27・執事様と事情聴取(4)
「って、えええええええーーー⁉星霊王様ぁッ⁉どっ、どうして⁉」
そんな二人の様子を見ていたメルシュが教室を揺らすほどの大声で叫んだ。
元より丸い瞳をもっと大きく見開いた彼女の隣で、ディアンも同じような表情を浮かべアングリと口を開いていた。
「さ、さっき〝契約者〟とか言っていた、よね…?もしかしてシアの契約星霊って…」
「うむ。いかにも。我がアリシアの契約星霊である」
「え、アリシア…?それが本名…?ってそうじゃなくて、やっぱりそうだったの⁉前代未聞だよ‼星霊王と契約するなんて!」
あまりの衝撃的な事実に敬語も忘れて、メルシュはレイデスへ身を乗り出した。
「ふむ、確かに我はあまり人の子と契約することはないがな」
対してレイデスは取り乱すことなく呑気に答えた。
気を失っているアリシアを大事そうに抱きしめ直すと、レイデスは転移魔術の魔術式を展開した。
魔力を練る前に思い出したかのようにレイデスはメルシュへ告げた。
「―っと、このことは金髪の少年たちには黙っていてくれると助かる」
「別にかまわな…かまいませんけど、どうして」
冷静になって初めて自身が敬語を外していることに気が付いたらしいメルシュが、レイデスに聞き返した。
「こいつも色々と抱えておるのだ。これ以上の刺激は負担になる」
「負担…。そう言えば、どうしてダイヤモンドの話をしたときあんな…。―っ、もしかして」
はっと何かに気がついたようにメルシュはレイデスへ顔を上げた。
「あぁ、アリシアはダイヤモンドの少女について知っている」
「「―っ」」
ずっと欲しかった少女の情報に、ディアンとメルシュが息をのんだ。
「これ以上は我からは言えん。これからもアリシアを頼むぞ」
レイデスはそう言って練って置いた転移魔術を発動させ、アリシアと共にクラスから姿を消した。
「…まさか、ルシアがダイヤモンドの子について知っているなんて!」
メルシュは暗闇の中、僅かに差した希望の光に興奮を抑えられなかった。
〈三神眼〉の活動が始まり問題となってから、もう一年以上メルシュはこの事件に付きっきりだった。
始まりはローズィリスの国民にダイヤモンドの少女についての情報を探る程度のものだったが、それが段々と暴力化しついには何人かの人間に大怪我を負わせている。
何故ダイヤモンドの少女を探しているのかも、探して何がしたいのかも分からないが、彼らの被害が拡大する前に何としても止めなくてはいけない。今ならば未だ間に合うのだ。一度人を殺めてしまったら戻れない。けれど、彼らはギリギリ人は殺していない。
つまり彼らがその異常な力で多くの人を虐殺する前に、武力でも交渉でもなんでもして彼らの力を削ぐ必要があるのだ。
しかし、中々彼らの情報というのは手に入らない。
拠点の場所も、目的も、人数さえも。些細なことでさえ掴めなかった。
そして、もうどんな情報でもいいから欲しいと思っていた矢先、三神眼がヴェルラキア王国に手を出し始めたという話が入ってきた。
お手上げ状態だった裏組はその情報を頼りに捜査を開始し、メルシュは学生として、ディアンは教師としてこの学院に入り込んだ。王立の学院は政府とのつながりも濃いが、あまり危険視されない。まさに彼らの盲点である。平民に紛れ込んで調べるよりも断然有利と言えよう。
そして潜入初日にアリシアとダイヤモンドの少女につながりがある事が分かった。寝ても覚めても三神眼と戦い続けてきたメルシュの喜びは底知れない。
―しかし、ディアンの表情は硬かった。
「…いや、あんまり当てにしない方がいいかもしれん」
「え、どうして?」
「名前を聞いただけで、あんなに取り乱したんだ。とても冷静に情報を聞けるとは思えない」
メルシュ程ではないが、ディアンも〈三神眼〉という不気味な組織の調査に疲弊している。そんなディアンのことを分かっているからだろう、メルシュも表情を強張らせて言う。
「…それは、確かに」
「アイツは何を知っているんだ―――?」
ディアンの硬い声が、傾いてきた日の差す教室に響いていた。




