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23・執事様と一組の生徒たち(3)


「おー。全員揃ってるかー?」


これからの行動とメルシュに対するある程度の考えがまとまったところで、扉が開く音と共に気怠そうな声がクラスに響いた。ザワザワとしていたクラスは一気に静かになり、一組の担任教師であるらしいその人へ注目した。

アリシアも何となくそちらへ視線を向け、ついていた頬杖からガクッと顔を落とした。


「「「えっ⁉」」」


全ての生徒が〈彼〉の存在に吃驚し、困惑する。一度は静かになった教室に生徒の呟きが溢れ出す。

しかし、当の本人ははそんな生徒を気にもせず呑気に言う。


「席に着け、お前ら。オリエンテーションを始めるぞ」



▽▽▽



―何故、隣国の英雄がここに?

そんなクラス全員の困惑を置いて、彼―ディアンはクラスを見渡した。


「これから一年、一組の担当になったディアン=フィア・ドラストエードだ。籍はローズィリスだが、ワケあってここで働くことになった。よろしく」


ニヤリと笑うディアンを、困惑している生徒の一人であるアリシアは半目になって睨んだ。


(私、なにも聞かされていないんですけど…)


ディアンとアリシアは〈悪友〉というのが最も当てはまるであろう関係だ。ディアンがアリシアをどう思っているか知らないが、せめてでもアリシアはディアンを仲間の一人だと認識していた。

だからこそ、流し目でアリシアを見て『どっきり大成功』とばかりに笑うディアンにアリシアは青筋を立てていた。


(うざぁ…絶対後で一発殴る)


ピクリと痙攣させた頬を頬杖をついていた掌で隠し、まるで獲物を狙う肉食獣の様な炎を瞳の奥に隠してアリシアは笑みを繕った。そんな零度の視線にビクリと肩を揺らして苦笑したディアンは、平静を繕ってチョークを持った手で黒髪の少年を指した。


「んじゃ、そっちの端から一人ずつ自己紹介していって。あー‥、名前と得意魔術、それから趣味くらいでいいや」


「ほれ」と再び指された少年が、分厚い本を脇に置いて渋々と立ち上がる。


「オレの名前は、ミゲル=ファラストン。得意魔術は〈闇〉。趣味は魔術の研究」


長い黒髪を後ろで一つに纏めたままの少年が、長い魔術師ローブの裾で顔を隠しながら言うた。ギロリと辺りを睨む瞳はこの国で珍しい黒眼をしている。


(あれ…あの少年、どこかで…)


そんな彼のオーラに何かを察知したアリシアが、その正体を探そうと少年を凝視する。

むむむ…と目を凝らす彼女の隣で、驚いたような呟きが届いた。


「彼、魔術師団長の息子さんだね。黒髪がそっくりだ」

「あぁ!髪の毛が心配な、あの!なるほど、確かに似ています」


違和感の正体はそれだったのか、とポンと手を打ったアリシアにシリウスの向こうにいたカイルが苦言を呈した。


「その覚え方はどうなんだ…?じゃなくて。ファラストン伯爵家の嫡男と言ったら、星宝持ちですよね」


確認を取るように問うたカイルへ、シリウスは「うん」と頷いて続けた。


「彼が持っているのは星宝オニキス。〈闇〉に強い加護を与える星宝だね」

「へぇ~」


シリウスから噂の少年―ミゲルへと視線を戻したアリシアは、分厚い本の文字を追っている黒い瞳をじっと見つめた。


「よーし、じゃあ次だ」


次にディアンが指名したのは、ミゲルの一つ前の席に座っていたリーリアだ。


「はっ、はいっ!わ、私はリーリア=ヴィリグラスです。得意魔術は〈水〉。趣味は花の栽培です。よ、よろしくお願いします!」


ディアンに指名されたリーリアがピョンと立ち上がり、勢いよく礼をした。それを彼女の隣でニコニコと眺めていたメルシュが、ディアンの合図と共に立ち上がる。


「はいはーい!さっき聞いていた人もいるかもだけど、ボクはメルシュ=フィラストナ。ローズィリスから留学に来ていまーす。得意魔術は〈風〉。趣味は占いだよ!よろしくね」


とても令嬢令息に対する挨拶とは思えないが、それがいかにも彼女らしい。

アリシアが苦笑して眺めている内に、自己紹介は次の人へと移っていた。


(あれ…彼女。見たことあるような気が…)


次に立ち上がったのは金髪ロールの高潔そうな美少女だった。鋭い双眼は蒼に近い緑をしており、髪飾りの赤薔薇がとても良く似合っている。


(っあ!あの人、イリアス様だ!私のライバルとして、シリウス様を取り合う子!)


