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39・転生少女と激戦(1)


ピンと張った細い糸が切れる直前のような緊張感。

濃密な魔力が漂う此処は、王都の町から全力で飛んできた少女の熱った体を冷ますのに丁度良いほど冷えていた。


先程の大魔術の影響でぐったりとした少年が、アリシアの視線の先で喘いでいる。

すっと通った風が彼女の乱雑に括った赤髪を背後へと流して行った。


(泣いて、いた…)


ぼんやりと少年のことを眺めながら、アリシアは思う。


(どうして、彼は…)


来てほしくなかったのだろうか?

そう考えて頭を振る。


たった今到着したばかりではあるが、シリウスたちが限界なことは一瞬で分かった。

未だ地に這って動けないカイルやオリバー、動けてももう魔力が無いティアラ、そしてシリウス。

彼があの時アリシアを呼ばなかったらどうなっていたか、想像すらしたくは無い。

アリシアは来てよかった…否、来なくてはいけなかったのだ。


それでも大切な少年の苦しみの涙が頭を離れない。


(…理由を考えるのは、後でにしなきゃ。もう気を引き締めないと)


ぐっと少年のオーラが強くなったのを肌で感じて、アリシアは軽く深呼吸をした。

王都から見た大爆発が彼の影響だとしたならば、彼は相当な実力者だ。…いや、星宝持ち四人を一気に相手取って勝てるほどの強さ、といった方がいいだろう。

見た感じだと相当疲弊しているようだが、ずっと鍛えていないアリシアでは勝てるかどうか五分五分といったところだ。


身体を温めるようにしばらく使っていなかった魔力を押し流すように全身に押し流して行く。


(私が、私がここで食い止める。私が、彼を…倒す!)


体内にある魔力の流れを感じ、バクバクと早くなる心臓を押さえ込むように眼を開いた。


まず視界に入ったのはボロボロに崩れ落ち意味のなさ無くなった王城の装飾品だった。

もとより中庭として開けていた地ではあったが、それでも王城の一部。あんな大魔術をぶっ放したら周りを巻き込むに決まっているのだ。

そして現に渡り廊下は半壊し、大きな噴水に至っては跡形もなくなっている。


アリシアは、まるで土と空しか色がない世界にいるような錯覚に陥った。

いや、そんなことはないだろう。


「…!」


アリシアは不意にその色を見つけてしまったから。

身震いするほど憤怒の感情で彩られた、冷徹なその紫を。

無意識のうちに飲んだ固唾がゴクリと嫌な音を立てる。


ぐったりと脱力しまま視線だけこちらに向けた少年は、まるで親の仇でも見るかのような目でアリシアへ吐き捨てた。


「…俺、何回アンタらに言えばいいわけ…?俺はさっさと終わらせたいの…。本当もうッ!!いい加減にしてよねぇ!!?」


今まで抑えていた感情が爆発したように少年は叫んだ。

それと同時に息すら難しいほどの濃密な魔力が再び辺りを満たした。

アリシアは耐えるように顔を歪めると、自身も同じように魔力を解放した。


「…あなたが何を言っているのか。何のために戦っているのか、私にはわかりません…。それでも、私は私の大切な人を傷つけたあなたを、許すわけにはいかない…!」


冷たくも熱い魔力の中で、アリシアは再び氷の剣を生み出した。


「戦いましょう、〈星宝・アメジスト〉。もしあなたが勝ったなら、私はあなたが一番欲するものをあげます」


それは、少女の一世一代の決意だった。


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