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35・逆行少女と激戦(2)


「…っ、こんなの、認められるわけ…ねぇだろォっ!」

「っ、待て!ノル‼︎」


勢いよく立ち上がり、グッと強く踏み込んだオリバー様が、剣を片手に勢いよく少年へと駆けて行った。

その後ろで足を庇っているカイル様がオリバー様に呼びかけたが、まるで気にした風もない。


「はあああああああああーーーーーッ!!」


彼の星宝でもある〈地魔術〉で階段を作り、少年の元まで一気に飛び込んでいった。

急な事態に驚いていた少年はパチパチと瞬きをして、思い立ったように風で剣を生み出した。

交じり合う二つの刃。離れた地上から見守ることしかできないが、それは鳥肌を覚えるほどの景色であった。バチバチと橙と緑の光が混ざり合って、遠く離れたこちらまで風が届いてくる。


「…っ、くそッ!ノルのやつ、一人で勝手に先行きやがって」


そんな光景を共に見ていたカイル様が、砂に塗れ所々破けてしまっている重たい体をなんとか起こしたようだ。

その更に後ろでシリウス様とエドワードも立ち上がっている。


「……イル、エディ。行ける?」


コチラまで歩いてきたシリウス様がエドワードに肩を貸しながら、上で戦っているオリバー様の方をチラリと見た。


「勿論、行けるよ」

「俺、も…。こんなところで、立ち止まるわけには行かないからね」


ふらふらになっているにも関わらず、エドワードは強い意志をエメラルドの奥に秘めたまま紫の少年を睨んだ。

そんな彼らの方へ私も近づき、庇っている右足や血の流れている腕に治癒を施した。


「……ティアラ嬢、ありがとう」


シリウス様が治った怪我を見て私に微笑んだ。


「いえ、私にはこれくらいしかできませんから」

「ううん、十分だよ。……それじゃあ、エディ『アレ』頼める?」


エドワードへと向き直ったシリウス様が、鋭い瞳でエドワードを見た。何のことだか分からない私と反対に、合点が行ったらしいエドワードは「了解」と端的に返答して魔力を練り始めた。


展開される三つの魔術式。それがそれぞれ、シリウス様、カイル様、エドワードへと渡っていき、彼らの全身を包むように完成された。


「……よし」


完成された魔術を試すように空へと飛びあがったエドワードは、くるりと一回転して安全性を確かめたようだ。

上手に術が発動していることがわかると、彼は再びシリウス様の前に降りて凛々しい顔で問いかけた。


「シリウス様」

「なんだい?」

「貴方はこの国の王太子だ。国王に次ぐほどの尊き身分であらせられる。……それでも行くのか」


まるでシリウス様の決意を確かめるように言ったエドワードの言葉に、私が息をのんだ。

仲間だから。当たり前だと思ってしまっていた。

しかし、確かに彼はここにいるべき人間ではない。城の奥…いや、国外に逃げて然るべき身分の人だ。


今気が付いた私と対象に、問われた本人であるシリウス様は困ったようにただ笑っていた。


「エディ。それを言うなら君も、イルも、ノルだってそうだろ?いや、君たちだけじゃない。この城下にいる人間すべてに替えはないし、大切な存在だ」

「シル!俺はそういうことを言いたいんじゃなくて……!」

「うん。でもね、僕はこの国の王太子としてここにいたい。君たちだけを危険に晒したくないし、何よりも〈星宝〉と戦えるのは〈星宝〉だけだ」


そうだろう?エドワードに問いかけ返したシリウス様の顔は穏やかなものだった。エドワードの言葉に気分を害した風でもなく、ただ自分の担うべき責務だけをしっかりと見据えている様に見えた。


「あぁ、その通りだね。……悪かったよ、シル。この国を守るのも、俺たち貴族の役目だ」


エドワードの言葉を受けたシリウス様は王太子の顔で頷き、戦い続けている二つの閃光を見据えた。


「――行こう」


本当の戦いが、幕を開ける。




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