いつか画面越しに眺めた少女が扇子で口元を隠し、アリシアの推測に答え合わせをするように口を開いた。


「ふんっ。私の名前は、イリアシェル=ヴィンパールですわ。得意魔術は〈火〉。趣味はダンスですの」


(おおおお!本物だっ。お人形さんみたいな子だなぁ~)


ぼーっとイリアシェルを眺めるアリシアは、隣で苦笑する三人に気づくことなく少女の前の席に座っていた少年へと視線を移した。


「俺はシオン=ウィルソン。得意魔術は〈電気〉。趣味は槍の鍛錬だ」


趣味の通り、少年の隣には銀に光る大きな槍があった。きらりと光る先端は令嬢たちに恐怖を与えるほどに鋭い。それにオリバーには劣る者のものの、少年の体つきはがっしりとしており未だ十五歳だということを忘れるほど完成しているように見える。


それに気が付いたのであろうオリバーが「おぉ」と零し、アリシアは「私も槍をやってみたいなぁ」と呑気に思っていた。

そんな中、次に立ち上がったのは赤褐色の髪をしたチャラそうな男子だ。


「俺の名前はケイン=グノスハード。得意魔術は〈風〉。趣味は…特にないかな。よろしく」


ニコリと笑う姿はとても様になっており、思わず見惚れてしまう程に整っていたが、対してまるで中身が無いようにも思えた。後ろで短く結んでいる髪と言い、着崩した制服と言い、女慣れした口調や雰囲気といい、どれを取っても軽そうだ。


それでもアリシアは他の三人と同じように苦笑を零すのではなく、じっとその少年の紺碧の瞳を眺めていた。

そうしているうちに、自己紹介はオリバーへと移った。


「俺の名前はオリバー=ルードリアンっス。得意魔術は〈大地〉。趣味は剣の鍛錬っスね」


遠くで槍使いの少年―シオンが憧れの瞳でオリバーを見ているのに気が付き、アリシアとシリウスは目を合わせて微笑する。

オリバーが席に着くのと同時に、隣に座っていたカイルが立ち上がる。


「私の名前はカイル=アンドロス。得意魔術は〈聖〉。趣味は、読書ですね。一年間よろしくおねがいします」


外向き用の言葉で早々に自己紹介を終わらせたカイルに続くように、アリシアの隣に座っていたシリウスが立ち上がった。


「僕の名前はシリウス=ヴァン=ヴェルラキア。得意魔術は〈炎〉で、趣味は市井について知ること。あんまり構えないでくれると嬉しいな」


敬語だというのに圧のある、プライベートとは異なる口調で挨拶をしたカイルとは異なり、優しい口調にも関わらず威厳を感じさせる声で挨拶をしたシリウスが教室を見渡してニコリと微笑む。

アリシアは彼の笑みでリーリアとイリアシェルの頬が紅潮したのを見、心にモヤが広がるのを感じ眉を寄せた。しかしディアンの合図があると直ぐに笑みを張り付けて、立ち上がる。


「初めまして、私はルシアと申します。シリウス様の専属執事をやっておりますが、貴族の一員として学院に通うことになりました。得意魔術は〈氷〉で、趣味は…えっと……」


何も考えていなかったせいで、上手いものが思い浮かばない。十の視線がこちらに向くのを感じながら、アリシアは精一杯頭を働かせていた。


(つまみ食いって言っちゃダメだよね。じゃあ、町で食べ歩き?それも変わらない気が…。えっと…、何か、無いかなぁ…?)


「あっ、と…りょ、旅行です。みなさんよりも二歳年下になりますが、仲良くしてくださると嬉しいです」


旅行、というよりは冒険活動が好きなのだが、渾身の笑顔で誤魔化しアリシアは席に着く。

その様子を見ていたディアンが一つ頷いて、教室全員へと告げた。


「全員仲良くしろよー。面倒事はこりごりだからな。…じゃ、これからの予定について説明するぞ」




〈一年一組の生徒たち―〉


・イリアシェル=ヴィンパール(公爵)

ゲームの中ではアリシアと敵対する令嬢として描かれていた。現在はルシアに憧れているが、シリウスの婚約者候補としても結構有力。そんな中で、シオンと幼馴染という関係も持っている。金髪蒼眼の美少女。

9話にちらっと出てきた以降二度目の登場。


・シオン=ウィルソン(侯爵)

槍使いの少年。騎士を目指している。イリアシェルとは幼い頃からの付き合いで、お互い気になっているのだが進展はなし。灰色の髪と藍色の瞳。


・ケイン=グノスハード(伯爵)

チャラそうな見た目の少年。趣味は無し、と答えたが女遊びが趣味。と言っても決して一線は超えない。赤褐色の瞳に紺碧の瞳をした美少年。


・メルシュ=フィラストナ(留学生)

ローズィリスから留学に来ている。茶髪銅眼の童顔の子。アリシアが気にしている。


・アリシア=スピネル

・シリウス=ウィル=ヴェルラキア

・オリバー=ルードリアン

・カイル=アンドロス

・リーリア=ヴィリグラス

〇ディアン=フィア・ドラストエード

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