の独断行動についてはこちらに非がありますし、どんな処罰でも受け入れる所存です。しかし、私のこの話をよく検討していただいた上で判断して下さると光栄です」
堂々と話し終えた彼に、国王は重くため息をこぼした。
もしも彼の話が本当なら、星宝どころか国の総戦力を持って戦わなくてはいけない。
この場を設けるために暗躍したディアンやメルシュは勿論、魔術学校の生徒は皆その戦いに巻き込まれる。それこそまさに、国の―世界の存続をかけた大切な戦いなのだから。
「…集いし星宝の戦士、そして彼らをまとめるダイヤモンドの姫…。この件に関しては緘口令を引かせてもらう。決して口外しないよう頼むぞ」
息さえしにくいような重圧が場を支配する。
会議に参加したすべての人が今この事実を信じられないような、信じたくないような表情をして呆然と何かを思考していた。
アリシアはもうどうすることも出来ないような胸の重みに、本当に押しつぶされてしまいそうだった。
まさかこんな事態になるとは思っていなかった。
逃げる、逃げないなんてそんな簡単な話ではなかったのだ。
逃げられない。戦うしかない。
大切な人のために、これからの未来を生きていくために。
「三神眼…貴様らの処罰は追って説明する。以上で会議を終了とする。解散」
国王の一言によって何時間にも感じられた会議は終わりを迎えた。緊急集会ということもあって、実際には会議にしては異例の短さで終わりを告げられたはずである。そしてそれを裏付けるように、椅子から立ち上がった国王に続くように幾人もの重役が席を立ち、彼の後に続いていた。本当に限られたメンバーだけで彼らの処分や、国での対策を考えていくことになるのだろう。
国王が立ち去るのを待って少女たちもフラフラする身体に活を入れて立ち上がった。
深遠な顔をして話始める面々を眺めながら、アリシアは外の空気でも吸おうかとエドワードに一言言って白鳥の広間を後にした。
もうすっかり慣れてしまった足で季節の花が咲いている中庭を目指してアリシアは足を進める。
しかし、数歩歩いたところでアリシアは後ろから一つの声に呼び止められることとなった。
「…少しお時間いいか」
先の会議で幾度も聞いた甘い低音。
長く伸びた黒髪が百九十は超えているであろう青年の腰を撫でながら、風と共に揺れ動く。
サラリサラリと光を凝縮したような暗闇が、光の満ちる廊下の中でアンバラ
ンスに映った。
すっとした端正な顔は無表情故に冷たい印象を与えるが、同時に人形のような現実離れした美しさを感じさせる。黒と金という正反対にも感じられる色合いをしているにもかかわらず、青年の纏う空気は絶対な力と感じたこともないような神聖な光を連想させた。
パチリと瞬きをしても、アリシアの視界に入るその人物に変わりは無く。
暖かい気候に反した冷たい風がアリシアの肌を撫でで、遠くから花の香りを運んできた。




