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33・執事様と建国祭(4)


どごおおおおん


その音が響いたのはもう日が西に傾き出した頃だった。


「「「!?」」」


唐突に鳴った爆音に祭りを楽しんでいた全ての人が音の発信源である城の方を向いた。


「え?どうしたの⁉︎」

「何があったんだい‼︎」

「お城の方が…!」


城からモクモクと上る煙を認めた城下の人はざわめき出す。


(え…。城から煙が…⁉︎)


アリシアも両手いっぱいに持たされた屋台の料理を抱えながら城の方を見ていた。


(…そういえば…今城の方にはティアラ姉とエディが…)


久しく会えていない二人の姿を思って、アリシアは思わず息を呑んだ。


(…っ、いかなきゃ!)


理屈や現状を全て忘れ、アリシアは反射条件のようにそう思った。

しかし、対して彼女の身体は動かなかった。


ー怖い


本能がそう叫んでいる。今行ってしまったらずっと隠してきたことがバレてしまうような気がして。


(どうして。動かない…)


それでもアリシアはシリウスを助けにいきたかった。


動きたい意思と動きたくない本能が鬩ぎ合ってアリシアの心に焦燥を生んだ。


「…ム?アリシア?」


そんなアリシアの様子に気がついたリオンが、苦悶の表情を浮かべる少女に問いかけた。


「…っ、リオン…。私、私…、行かなきゃ…」


(行かなきゃ、いけないのに…)


まるで地に足がくっついてしまったように動かない。

自分の身体と心が別々になって仕舞ったように、思うようにならない。


「……」


そんなアリシアの様子にリオンはなぜか悲しそうな表情を浮かべた。


「君は、やるべきことがあるんだね」


ぽつりと少年は言う。


「?」

「でも、その〝やるべきこと〟のせいで君は…昼間のように死にそうな顔をするのか。まるで未来の光を見失った、旅人の様な」

「え…?」


ぽかんと驚いたようにリオンを見上げたアリシアは思わず目を見張った。


「俺にはな、君がどんな人間で、どんな人生を歩んできたかなんてわからない。」


そう言うリオンの顔があまりにも苦しそうだったから。フードから覗いた青眼が苦しみに細められていたから。


「だが、君をそんな風に傷つけるところへなんて…」


ぐっとリオンは強く拳を握った。まるで激情を抑え込む様に、牙をむこうとする本能を無理やり封じ込む様に。

しかしリオンの曖昧な物言いに、当のアリシアは首を傾げるばかりだ。


「…いや、そんなことが言いたいんじゃないな。俺は、背中を押すべきだ」

「??」


ブツブツと独り言ちたリオンは覚悟を決めたように、アリシアの肩に手を置いた。そして勢いよく方向を変える。料理をいっぱいに持っていたアリシアは逆らうことも出来ずに目の前に映った王城に呆気にとらえた。


「アリシア。進め」

「…!」


アリシアの肩に置いた手をそっと背中に回して、リオンは強くそう言った。


「今という時間は今しかない。未来で後悔してももう遅いんだ。深いことなんて後から考えればいい。迷ったのなら自分の心に従え。その人生は君の、君だけのものだ。誰にも否定することは出来ない」


リオンの言葉にアリシアはハッと目を見開いた。


「だからこそ言う。前に進め。自分が本当に望むもの。望むことをしろ。そして、それが定まったのなら死んでも食らいつけ。―俺から言えるのはそれだけだ」


トン、と背中を押したリオンは彼女の正面へと周り、手に乗っていた料理をそっと受け取って笑った。


「行け、アリシア」

「…ッ」

「恐るべきは挑まぬことではない、挑まずに終わることだ」


力強い声でリオンはそう言って、料理を持っていない手でフードのポケットから取り出し、アリシアの空いた手へと押し込んだ。


サラサラとした感覚に、おずおずと手を広げてみれば、そこにあったのは白銀を基調とし青い薔薇が刺繍されたリボンだった。


「さっき露店を見ていただろう?今日の思い出に受け取って欲しい」


どこか小恥ずかしそうに頬を掻く少年に、アリシアは目を見開いた。熱くなった目頭から火が出るのではないかと思うほど、ドクドクと鳴る心臓からは音が漏れるのではないかと思うほど、今生きていることがなぜか新鮮に思えた。


カラカラに乾いていた心に、リオンは大量の温かい思いを注いでくれた。

それが今ようやくアリシアにはわかった。


「進んだ先で、また会おう」


そう言って笑うリオンの顔が、涙で見えなかった。ずっと胸に突っかかっていた思いを全て涙で流すように、少女は止まらない雫をこぼした。

それでもアリシアは、精一杯の笑顔を少年へ返した。


「う、ん…。行ってきます…っ!」


ありがとう、アリシアはリオンだけに聞こえる声量でそっと呟いて走り出した。


向かう先には傾き出した太陽が光っていた。





アリシア復活!

主人公はやっぱり笑っていないとね!


さて、今週の日曜日に母の日記念の小話を出します。

笑っていないとね!と言った直後になりますが、内容はちょっと暗いです。

アリシアとエドワードの姉弟が中心となっています。

そのうち、エドワードとティアラについても出せたらいいなぁ…。



最後になりますが、いつも応援ありがとうございます。

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