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22・執事様と一組の生徒たち(2)

「リリィ嬢」


困ったように眉を下げたアリシアは、少女の圧に負けて半泣きになっている友人に向かって声を掛けた。


「…っ、あ!シア様!」


アリシアを見るなりパッと顔を輝かせる少女は、リーリア=ヴィリグラス公爵令嬢。


五年前、辺境伯爵の元で虐待を受けていた元辺境伯令嬢だ。アリシアとはお茶会で偶然出会い、虐待に気がついた彼女が救出したのだ。そのためか今、リーリアはアリシアを盲目的に信仰している面がある。アリシアとしては前世の妹と似ていたから助けただけだったのだが。


「久しぶりですね。元気でしたか」

「はいっ!シア様もお変わりないようで」


キラキラと瞳を輝かせるリーリアを愛おしそうに見返しながら、アリシアは例の少女へと視線を移した。


「……だれ?」


少女はコテンと首を傾げて、アリシアをじっと見つめる。

遠くから見ても目立っていた童顔が、近づくことで更にはっきり見える様になった。パッチリとした銅色の瞳と、二つに結んだ同色の髪。一般的に見ても可愛らしい容姿をしているが、その幼い顔立ちゆえに恋愛対象というよりかは可愛い親戚の妹の様に見えてしまう。更にはどう頑張っても十五歳には見えない容姿が、先の幼い仕草によってさらに幼く見える始末だ。少女がアリシアを見る瞳も、会話を邪魔された不快感や相手に対する警戒心は皆無で、純粋な疑問のみが支配していた。これでは本当に穢れを知らぬ幼子の様である。

そして何を思ったか、アリシアも少女の銅色の瞳を無言でじっと見つめ返す。

ただ無言で見つめ合う二人の様子に、アリシアの後ろでその様子を見守っていたシリウス達は不思議そうに顔を見合わせて肩をすくめた。


「……不思議な瞳をしていますね」


ポツリ、とアリシアが零した。

それは誰に聞かせるでもなく、ただ思考の内から漏れてしまったようで、近くにいた誰にも聞こえることは無く消えていく。

だが、アリシアは口に出してしまったことで思考の波から意識が戻ってきたらしく、改めて少女へニコリと微笑んだ。

その様子に少女もパチクリと瞳を瞬かせて、意識を戻した。


「初めまして、お嬢様。私はシリウス王太子様付き執事をやっております、ルシアと申します。不躾に見つめてしまったこと、お詫び申し上げます」

「…へぇ。キミ、執事サマだったんだね。なんかとっても不思議なオーラしてるから、てっきり護衛なのかと」


恭しく頭を垂れて謝罪するアリシアを手で止めながら、少女は二パッと無邪気に笑いながら言う。そして、「あ、自己紹介がまだだったね」と付け足した。


「ボクは、メルシュ=フィラストナ。ローズィリス王国から留学に来たんだ。仲良くしてね」


メルシュはアリシアへ右手を差し出し、アリシアもそれにこたえる様に手を添えた。


「うわぉ、キミって女の子みたいに繊細な手してるね!」


ギュっと握手を交わす手を握りしめたメルシュが感心したようにアリシアへ言う。


「えっ……」


そんなことを言われると思っていなかったアリシアは困惑しながら、頭をフル回転させる。

取り敢えず、と何とか冷静さを取り戻したアリシアはゆったりと口を開きかけ、一つの声に遮られた。


「シア様に触りすぎです!いつまで手を繋いでいるのですか‼」

「えっ、リリィ嬢⁉」


メルシュとアリシアの間に身を乗り出して、リーリアは憤る。頬一杯に空気を詰め込み、真っ赤に紅潮させながら。


「あっ、ごめんね!リリィちゃん」

「リリィと呼んでいいのはシア様だけです!リアと呼んでください」

「あっ、うん。リアちゃん」


リーリアの様子にすっかり毒気を抜かれたアリシアは、てやわんやしている二人を横目にシリウス達の元へと戻る。


「お待たせしました、主」


いつの間にか席についてた彼へ挨拶をしてから、空いていたシリウスの隣の席に腰を下ろす。


「うん。……大丈夫だった?」

「はい……と言っても、調査は必要かもしれません」

「そうだね」


一部始終を見ていたシリウスがどこか深刻そうな顔で頷く。

それはアリシアが女だとバレたらもう共に過ごすことが出来なくなる故の顔なのか、相手がローズィリスの人間だからの顔なのかはわからないが、事態がよろしくないことだけはっきりとしていた。


(ローズィリスの留学生、か。後でディアンに会いに行くかね~)


未だメルシュを責めているリーリアを眺めながら、アリシアはぼーっと考えていた。





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