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24・執事様と事情聴取(1)


「それで?これはどういうことなのか、聞いてもいい?」


全てが終わり、放課後。用事があるからと三人と別れたアリシアは、飄々としているディアンの襟首を捉えて空き教室に押し込んだ。

『聞いてもいい?』と言っている癖に、アリシアの瞳にはハイライトが無く表情と反対に全く笑っていない。有無を言わせず、全てを吐かせるつもりらしい。


「どういうことか、って聞かれてもなぁ〜。教室でも説明した通り、訳あってこっちに…」

「だから。その〝訳〟がなんなのか、って聞いているんだけど」


アリシアの言いたいことなど分かっているはずなのに敢えて誤魔化そうとする彼に、少女の苛立ちはどんどん募っていく。


「あ‶ー!だからな⁉︎これは…」


ガリガリと乱暴に頭をかいて、ディアンはアリシアから目を背けた。

そんな彼を鋭い青眼で見つめていたアリシアは、ずっと心の中で考えていた〈可能性〉について青年に問い掛けた。


「もしかして『メルシュ』って子、あなたの味方?」

「…っ!」

「…やっぱりね。あの子の持っているオーラと瞳は只者じゃない」


目を見開いて言葉に詰まったディアンの反応を、是ととらえたアリシアは彼から視線を逸らして窓越しの空を見つめた。


公爵令嬢とは思えないほど、多くの死線を潜り抜けてきたアリシアだからこそ分かる。〈彼女〉は自身と同類であり、心の奥に激情を秘めている爆弾であるのだと。


「…そこまで分かるのか…」


アリシアの鋭い一撃を受けたディアンは、呆れを通り越して苦笑を浮かべた。諦めにも似たような声を聞いた少女は空からディアンへと視線を戻してニヤリと笑った。


「まぁ。半分は勘だし、確証はなかったんだけどさ」

「…その通りだ。あいつは俺の仲間で、ローズィリス(うち)の阿呆がそっちに手ェ出そうとしているみてェだから調査に来た訳だ」


頭を掻きながらそういうディアンに、アリシアは再び目を細めて鋭く言い放った。


「貴方がわざわざ?」

「……何が聞きたいんだ?」


もう大枠を理解し始めているアリシアに対し、これ以上踏み込ませまいとディアンも鋭く問い返した。綺麗に整えられた教室内が、たった二人の圧でビリビリと音を立てそうだ。


「私はね、主と仲間の幸せのためにしか動かないつもりでいる。なぜならこの世界には問題なんて吐いて捨てるほどあって、どうしても私の手だけじゃ足りないからよ。…でも、貴方が関わっているこの事件は私が動くべき案件であると判断する」


真剣な眼差しでディアンを諭すようにゆったりと言うアリシアに、彼はグッと言葉を詰まらせた。


「私あなたを仲間だと思っているし、大切な友人だと…守り合うべき、大切な人だと思っている。…だから話して」


彼女をこれ以上危険な目に遭わせたくないと心から思っていたのだが、どうやら今回も彼の負けのようだ。

ディアンは大きなため息を一つついて、戦場に立つ者の凛々しい顔立ちへと変えた。


「…本当、お前には敵わねェな。いいぜ、こっちだって駒は多いに越したことはない。―が、これは相当危険だ。お前ら〈星宝〉持ちにとってもな」

「いいよ。主の生活の安全を守るのも、執事の仕事のうちだもの」


やっと話す気になったディアンの意味深な言葉に、アリシアは不敵な笑みで応戦する。


「オッケー。じゃあどこから始めるかな」

「そうだね…。じゃあまず、相手の名前は?」


これから話していく上で必要になってくるであろう呼び名を決めるため、アリシアは彼に問いかけた。早速来た問題点となる質問に、ディアンは苦い笑いを浮かべる。


「あぁ…それなんだけどな。相手は〈三神眼〉って名乗ってる」

「三神眼?」


どこかで聞いたことあるような、その名前にアリシアは頭の上に疑問符をたくさん浮かべた。

知らなさそうに首を傾げる彼女にディアンは簡潔な説明をする。


「一般的に、星宝〈ゴールド〉〈シルバー〉〈ブロンズ〉のことだ」


なるほど、確かに教科書に書いてあった気がするぞ。とアリシアは納得し…再び疑問をもった。


「待って。〈星宝・ブロンズ〉は私の予想ではメルシュのはず。どうして」


アリシアは言葉を続けなかったが、ディアンは言いたいことがわかったらしい。どうして、味方であるはずのメルシュが敵の名前に入っているのか。

真剣な瞳でディアンを見つめるアリシアを裏切り、その質問に答えたのは先まで空き教室にいなかった、能天気な声だった。


「それはねー、アイツらがボクのことを〈三神眼〉に入れていないからだよっ!おねーちゃん!」

「メルシュ⁉︎」


急な登場に驚くアリシアを置いて、茶色のツインテールを靡かせた彼女はディアンの傍へとストンと舞い降りた。


(完全に気配がしなかった…。やっぱりこの子、只者じゃない)


今まで戦った人物の中でも彼女は上位に入るほどの実力の持ち主だ。少女から感じる魔力量はアリシアほど多くないが、気配の絶ち方と軽やかな動きはきっと彼女の武器になる。

アリシアが一人戦いて冷や汗を流している間、メルシュとディアンは呑気に話していた。


「よォ、遅かったな」

「あぁ、ちょっと絡まれちゃってね。いや〜、貴族令嬢っていうのは本当面倒な子ばかりだよ」


どうやらメルシュが遅れた理由は一組に入れなかった貴族令嬢に絡まれていたかららしい。それ自体さして珍しいことでもない。

というか、アリシアにとっては日常茶飯事だ。実際アリシアも王宮で執事をしているとき、何回もその現場に居合わせていた。無論、可愛い子が好きなアリシアはその度に絡まれている少女を助けてやるが。


早くなった鼓動をようやく落ち着かせたアリシアは、メルシュがチラリとこちらを向いたのを見て瞳を瞬かせた。


「まぁ、一部そんなこともない子はいるみたいだけど。…その子でしょ。ディアン様のいう〈相棒〉」


ニヤリと笑ってメルシュが言った。

その言葉にディアンは顔を紅潮させ、調子を取り戻していたアリシアは平静と答えた。


「なっ…!」

「うん。多分だけど、そうだね。私とディアンは相棒って感じかも」


自分と同じ感覚をディアンも持っていてくれたことが少し嬉しくなり、ニコリと笑ったアリシアが意地悪そうな顔をするメルシュへいう。

そんな彼女の様子に「なーんだ、つまんないの」といったメルシュは「そういえば」と首を傾げて言う。


「さっき私が『おねーちゃん』って言ったことは突っ込まないんだ?」





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