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28・執事様とダイヤモンドの瞳(1)


「……ぅ、っ…」


意識を失ったアリシアが目覚めたのは、もう日の沈んだ頃だった。


「わた、し…」


ベッドから上半身を起こした状態で、アリシアは自身の記憶を振り返る。


(確か、ディアンに学院へ来た理由を聞いていて…。そう〈三神眼〉って言う組織が私を――)


そこまで考えたところで、アリシアはひゅっと鋭く息をのんだ。


(そうだ。〈三神眼〉の目的は私…。でも、どうして?私なんかを探して、何がしたいの…?)


アリシアに出来ることと言えば、氷の魔術か〈精神操作〉、剣術と大食いくらいだ。


(〈精神操作〉が無くても、あの三人なら世界征服だって可能なはず。わざわざ私を探す必要なんて無いわ…)


考えれば考えるほど分からない。

アリシアはグルグルと回る思考を止める様に右目に手を当てた。


(〈星宝・ダイヤモンド〉…。どうして私なんかが持っているのかしら。ずっと思っていた。私にはもう〈サファイア〉って言う星宝があるのに)


真っ暗な部屋に明かりを灯すこともせず、アリシアは短くなった前髪をクシャリと握り締めた。

寝ている間に魔術が解けていたのか、今のアリシアは年相応の少女の姿をしていた。


『悩み事か?』


シンと静まり返った部屋に、柔らかな声が響いた。

それと同時に自身から発光しているのでは、と思うほど淡く輝いている青年の姿が現れた。


「レイデス…。あ、さっきはありがとう。レイデスが運んでくれたのでしょう?」

『あぁ。万一のことがあってはならぬからな。…それで、何を考えておったのだ?』


心配そうに首を傾げるレイデスに、アリシアは思わず呟いた。


「…どうして、私に〈ダイヤモンド〉があるのかな、って」


〝ミリ〟としての記憶を思い出す以前のアリシアは、とても傲慢で我儘放題な悪(幼)女だったし、ミリもミリとて愛を知らない捨て子だ。

かの物語の様な純粋で穢れを知らない王女とはほど遠い。それなのに、アリシアはその少女と同じ瞳を右目に有している。


『…星霊界の中ではな、その瞳は〈運命の瞳〉といわれておる』


レイデスは静かな声でそう切り出した。

ベッドの脇に腰かけたレイデスは、窓の外に浮かんでいる月をぼんやりと眺めていた。


「運命の…?」

『あぁ。これから先の未来を変える、運命の人。その人が有している瞳だと』

「…私が〈運命の人〉だって言うの?まさか」

『だが、お前には人とは違う()()があるだろ』


月からアリシアの瞳へと視線を移したレイデスが、困惑するアリシアを射貫くように言うた。

まさか誰かに気づかれていると思っていなかったアリシアは、戸惑いながらもこくりと頷く。


『その記憶のせいなのかは定かではない。だが、星宝ダイヤモンドの瞳は代々歴史に名を残してきた―いや、歴史を変えた者が持っていた瞳。それだけは確かだ』

「歴史を、変えた……」


無意識にアリシアの声が硬くなる。

ギュっとベッドのシーツを握りしめたアリシアに、レイデスはそっと頭を撫でながら優しい口調で言った。


『そう畏まらんでいい。だが、もう歴史は動き始めているぞ。その〈自身の願いを叶える瞳〉の力で』

「自身の願いを…かなえる……?」

『まさか。アリシア、知らんかったのか?〈星宝・ダイヤモンド〉は術者の願いを叶える()()()()だ』


レイデスは驚いたようにアリシアに言ったが、アリシア自身の驚きはそんなもんじゃなかった。

ずっと相手の精神を操作することがダイヤモンドの力だと思っていたのだから。


(まさか…力が違ったなんて…)


確かに〈術者の願いを叶える〉のがダイヤモンドの力なら、精神操作も力の一部に含まれている。


ただでさえ混乱していた頭に投げ込まれた特大の爆弾に、アリシアは何も言えずに黙りこくった。

彼女の様子を見てレイデスも状況を把握したのだろう、真紅の髪を最期にもう一度だけ撫で上げるとそっと立ち上がった。


『……ふむ。今はもう休むべきか。大分混乱しているようだしな』


ぐっと下唇を噛んで、アリシアは月の光で輝くレイデスの白緑の髪が風に攫われるのを眺めた。


『気負うことは無い。お前はお前の望むことをしろ。それだけだ。その瞳は本当に心の綺麗なものにしか与えられぬものだからな』

「…」

『ではの。また何かあったら呼べ』


アリシアは星屑が舞う様に消えていった青年の跡をぼんやりと眺めて、掌に力を込めた。


(私は、どうすれば…)


アリシアにはもう、どうするべきなのか分からなかった。







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