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38・王太子と激戦(3)


(……生きて、る…?)


彼の魔術が発動し、視界が白に染まった後どれくらい経ったのだろうか。

長い間気を失っていた気もするし、僅かな時間しか経っていない気もする。

土籠りが満ちている現状何を確認することもできないが、なんとか目を凝らして現状把握を急ぐ。


「…っ!?」


しかしふと、どこからか冷たい魔力が流れてくるのを感じた。冷たい、そうそれは酷く冷たいのに火傷するほどに熱い氷の如き魔力。


(知ってる…僕は、この魔力を…)


その魔力のおかげか、視界はずいぶん楽になった。

どんどんおさまっていく煙の先に、それを捉えた僕は思わず鋭く息を呑んだ。


腰までの赤い髪が靡いている。

髪の間から、少女の手にしている青色の剣が見えた。


ー僕よりも十五センチは背の低い少女の姿がそこにはあった。


僕たちに背を向けてしまっているせいで顔は確認できないが、それでも銀と青で乱雑に結ばれた髪には見覚えがあった。


「…あり、しあ…」


声を絞り出す。

ああ、来てくれた。来てくれたんだ。


頬に何かが伝うのを感じる。

地に倒れている現状、僕の頬を濡らしたそれは地に水痕を残した。


(来てくれた…来てくれた、のに…)


これは感動だろうか。それとも憧憬だろうか。…いや、これは。今僕の心を締め付けているこの感情は、落胆だった。


彼女が来てくれて嬉しいのに。

でもそれ以上に彼女がいないと彼を倒せない自分自身に一番失望している。


もうボロボロの彼女をこれ以上傷つけたりしたくはなかった。


「…シル」


嗚咽を我慢して涙をこぼし続ける僕に、透き通った少女の声が響いた。

いつも声色を変えている彼女だから、これが初めて聞いた本当の声。


「…シア…」


滲む視界を止めようと、重たい腕でグッと瞳を拭う。


「…!」


クリアになった視界に映ったのは、美しい青の双眼だった。

いや、見えたのはそれだけではない。

エディと似ているようで似ていない少女の美貌だった。

強い意志を感じさせる神秘の瞳。真っ白な肌に色香を感じさせる唇がとてもよく映えている。


初めて見た少女の素顔に、僕は息をするのも忘れて見惚れていた。


顔の半分を隠す前髪がないだけで少女はこんなにも姿を変えるのか。


現実離れした美しさの少女に見惚れていると、彼女は徐に口を開いた。


「―遅くなってしまってすみません、シル。もう大丈夫です」


きっと汚れているであろう僕の頬にそっと手を添えて涙を拭う少女は、とても愛しいものを見るような瞳で僕を見つめた。


「…私を呼んでくれて、ありがとう」


その瞳の奥に柔らかい熱を一瞬だけ浮かべた彼女は、そっと僕の頬から手を放して再び剣を取った。


「――私の大切な人をこれ以上、傷付けさせたりしない」


すっと息をのんだ彼女の背を、きっと僕は忘れない。






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