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デカメロンの日

作者: M六

「しかし人類の文明は進みすぎたんじゃないかね。社会もこの世界も複雑すぎて、およそ人間には理解することが出来ないよ」

 ユーチューバーが説明する陰謀論の動画を見ながらぼやいた私を見下して、

「あなたに理解することが出来ないだけじゃないの」と妻が呆れた口調で言った。


 せっかく皆引きこもっているのだから、オンライン飲み会で色々な人の話を聞いてみたら、と妻が言うので、それもそうかと思ってやってみることにした。オンライン会議用のアプリをインストールし、誰でも参加可能にした部屋を作り「お話しましょう!参加資格:我こそはと思う人」と書いて待っていると、瞬く間に10人の男女で埋まった。

「みんな暇なのね」と妻が言った。


 世間話をしながら順番に自己紹介をしてもらい、最後の人になった。

「私は同志を募っているのです」と彼は言った。歳は30を少し過ぎたくらいだろうか。20代にも見えなくもない。

「今回の疫病は悲惨ですが、地上に新たな知性を出現させるための契機にもなります」

「気ちがいだわ」

「もう少し聞いてみようよ」

 慄いている妻に私はわくわくしながら言った。

「インターネットが登場してから20年以上が経ちますが、これまで重要なことは何一つネット上では起きていません。グーグルは既にある知識を探しやすいだけの図書館、アマゾンは単なるスーパーマーケットですよ。どちらも現実に存在するものの、ちょっと便利な代替物に過ぎない。重要なことは全て、リアルの世界の中で、狭い部屋を共有する数人によって決められてきた。新しい知識も、インターネット上からは決して発生しなかった!知性というものは、小さな教室の黒板の前で、大学の実験室で、どこかのガレージで、2人か3人の身体を介して現出しているのですよ。今回重要なのは、全員が()()()()ネット上に移住させられたということです。数学者も、経営者も、技術者も、作家も、芸術家も、誰も彼もインターネット上に表現し議論する場所を求めざるを得ない。全ての人が書き、読み、話せる状態で一つの黒板の前で思考を行うのです。そして誰が書いたか、誰が言ったかも全て記録可能になる…特許や論文、小説といった生産単位が知的活動について存在するのは、その新規性に所有権を主張したいからですよ。もはや、任意の知性の活動はトレースとして記録され、その人の評価も自動的に定まる様になります。これからは全ての形が変わります。会社でもなく、大学でもなく、政府でもなく、ある種のコミュニティが最も力を持つようになる。それは()()()あらゆる組織の面を持った集まりです。会社であり、大学であり、政府であり、もしくは中世のギルドや教会の様でもある。それをコミュニティと呼ぶことすら正確ではないのかもしれません。全容を把握している人は誰もおらず、何人が参加しているのかも定かではない。何が実行されるのか、何が出てくるかも分からないし予測できません。ただ、世界は()()によって変わっていく。実際、()()は自発的に考え得るのです。私は人間以外の初めての知性を作ろうとしている。今は賛同してくれる人を集めているところです……」

「参加しようかな」

「離婚しようかしら」

 彼の演説中に一人また一人とミーティングを退出していき、結局彼と私と妻の3人だけとなった。

「どうでしょうか、名前も知らない方」

「残念ですが、今回は見送らせていただきます」

「新しい知性をインターネット上に生み出すところまでが人類の役割なのですが…」

「そうかもしれませんが、私には荷が重い気がします」

「分かりました。しかしあなたも()()()()には()()されることになるかと思いますので」

「なるほど、その時にはどうぞよろしくお願いします」

 私がそう言うと、彼は是非、と言いにっこりと笑ってミーティングから退出した。

「怖かったわね」

「いや、彼は案外的を得ているのかもしれないよ。これからはオンライン会議が増えるっていうのはその通りだと思うし…」

「私もパソコン教室に通おうかな」と妻が言うので、私は政府の助成金が下りているパソコン教室が近くにないか調べ始めた。

コロナで引きこもっている時に考えたことをショートショートにしてみました。早く終息すると良いですね

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