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29・執事様とダイヤモンドの瞳(2)


―もう、どうするべきなのか分からない。


アリシアは眠れぬ夜を過ごした。

いくら眠気を感じて瞳を閉じても、昼間のことが浮かんできてしまうのだ。


―『三神眼は、ダイヤモンドの少女を探しているの』

―『ダイヤモンドの本当の力は〈術者の願いを叶える〉ことだ』


(なら、私が望めば…〈三神眼〉の人たちは私を探さないで、くれる…?)


しかし世界はそんなに甘いものだっただろうか。

世界を股にかけて一人の少女を探すような人たちだ。

アリシアが術を発動させる前に見つかって捕らえられるのがオチだろう。


(私、シルの隣にいたい…だけなのに…)


ぎゅっと握り締めた枕に、何度目か分からない染みが広がっていった。



▽▽▽▽


―アリシアの様子がおかしい


シリウスがそのことに気が付いたのは、入学から三日が経った頃だった。


「―でだなぁ。この魔術式を、こうやって展開すると炎系魔術に、反対に展開すると氷系魔術になるわけだ。この現象を…」


ディアンが説明をしながら綺麗な字を黒板に並べていく。

日常的に使われている魔術の意外な一面に、みんな興味津々で授業に聞き入っていた。

たった一人の少女を除いて。


「……」


アリシアだけはぼーっと星宝の説明が書かれたページを眺めていた。

十の魔眼の説明の隣には、ヴェルラキアどころか世界中誰でも知っている〈十人の騎士とダイヤモンドの姫〉の物語が書かれていた。


(…シア?どうしたんだ?)


シリウスがアリシアの異変に気が付いたのは偶々だった。

板書を取っているノートのページを捲ろうとしたとき、偶然隣の席で暗い顔をしているアリシアを見かけたのだ。

しかも開いているページは今授業で説明しているところではない、星宝のページ。

勉強が苦手でも一生懸命に努力をしているアリシアとしては珍しい姿だ。


(…そう言えば、最近元気が無いように感じる…。また何かに巻き込まれているのか…?それとも…)


シリウスは左のページを読むふりをしながら、思考にふける彼女の横顔を盗み見た。


いつも笑顔の絶えない顔には、隠し切れない隈が浮かんでおり心なしか顔色も悪いように思える。

何よりの問題は、自身に魔術をかけて隠しているにも関わらず、シリウスにそれを気づかせてしまったアリシアの魔術能力の低下だ。

本調子だったならばシリウスは一切気づけなかっただろう。

寝不足で魔力が低下している上、常に考え事をしているアリシアの魔術は穴だらけだ。


(…どうしたんだ?リーリア嬢の時だってこんなに憔悴していなかった…。もしかして、どこか体調が悪い、とか…?)


「シア?大丈夫?」


授業が一区切りしたのを見計らって、シリウスはアリシアに問い掛けた。


「…っ⁉あ…し、る…。は、はい。大丈夫、ですよ」


考えごとをしていたせいだろう。

急に現実に引き戻されたアリシアは困惑しながらも、シリウスへ不格好な笑みを浮かべた。


(…本当に、どうしたんだ?アリシアが公共の場で僕のことを〝シル〟って呼ぶなんて)


いつもならば絶対にしない失態だろうし、万一してしまっても直ぐ真っ青になって取り繕っただろう。

しかし、今のアリシアは自身の犯した失態に気づいた風もなく不健康そうな顔色で薄い笑顔を浮かべている。


「シア…」


辛いときは頼ってほしい。

いつか言ったその言葉が伝わるように、シリウスは少女の名前を呼んだ。


「―っ」


しかしアリシアは苦しそうな、悲しそうな…はたまた傷ついたような顔を一瞬浮かべて、俯いてしまった。


異常な輝きを放つ三色の瞳は、直ぐそこまで来ていた。







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