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Nothing But Requiem 背眼の魔女  作者: Nothing But Requiem
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第三話『邂逅の詩』②

 不治の病から生還を果たした女子高生の真琴は、後遺症で人の心が読める『読心』の能力を手に入れる。家族や友人の心の声を聞いて傷つき、苦しむ真琴。そんな真琴はある日、妖しく輝く月の下で謎の美少女アリオと運命的な出会いを果たす──。今、魔女が暗躍する帝都に、再び魔銃『ブルトガング』の銃声が響き渡る。

×  ×  ×


 息を切らせて鉄塔の下まで来た真琴は人影を探した。しかし、鉄塔の上には最早それらしい人影は見えない。


──まさか、飛び降りたんじゃ……。


 一抹の不安が真琴の脳裏をよぎる。

 その時だった。


「誰かを探しているの?」


 突然にかけられた声にドキリとして真琴は足を止めた。

 声のした方を見ると、鉄塔の上部に設けられた踊り場に一人の少女が立っている。

 明るい栗色のロングヘアーに真琴と同じ御代高校の制服を着ていた。

 少女は意思の強そうな榛色の瞳で真琴を見つめていた。

 『何故、こんな所にわたしと同じ高校の子が!?』という疑問より、鉄塔の人影が気になった真琴は疑問を口にした。


「さっきまで鉄塔の最上部に人がいて……。慌てて駆け付けたんだ……」

「ああ……。ソレはわたくしよ。夜の街を観察していたの」

「か、観察って……」


 事も無げに言ってのける少女に真琴は言葉を失った。

 どうやって鉄塔に登り、こんな短時間でどうやって降りて来たのだろうか?

 ただ……。

 驚き、呆れる中で真琴はこの目の前の少女が『アリオ・トーマ・クルス』だという予感を感じていた。


「今、そちらへ行くわ」


 そう言うと、アリオは踊り場から身を乗り出して飛び降りた。

 ふわり。

 高所から真琴の眼前へと柔らかく着地するアリオ。

 身のこなし方から、アリオが抜群の運動神経を有しているとわかる。

 アリオはしげしげと真琴を見つめた。


「あなた……御代高校の制服を着ているところを見ると、同級生かしら? わたくしはアリオ・トーマ・クルス」

「あ、わたしは真琴。片桐真琴」

「へえ……あなたが?」


 意外そうに言うアリオは真琴を知っている様子だった。


「零から名前は聞いているわ。よろしく、真琴」

「よ、よろしく」

「こんな所で自己紹介するなんて、変な感じね」


 アリオは自分が起こした騒ぎなど、まるで意に介していない。


「アリオ、笑ってる場合じゃないよ。駅でも大騒ぎになってたんだ。警備の人に見つかったら補導されちゃうよ」

「それもそうね」


 そう言うと、アリオは線路脇に設置された扉に手をかけた。

 普段は施錠されているであろう重々しい鉄柵の扉が音もなく開く。


「行きましょう、真琴」


 アリオは真琴を促すと、扉の先へと姿を消した。慌てて真琴もアリオに続く。

 扉をくぐると、すぐに緊急時の非常階段があった。

 一番下まで降りると、そこは高架線の真下だった。

 人気のない寂し気な遊歩道が線路に沿って延々と続いている。


「この歩道を戻れば駅に戻れるわ」


 アリオの指さす方向を見ると、遠く駅の明かりが見える。

 帰路を指し示すとアリオは駅と反対方向へと歩き始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!」


 声に反応してアリオの足が止まった。


「アリオは……どうするの?」

「どうするって……。帰宅するわ」

「こんな時間に人気の無い場所を歩いてたら危ないよ」

「危ない? このわたくしが?」


 アリオは小気味良いとばかりに笑った。


「ご忠告、有難う。感謝致しますわ。でも、心配なさらなくて結構よ」


 心配などまるで無用とばかりの言い草だった。

 アリオは再び歩き始めた。


「だから待って!!」

「……まだ何かご用?」

「わたしも……途中までアリオと一緒に帰るよ」

「……」


 真琴は異国からやって来たという貴族令嬢を心配していた。それこそ、『エリオット』が追いかけている連続少女誘拐事件だって起きているのだ。自分はアリオを送り届けた後、迎えの車を寄越してもらえば良い。

 真琴の申し出にアリオは感心した様子だった。


「エスコートしてくださるなんて、片桐商事のお嬢様は紳士的ですのね」

「……女だけどね」

「そうでしたわね」


 クスクスと笑うと、アリオは再び歩き始めた。真琴もアリオに並んで歩く。

 考えてみれば、誰かと一緒に帰る事は真琴にとって初めての事だった。

 友人の居ない真琴は誰かと一緒に登下校をした事が無い。

 雅と共に登下校が出来たならどれほど楽しいだろう。と、考えた事はあるが、それは絶対に叶わない夢だ。

 計らずもアリオを送り届ける事になったが、真琴は新鮮な気持ちになり、少し嬉しかった。

 ただ……。

 初めての経験に緊張し、何を話して良いのか全く見当がつかない。



第三話『邂逅の詩』③

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