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48・執事様と緊急会議(1)

「……」


何とも言えない居心地の悪さを感じて、アリシアは思わず身じろぎをした。

二回も繰り返されている人生でも初めてといえるほどに着飾ったドレスがアリシアにとてつもない違和感と居心地の悪さを与えた。


(はぁぁ…。何でこんなことに…)


机の下で握りしめたドレスが少しだけ皴になっている。

初夏というには少し早い季節の今、アリシアが身を包んでいるドレスは青色をベースとしたものだった。ふわりと広がる裾と歩くたびに踝にあたるレースがムズムズとしたこそばゆい感覚を生み出していた。


ついこの前の戦闘でみんなの前で初めて男装を解いてしまったので、両親から今回の会議に執事服で参加することの許可をもらえなかったのだ。


いつもはさらしを巻いている胸が空気に触れている。

一つに結ぶしかしていない髪は珍しく巻かれていた。


居心地の悪さにキョロキョロと視線だけ動かせば、幾人かの見慣れた顔があった。ただその誰もがパーティでも見ないような正装をして表情を硬くしている。

滅多なことがないと開かないと言われる白鳥の大広間にて、ヴェルラキア王家、スピネル公爵家、アンドロス公爵家、ヴィリグラス公爵家、ヴィンパール公爵家、そして近衛隊長たるルードリアン侯爵家が集まっていた。

王家と四大公爵家、そして近衛一家。

その当主が集まる仰々しいこの会議に、アリシアやティアラ、エドワード、シリウス、カイル、オリバーも集められていた。

この前のアメジストの少年襲撃について詳しく聞きたいらしい。


そして何より。

アリシアはちらりと〈その人〉へ視線を投げた。

王が座るだろう席の反対側の席に座っているその青年―〈星宝・ゴールド〉。

今回の会議を開かざるを得なくなった最大の理由を作った人。


こんなにも重い空気が身いているにも関わらず青年は涼しい顔で髪と同じ黒色の軍服に身を包んでいた。


(……家、帰ってもいいかなぁ)


この事件の発端、そして中心に自分がいると考えるだけで胃がずっしりと重たくなる。

なんだって世界を巻き込んで自分を探している人と同じ円卓を囲まなくてはいけないのか。


(いやだ…。すごい嫌。でも、でも…)


タイムリミットはきっともう来ていたのだ。

今こうしてドレスを身にまとっていることだって、もう逃げられないことを表しているのだろう。


前世のトラウマはこの十三年で大分マシになった。

それでもやはり穢れた自分と壊れた心や愛が時々どうしようもないほどの悲鳴を上げて逃げたいと叫んでしまうのだ。

初めてもらったこの暖かな場所から動きたくない。


(でも…。きっと、変わらないために変わり続けるしかない)


中々決心のつかない臆病な心に自分で呆れながら、アリシアはふと全員の空気が変わったのを肌で感じた。

視線を上げてアリシアは納得した。誰もが真剣な瞳で見つめる視線の先、そこには王太子たるシリウスと、国王陛下がいらっしゃった。

想像の通り〈星宝・ゴールド〉の反対側に立った国王陛下が、徐に片手をあげた。

それと同時に立ち上がり深く礼をする人々。


「―緊急収集に応じてくれたこと、感謝する」


威厳もって放ったその言葉を合図にアリシアはカーテシーを止め視線を上げた。

もう一度王が合図をすれば、再び人々は円卓の席へと着いた。


「それでは、会議を始めよう」


これは長くなりそうね、とアリシアはすぐにでも口火を切りそうな公爵たちを見て思った。



「シリウス。初めにそこの者の説明とこの度の王城襲撃の概要を詳しく頼む」

「はい」


王の一言によって始まった会議は、書類を持ったシリウスの説明から始まった。

三神眼について、建国祭に現れたアメジストの存在について、そして一昨日の夜〈星宝・ゴールド〉が話していたことについて。


全てを聞き終わったとき、多くの人が苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


(改めて聞くと、すごい内容ね…。メルシュと出会ってまだ一か月も経っていないのに、あの日から大きく変わってしまった気がする)


大理石でできているであろう円卓を眺めながら、アリシアはぼんやりと考えた。

もうどうしようとも止められない運命が十人を中心に動き始めているような気がした。


「さて、ではここで聞こう。〈星宝・ゴールド〉お主は何をもって〝邪神の復活〟と〝世界の滅亡〟と言ったのだ」


シリウスと同じ深紅の瞳が黒髪の青年をしっかりと捉えた。

背筋をしっかりと伸ばした彼は上品な仕草で口を開く。


「みなさんは『十人の騎士とダイヤモンドの姫』という童話を知っていますか」


緊張の走る円卓の上を青年の無感情なバスが通り過ぎた。

あまりに突飛なその話にアリシアは思わず瞬きをした。

十人の騎士とダイヤモンドの姫と言えば、星宝持ちの十人の騎士と一人の姫様が世界を救おうとする物語だ。


「あの物語は、すべて事実です。実際に千年前にあったことを吟遊詩人が語りつないで現在まで伝わっている。その証拠として実際に彼らが封印したと思われる大海主が発見されています。―そして、邪神の封印紋も」


誰かが息を飲んだ気配がした。

想像すらしたくない何かが語られる―そんな気配がひしひしと伝わってきた。


「大抵の封印は普通の魔術師なら五年、鍛錬積んだものなら十年、賢者と呼ばれる域のものなら五十年。そして星宝をもったものなら百年です。…もし彼らが十人総戦力で挑み封印をしたとするならば――その封印は年内には消滅するでしょう」



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