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40・転生少女と激戦(2)


二つの魔術が炸裂する。

思い切り地を蹴って少年の胸元に滑り込んだアリシアが、至近距離から剣を振り上げた。

しかしそれは少年に当たる前に彼自身が生み出した剣によって防がれる。

ほぼゼロ距離の抗争。

ほんの数秒続いたそれは、アリシアの己などまるで顧みない一撃によって崩された。


「〈氷結(アルゲオ)〉!」


交ざり合う剣の先から自身へと広がっていく氷に少年は一瞬焦ったものの、やはり少々の余裕を持ったまま炎を作り出した。

アリシアの氷を溶かしたそれは、まるで仕返しだとばかりに彼女自身へ迫った。

アリシアはそれを氷の剣で一つ払うと、炎を押し返すように術式を展開した。


「〈暴風(テンペスト)〉!」


アリシアが得意とする、彼女の産みの親と同じ風。

レイデスによる指導を受けていたそれは、単なる空気の流れではなく、まるで彼自身を地点から地点へと見えない力で押しているようだった。


「…っ!!」


遠くに飛ばされた少年を追うようにアリシアも魔術で少年の元へと飛び込む。

魔術を使わせてはならないとばかりに剣を振り上げ、息つく間も与えぬほどの速さで連撃を繰り返す。


(早く、もっと早く……)


まるで何かに駆り立てられるように、アリシアは剣を振るった。

一瞬でも気を抜いたら命はない。

今まで僅かな間、鍛錬していなかった身体が今の彼女には酷く鬱陶しいもののように思えた。

いや、鍛錬云々ではないだろう。

少年の圧倒的強さの前で、彼女は彼女の身体さえも煩わしく感じてしまうほどに刹那を競っていた。


振ってくる上からの一閃。

それを風魔術で防ぎつつ、氷魔術を放つ。そしてそれを追いかける様に連撃を繰り出す。

それがあらゆる魔術で防がれたら、また剣での殴り合いだ。


一瞬たりとも集中を切らすことは許されない。

そんな空間はアリシアを一秒という永遠に閉じ込めたかのような錯覚に陥れた。


剣を振るう振るう振るう。

魔術を放つ放つ放つ放つ。


息さえ忘れ、戦う理由さえも頭の彼方へと追いやり、アリシアと少年はただ生きるために身体を動かしていた。


しかし、何時だって事が変わるのは突然だった。


「―ッ⁉」


ビッとアリシアの右腕を斬っていった少年の一閃。

よくあるはずだったその攻撃が、今のアリシアには致命傷だった。


思わず疎かになる剣を握る腕。

ほぼ刃が交ざりあっている状況下において、その腕は最悪と言わざるを得ない。

実際、敵対していた少年は直ぐにアリシアの変化に気が付き、彼女の右手に負荷がかかるように矛先を変えていた。


直ぐに傾いていく戦況。

ギリギリ均等を保っていた二人の戦いは、逃げるアリシアと彼女を追いかける少年という図に変わってしまった。


(やばいっ!このまま逃げ続けていたら間違いなく私が負ける…ッ!でも…)


地を蹴る足を緩めることなく、チラリと横目でティアラの状況を確認する。

アリシアを心配そうに伺う仕草をしているものの、やはり三人の手当で背一杯だろう。

残念ながら〈癒〉属性を持っていないアリシアは、力なくぶら下がっている右腕をどうすることも無く追ってくる刃に魔術で凌いでいた。


(何か、何か策を…ッ!)


抗うこともせずただ光のような剣先を勘で避けながら、アリシアは全力で頭を回していた。


(負けられない…。私は負けられないんだ。エディのために。ティアラ姉のために。ノルのために。イルのために。私のために。――何よりも、シリウス様のためにーーーーッ!!!)


顔面に迫ってくる刃を鋭く睨みつけたアリシアは、避けるでもなく、むしろ己からその刃へと向かって行った。

お互い引かれ合うように近づき、防御する気配のないアリシアの眼前に剣が迫った時、少女は徐に右手を前に突き出した。


「―――ッ!!!?」


遠くで誰かが声にならない悲鳴を上げた。

それはあまりの痛みに自分が上げたのか、それとも見守っていたティアラが上げたのか、全く予想していなかった行動に少年が上げたのか。

とにかく右掌を刃に貫かれている状態のアリシアは、唖然とした顔で少年が止まった一瞬に剣から自身の掌を抜き取った。


ぼたりぼたり、と止めどない量の血が少女の手から流れ出ていく。

熱を持った掌は、まるでそこから炎が出ているのかの様に熱く燃えていた。


前に剣を出した状態の少年はハッとし、そのまま体制を変えてアリシアを切断するように大きく振りかぶった。

少年の紫の視線の先には、掌から流れた血が床に血だまりを作っていくのをただ眺めているだけの無防備なアリシアの姿。

バカだ、と内心吐き捨てて勢いを殺すことなく少年は剣の軌道を見つめた。しかしその時だった。凛と澄んだ少女の声と、未だ熱く燃えているサファイアの瞳と、少年の視線が交わったのは。


「単純な魔力濃度で叶わないなら、魔力の根本を持ってくればいい…。そう思わない?」


剣の動きがあまりに遅く感じる。

ただ目を見開くしかできない刹那の瞬間、アリシアの手からは真紅の氷があふれ出る様に生み出された。






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