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44・執事様と打ち上げ(2)


「ねぇ、お兄さん。私のお姉ちゃんに何しているの」


わざとらしくコテンと首を傾げてそう問いかければ、ティアラの周りにいた男たちは一瞬でアリシアに目を奪われた。


それもそうだろう。

戦いが終わって彼女が着替えた平民用の服は麻でできた薄いワンピースであり、夏という季節にはよく合うかもしれないが、アリシアの持つ多大な色気を抑えるには物足りない代物だった。

―いや。むしろ彼女のセクシャルボディをよく表してしまっているその服は、その高貴な色香を増幅させていた。


そのせいか、アリシアに声を掛けられ振り返った二人は無意識のうちにゴクリと喉を鳴らしていた。


「アリィ!来てくれたのね!この人たちさっきからしつこくて、連れがいるって言っても聞いてくれないのよ」


ぷんすか怒りながらそう言うティアラは相も変わらずとても愛らしかったが、「全くもう、アリィが来なければ今頃黒焦げにしちゃってたわ」と小さく呟いたのをアリシアは聞き逃さなかった。


「…ということで、私が彼女の〝連れ〟だから、奪わないでね。残念だけど、夜のお供なら別の人を誘って!」


彼女の呟きに苦笑しそうになった顔を何とか綺麗な笑みに繕うと、少女はティアラの腕をギュッと自らの胸へ抱き込んだ。


最近はずっと気分が落ち込んでいたせいで、なんとなく自分の明るい調子が分からなくなってしまう。

私ってこんな感じだったっけ?と心の中でちょっと自問したアリシアは、胸のどこか奥がぎゅっと苦しくなるのを遠くに感じた。


「い、いや…!その、夜のお供とか…そんなんじゃなくてだな…。ただちょっと一杯付き合ってくれないかと…」

「そうそう!それだけ!本当にそれだけだったんだよ~!だから、お姉さんも一緒にどうかな?」


焦ったように取り繕う青年の頬には、冷や汗が僅かに浮かんでいた。


(よくまぁわかりやすい噓をつくよね~。それに、ちゃっかり私まで誘っちゃっているし)


隣のティアラが絶対零度の瞳で男たちを見ているのが、伝わってくる。

姉として、アリシアが誘われたのが気に入らなかったのだろう。


「えー?私、夜のお供って、一杯付き合うって言う意味で言ったんだけど…。あれ、お兄さんたちもしかして、やらしー意味でとらえちゃった?」


ティアラの爆弾が爆発する前に、と軽く相手を挑発する口調でそう言い放ったアリシアは、最後にクスリと妖艶に笑って見せた。


「なっ…!」

「だ、誰もそんなことは言ってないだろッ!」


アリシアが唐突に落とした爆弾に、男たちは赤面し声を荒げた。

さっき引き寄せた時のままにしていたティアラの腕が、アリシアの腕の中でピクリと不安そうに動く。


(おっ、好反応♪しかも図星ときた…。うん、ちょっとだけ遊んじゃお)


ちらりと頭上を見れば、予想通りの不安そうなティアラの顔。しかし、アリシアはそれに不敵にほほ笑んで見せた。

途端、明るくなる少女の顔にアリシアは胸が暖かくなるのを感じる。


そのままティアラの了承を取ったと勝手に解釈したアリシアは、改めて男たちに向き合い秘め事を言うかのような声音で言った。


「ふーん、そうなんだ~。私、もしお兄さんたちが〝あれ〟で私に勝てたなら夜のお供、してあげてもよかったんだけどなぁ~?」


あれ、と言って彼女が指さしたのは、この酒場が売りにしている喧嘩場であった。

アリシアたちが食事をしている区画とは反対側に設けられているそれは、今も大男たちが拳を交えているところであった。建国祭ということもあり、喧嘩場もいつも以上の賑わいである。


「あれって…。でもアンタ女だろ⁉そんな危険な…」

「女だからって甘く見ちゃダメだよ。ねぇ、どうする?ノる?ノらない?」


異様な盛り上がりを見せるそこを一瞥した青年らは、覚悟を決めたように一つ頷く。


「あ、あぁ…分かったよ。アンタに、勝てばいいんだよな?」

「うん!それじゃあ早速行こうっか。祭りの夜の始まりだよ~!」


どうせ興味本位なのだろうとやる気なく歩く男たちを引っ張るようにして、本調子に戻ってきたアリシアが瞳を輝かせながら先を行く。

その結果だけを容易に想像できるティアラだけが、何かをあきらめたように一つ溜息を零して嬉しそうに苦笑したのだった。



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