30・執事様と建国祭
何となく日々を過ごしているうちに、気が付けば入学から三週間が経っていた。
授業に集中しなくてはいけないと分かっていても、隙あらばぼんやりしてしまう。
(もう、いやだ…)
考えても考えても答えの出ない問。しかも誰かに相談することは許されず、アリシアが自分の納得する答えを出さなくては意味のないというおまけつきだ。
日々憔悴していくアリシアに多くの人が心配そうな眼差しを向けていることに、本人も気付いてはいるものの、今回ばかりは誰にもどうしようもないことだった。
だからこそ、久しぶりの休日である今日もアリシアは日の差す部屋にカーテンを引いてベッドの上で膝を抱えていた。
(息が、苦しい…。私の世界はこんなに息がしにくかったっけ‥?)
どうしてこうなってしまったのか。
もう何度目か分からない問が頭を占める。
もしもミリが殺されていなかったら。
もしも転生なんてしなかったら。
もしも〈歌恋〉なんてプレイしていなかったら。
もしも転生したのがアリシアじゃなかったら。
―もしも私にダイヤモンドの瞳なんて無かったら。
そんな〝もしも話〟を考えて、アリシアは失笑した。
(結局私は前に進めていなかったのね…。シル達が上手く私を助けてくれていただけで、私自身全く変われていない。過去に見ないふりをして、穴だらけの歪んだ自分に幻覚魔法をかけていた。変わってほしくないから、自分という存在を偽って。汚い自分を見て欲しくないから、自分に蓋をしていた)
僅かに開いていたカーテンから差した光にぐっと目を瞑って、アリシアは抱え込んだ膝の中に顔を埋めた。
(…どうして、私なんかが……)
じわりと涙が滲んだ。
もっと早くに打ち明けていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
自分が普通じゃないであると知られるのが怖くて隠してきた。でも言わないとディアンたちは困ってしまうだろう。それでもダイヤモンドを持っていると公になったら、ルシアがアリシアであることも必然的にバレる。いや、バレなくてももうシリウスの隣にはいられない。
国で保護されるか、どこか無害そうな場所へ送られるか。
どちらにせよ、アリシアの望んでいた〝今までどおりの平穏な生活〟は望めそうになかった。
張り裂けそうな胸の痛みを緩和するように身体を縮こませたアリシアは、僅かに空いていた窓の隙間から入ってきたラッパの音にびくりと身をすくめた。
「―っ、お祭り……?」
(そう言えば、学校で誰かが言っていたような…。確か、建国祭、だっけ?)
そう言えばシリウスがその関係で国王陛下と共に行動するから今日が休日になったのだった、とアリシアは虚ろな頭で考えた。
「……行ってみようかな」
たまには気分転換も必要だ、と昔ティアラが言っていた気がして、アリシアは徐にワンピースを手に取った。




