ぼくとミャーコとおるすばん
絵本の原案として某賞に応募したものです。もったいない精神で投稿するので暇な方はよろしければ。
「ほんとうにだいじょうぶ?」
「うん、だってぼくもうおにいちゃんになるんだもん」
たーくんはおかあさんのことばに小さくうなずきました。今日ははじめておうちでおるすばんをする日なのです。
「あんしんしてください、ミャーコもいっしょにいますから!」
たーくんのとなりでくろねこのミャーコがむねをどんとたたきました。おかあさんはそれでもしんぱいそうなかおで、しらない人がきてもドアをあけちゃだめだからねと朝からもうなんども聞いた注意をのこして、出かけていきました。
「さあたーくん、何してあそぼうか!ボールあそび?つみき?ねこじゃらしもいいですねえ」
とびらがパタンととじたのと同時にミャーコはしっぽをぱたぱたさせていいました。たーくんと二人でたくさん遊べるこのおるすばんの日を、ミャーコはずっとまえから楽しみにしていたのです。けれどもたーくんはミャーコのことばには答えません。ふくのすそをぎゅっとにぎり、下をむいてだまっています。
「どうしたの?たーくん」
「ミャーコ……おかあさん、あとどのくらいでかえってくる?」
「どうでしょう、でもいまでかけたばっかりだから、もう少しさきじゃないかしら」
たーくんは先ほどよりもつよくすそをにぎりました。シワがよったせいで、むねのあたりにプリントされたニコちゃんマークが、なきそうなかおに変わります。
「もし、もしもさ、おかあさんいないあいだにこわいことがおきたらどうしよう」
「こわいことって?」
「えっと……たとえば、おおきなカイジュウがいえにきたりとか」
すこし前にみたテレビをおもいだしながらたーくんがいいました。がめんの中ではおおきくてごつごつしたカイジュウが火をふいていたのです。
「なあんだ、そんなこと!」
けれどもミャーコはわらっていいます。
「そんなカイジュウなんてね、ミャーコがすぐにやっつけてあげますよ。このするどいつめでガリっとね。そうすればそんなやつ、すぐににげだすにきまってる!」
ミャーコが両手をめいいっぱいにのばします。たしかにこのつめでひっかかれたら、カイジュウもいたくてにげだしてしまうかもしれません。
だけどたーくんはまだふあんそう。
「じゃあこわいユーレイがでてきたりとか。それだとミャーコのつめじゃあたおせないでしょ?」
「なあんだ、そんなこと!」
けれどもミャーコはわらっていいます。
「ユーレイなんかミャーコがすぐにおいかえしてあげますよ。このするどいきばでフシャーっといかくしてね。そうすればそんなやつ、すぐににげだすにきまってる!」
ミャーコがしっぽをさかだててきばをむき、こわあい声をだしました。たしかにこんなふうにいかくされたら、ユーレイもびっくりしてにげだすかもしれません。
だけどたーくんはまだふあんそう。
「じゃあじゃあ、かいぞくがせめてきたりしたら?たくさんぼうけんしてきたかいぞくなら、ミャーコのつめもきばもきっとへっちゃらだよ」
「なあんだ、そんなこと!」
またまたミャーコはわらっていいます。
「かいぞくをおいはらうのなんてね、いちばんかんたんなんですよ。せんちょうのぼうしをうばえばいいんです。そのぼうしをね、たーくんがかぶって、じぶんのふねにかえりなさいってみんなにめいれいすれば、かいぞくたちはすぐにかえっていきますよ」
たーくんはかいぞくたちにめいれいするじぶんをそうぞうして、くすりとわらいました。ミャーコはしっぽをぱたぱたしながらつづけます。
「きゅうけつきにはじゅうじかをみせればいいし、おにがきたらまめをぶつければいいし、ピーマンのおばけがでたらみじんぎりにして、ハンバーグにいれてたべちゃえばいい。ね、こわいことなんてなにもないでしょう」
たーくんはきゅうけつきやおにやおばけをおいはらうミャーコとじぶんのすがたをそうぞうして、だんだんたのしくなってきました。たしかにミャーコのいうとおり、こわいことなんてひとつもないかもしれないぞなんて、そんなきすらしてきます。
「じゃあさ、おおきなワンちゃんがきたらどうしようか!がおーっていえにはいってきたら、どうやっておいかえす?」
たーくんはわくわくしながらききました。けれどもミャーコはそれをきいたとたん、ぱたぱたうごかしていたしっぽをとめ、ぎゅっとまえあしであたまをかかえました。
「どうしたのミャーコ!」
「いぬはだめです、いぬだけは、ミャーコこわくておいかえせません……」
あたまもしっぽもまるめておおきなくろいけだまのようになり、ガタガタふるえるミャーコをみて、たーくんはひっしにかんがえました。どうしたらおおきなワンちゃんをおいかえすことができるかな、どうしたらミャーコをあんしんさせることができるかな。
「そうだ!」
ポンとひとつてをたたいて、たーくんはしんぶんをくるくるまるめはじめました。ほそながくまるめたものをひとつとくしゃくしゃにまるくしたものをふたつじゅんびして、テープでぺたぺたはりつけます。
「なにしてるの、たーくん」
「ちょっとまってね……できた!」
ぺたりとさいごのテープをはりつけて、たーくんはしんぶんしをミャーコのまえにおきました。ミャーコはまえあしのすきまからちらりとかおをだし、ふしぎそうにくびをかしげます。
「あのね、ワンちゃんはほねがすきでしょう?だからおおきいワンちゃんがいえにきたら、このほねのかたちのしんぶんしをなげて、そとにでていってもらえばいいんだよ!」
「なるほど!」
ミャーコはげんきよくたちあがりました。これでおおきないぬがやってきてもあんしんです。たーくんとミャーコがかおをみあわせてわらったそのとき、げんかんのほうでがちゃりとおとがなりました。ひとりといっぴきは、おもわずびくりとからだをかたまらせます。
「だいじょうぶだよ、たーくん。カイジュウやおばけがきたら、ミャーコがまもってあげますからね」
「だいじょうぶだよ、ミャーコ。おおきなワンちゃんがきたら、ぼくがおいかえしてあげるからね」
ゆっくりととびらがひらきます。そこからかおをだしたのは……
「おかあさん!」
たーくんはぎゅっとおかあさんにだきつきました。ミャーコもそのうしろでしっぽをぱたぱたふっています。
「あらまあ、たーくん。ただいま。おるすばんだいじょうぶだった?なにかこわいことはおきなかったかしら」
たーくんはミャーコと目をあわせ、おおきくうなずいていいました。
「うん!ぜーんぜん、だいじょうぶだったよ!」