25・執事様と事情聴取(2)
「まぁ。だって手をつないだだけで私が女だってわかるような子に、幻覚魔術が効くとも思えないしね。あの時、本当は確信していたんでしょう?」
アリシアは男らしさを意識していた口調から一転させ、本来の少女らしい柔らかな口調を意識してメルシュへ問いかけた。
「うん、まぁね。元から魔術が発動しているのは気配で分かっていたし、何より元の骨格が細すぎるからね」
「やっぱり、いつまでも男のままじゃいられない、か」
朝から考えていたことを、改めて実感させられる。アリシアはどこまで行っても少女であり、少年にはなり得ないのだと。…いつまでもこのままではいられないのだと。
ボソリと呟いた彼女の言葉が聞き取れなかったらしい留学生は、さらりと茶髪を流しながら首を傾げた。
「ん、何か言った?」
「ううん。それよりも、話を戻そうか」
「あ、そーだね!それで何の話だっけ?」
すっかり別のことに気を取られて本題を忘れているメルシュに苦笑して、アリシアは言う。
「確か、相手の名前が〈三神眼〉ってところまで」
「そうそう。それで、ボクがアイツらに三神眼だって認められていないところまで言ったよね」
確かめる様に問うたメルシュに、アリシアは一つ頷いて先を促す。
「ボクの星宝〈ブロンド〉の主な力は未来予知。魔術を行使すると〈今〉のまま進んだ、自身に関わる未来がぼんやりと見られる」
「〈今〉のまま進んだ‥?」
メルシュの特殊な言い方にアリシアは眉を寄せてオウム返しにした。
「そう。例えば、ボクが五分後に転んじゃうとするよ~?でもボクが未来予知でそれを知っていたら、それを回避する術はいくらでもある」
「そうだね。そもそも動かなければいいし、もし必要なら転移すればいい」
「そういうこと。だからボクの予知は、未来を知らないままの〈今〉から進んだ未来になるの。未来はいくらでも変わってしまうから」
メルシュの言いたいことが何となくわかった。確かに未来を知らないままの未来と未来を知ってしまった後の未来は大きくずれが生じるだろう。
納得したように頷いたアリシアは、ふと思い出して言う。
「理屈は分かったけど…でも、それと〈三神眼〉がどうつながるの?」
「ボクの力は使い方によっては絶対的なモノになる。…でも、自分で見たい未来をコントロールするのは至難の業だし、ほぼ不可能に近い。その上、未来はいくらでも変わってしまう、となる」
(えーっと…。つまり、自分じゃ未来予知の力をうまくコントロールできていないってことだよね?しかも、上手く行っても未来は変わってしまう…)
メルシュの言葉の意図を探ろうとアリシアは精一杯頭を働かせる。
そして何とか一つの答えにたどり着いた。
「つまり…星宝〈ゴールド〉や〈シルバー〉よりも絶対的な力ではない、と?」
「そう。だからあいつらはボクのことを〈三神眼〉の一員だと認めていない」
どうやらアリシアの答えは当たっていたらしい。しかし、そうなると三人目は誰になるのか。本日何度目か知らない疑問をメルシュへ問いかけた。
「じゃあ、誰が…」
「〈星宝・アメジスト〉だよ」
「アメジスト…?確か、全属性使いの」
「そう。時間停止、魔術無効化、そして魔術全属性使い。そんな異常な三人のグループをアイツら自身〈三神眼〉って呼んでる」
改めて聞くと敵の異常さがわかる。
たったそれだけのメンバーでも計画次第によっては世界征服だって可能な面子だ。
最初にディアンが言っていた『たとえ星宝持ちでも危険だ』の意味が初めて分かった。普通の星宝では神眼には遠く及ばない。
「……そんな人たちを集めて、何をしたいの」
無意識の内に身体が強張るのを遠くで感じながら、メルシュの言葉を待った。
「アイツらは、世界を巻き込んで人を―少女を探しているみたいなの」
「……少女?」
自身の鼓動が嫌に大きく聞こえる。全身が変に強く脈打っている上に、背中は冷や汗で冷たくなっている。
「うん。〈星宝・ダイヤモンド〉を持った少女のこと」




