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42・執事様と夕焼け


「…アリシア……?」


静寂の戻った戦場に、か細い少女の声が通り抜けた。


その声に現実へと戻ったアリシアはふと声の方へ視線を上げた。

そこには満身創痍になりながらも戦った四人の戦士と一人の癒し手の姿。


「……」


少し夏を感じさせる風が夕方のガランとした王城を再び通り抜けた。


風に攫われる長い髪。いつもは閉ざされている左目の視界も、今は綺麗に仲間達の姿を映していた。


「きれい……」


誰か分からない声がポツリと溢れた。


ずっと隠していた本当の自分が今世界で一番大切な人たちの前に晒されている。

ーこんな自分を見てみんな何を思うのだろう。

アリシアはふとそう思った。


綺麗、というのはヒロインのライバルたる私に運営から与えられた容姿の話をしているのだろう。


尤も、最近ずっと手入れをしていなかった髪も、ボロボロになった洋服も、どれをとっても綺麗とは言えそうにないが。


アリシアはそっと瞼を伏せ、心の中でそっとつぶやいた。


それからそっと瞼を持ち上げると、一歩ずつシリウスたちの方へと歩みを進めた。


「シル」


少年の前に立ったアリシアは、そっと座り込んでいる少年と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「ありがとうございます」


それは今日2回目になる感謝の言葉。


ハッと彼の瞳が大きく見開かれた。

先の感情が戻ってきたのか僅かに揺れたルビーに、アリシアの胸が少しだけ締め付けられた気がした。


そして気がつけば次の言葉が口をついていた。


「私を求めてくれて…。私を必要としてくれて」


その言葉に大きく見開かれた瞳が更に開かれる。

まるでこぼれ落ちてしまいそうなほどのルビーに、アリシアは思わず苦笑しながら彼に向けて手を差し伸べた。


それは主人と従者という関係では絶対にあり得ない行為。強いて言うなら、友情…もしくはそれ以上の情で繋がっておる2人だからこそ許される行為。


「どういたしまして…。いや、俺こそありがとう」


少女の手に、そっと添えられた少年の手。

そのままグッと力を入れて少年を引っ張り上げる。


「う、わぁ…⁉︎」


シリウスが思っていた以上の力で持ち上げられた身体は僅かに宙に浮き、逆行の中で真っ赤に染まった景色だけを映し出した。

自分の腕を掴み、酷く愛おしそうな表情で笑う少女の姿。

長く伸びた紅い髪も、小さな体格も、何もかもが見慣れない。


それでも、とシリウスは奥歯を噛みしめた。


(あぁ…好きだな…)


漠然とした思いだった。

紅く、紅く染まる王城の中。

揺れる少女の蒼をきっと生涯忘れない。




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